96話 新年の挨拶廻り
翌日。
今日はオの国での新年パーティーだ。
「ふふふ、今日のパーティーは楽しみじゃな。ファルス。」
「そうですね。」
「なにかあるのか?」
クリスの今日のドレスは昨日のドレスより暗めの、落ち着いた赤のドレスだ。
リサのドレスは紺色のドレス。
二人とも生地が厚めで、影が色濃く、明るい部分の色が際立つようになっている。
俺の服も少し暗めの赤。クリスとお揃いだ。
「もちろんですよ。先日の決闘の話で持ちきりですからね。
今日は会う人全員から説明をせがまれ、質問を受け、決闘を申し込まれる、ことは無いでしょうけど。」
そうだった。
◇
王宮入りした俺達は会場となる広間ではなく、アビー姫の茶室に通された。
アビー姫にはクリスがお相手を務める。
「クリス様、リサ様、カン様、ようこそいらっしゃいました。」
「アビー姫、新たなる年に大神ゴメスの光の下、女神アドニスの恵みがもたらされますように。」
「クリス様、皆様にオイゲン神のお導きを賜らんことを。」
「アビー姫、パーティー前に会えて良かった。」
「私もですわ。お兄様からの助言でしたのよ。クリス様たちが大勢いらっしゃる広間に入られると、先日の決闘の話を聞きたがる者の対応で苦慮されるでしょう?」
「ご配慮に感謝する、とフニオル王子にお伝えください。」
「伝えますわ。パーティーのお席も私のテーブルに用意させましたから、後ほど案内させますわね。」
「ありがとう。アビー姫。」
「では、後ほど広間でお会いいたしましょう。」
「あっ、アビー姫。渡したい手紙があるのじゃ、受けていただけないか。」
「まぁ、クリス様からのお手紙ですか! 何をお書きになられましたの?」
「私達は昨日、エの国の王都ミラルダで行われた新年の宴に出席しました。その時の出来事を書いた物です。フニオル王子、国王陛下にも同じものをご用意しました。」
クリスは3通の手紙をアビー姫に差し出す。
「判りました。父王とお兄様にお渡しいたしますわ。」
手紙を受け取ったアビー姫は女中達を伴って部屋を出て行く。
◇
新年パーティーが始まった。
国王ディエゴ=チェインの挨拶の後は、自由歓談の場となり、広間の中央では音楽に合わせてダンスを踊る者もいた。
俺たちはアビー姫と同じテーブルについたので、決闘の話を聞きたがる貴族達に囲まれる事はなかった。
順番に挨拶に来る貴族相手に、俺は同じ話を20数回するだけで済んだ。
2時間ほどで国王陛下退席となり、パーティーは終了した。
俺たちは女中に促され、アビー姫に続く形で広間から退室した。
◇
俺たちが通されたのは国王の執務室だ。
国王ディエゴ=チェインとフニオル王子が席に着く。
俺たちはテーブル前のソファに案内された。
部屋の中には他に執事のエルナンドがいる。
国王とフニオル王子はクリスが渡した手紙を読んでいる。
お互いの内容も相互に確認しているようだ。
一通り確認し終えると、フニオル王子がこちらのテーブルに来て、対面するソファに座った。
「時間を取らせてすまない。いただいた手紙の内容について確認させていただきたいと思ってね。」
「はい。」
「しかし、昨日の王都ミラルダでの話を聞けるとは、この速さは君達ならでは、だな。」
「はい。」
「うむ。情報は速さと正確さと量が重要だ。速さは申し分ない。
さて、正確さだが、手紙に書かれているユーリ新王の為さり様と貴族制廃止の言葉、これは真か。」
「はい。宴の席で王族と数人の貴族を処刑。それに続いて、貴族院の廃止と貴族制を廃するとのお言葉でした。」
「そうか。そして、これはウの国の内乱の引き金となった事案と一致するようだ、という訳だな。」
「そうです。」
「アビーにも同じ内容の手紙を渡したのであるか?」
「いいえ、アビー姫にはユーリ新王の即位と貴族制の廃止、それに伴うエの国内乱発生の恐れについてのみ、お伝えしております。王族の処刑とウの国の件は伝えておりません。」
「クリス様、ご配慮いただきありがとう。あれには刺激が強い内容なのでな。しかし、ウの国の第三王子か。」
ウの国の第三王子といえば、アビー姫の文通相手としてその名が利用され、誘拐事件のきっかけとなった名前だ。
「カン殿、ウの国の情報は手に入るか。」
「まだ伝手はありません。ですので時間が掛かるとお考えください。どのような情報でしょう?」
「ウの国の内乱は収まったと聞いている。ならば、ウの国では本当に貴族がいなくなったのか。今の国づくりはどうやっているのか。」
「わかりました。可能な限り、ウの国の現状を見て、お伝えいたします。」
「うむ。エの国については内乱発生に警戒するように国境警備の者に伝える。避難民発生にも備えておこう。」
「はい。」
「陛下、ご用意はお済みですか。」
「うむ。今、書き終えた。エルナンド、これをフニオルに渡してくれ。」
「はっ。」
執事のエルナンドが国王陛下より手紙と皮袋を受け取り、テーブル横に来る。
その場に屈み、フニオル王子の前に手紙と皮袋を置いた。
エルナンドは一礼して下がる。
フニオル王子が手紙をリサの前に差し出す。
「リサ殿、こちらの手紙は国王ディエゴ=チェインよりエの国の新王ユーリ=ニコルフ2世陛下に宛てた親書になる。
以前のように国境で彼の国の兵に渡していただきたい。」
「お預かりします。」
「カン殿、こちらは今回の情報料、リサ殿の配達料、ウの国調査の為の前渡し金だ。収めてくれ。」
「頂戴します。」
◇
カッシーニ81、食堂。
俺はアレクとマルビンとベンソンの4人でテーブルを囲んでいる。
「という訳で、次はウの国に行くことになった。」
「話は聞いたが、それは外政部の仕事だろう。」
「もちろんそうだが。なんだ、一緒に行きたい奴がいると思ったんだが。」
「そういうことか。いつ行くんだ?」
「明日の朝0800に連絡艇で出る。王都スーザの位置は判っているからな。現地までは6時間の予定だ。新年のお祝いの挨拶ってことで謁見を申し入れる。あとは王都の散策と、可能ならレギウスの館になりそうな家を探そう。」
「わかった。はったりの人数が必要なんだな。何人連れて行きたい?」
「こっちは俺とクリスとリサの3人だ。あと3人ぐらいかな。」
「なら、俺たち3人が行こう。」
「よろしく。」
興味深い話を持ち込んだ結果、今日の成績は2位で終わった。
◇
「まったく、ファルスに任せると男しか選ばんとは。」
「いや、選んだのはアレクだ。」
「はったり要員なら、ガタイの良い男が並べば良いと思ったんだ。ファルスも反対しなかっただろう。」
「はったりでなく、カード要員ですね。」
「そうですよ。挨拶に行くなら華が必要ですよ、アレク班長。」
ウの国へ向かう連絡艇。
メンバーは以下の8名。
外政部
ファルス=カン(33)
クリスティン=サワー(23)
リサ=メンフィス(23)
生産部 第一班
アレクサンデル=シャトフ(32)
マルビン=ナルティア兵長(25)
ベンソン一等兵(24)
ロッテ=ビスト一等兵(20)
シャーリー=ローゼンガー一等兵(20)
「サラはこなかったのか?」
「サラ伍長はジェリー副班長のリハビリのお手伝いですよ。」
「なるほど。」
◇
王都スーザ。
街を囲む城壁はなく、街道に衛兵詰め所が建っている。
街に入る人や荷馬車は立ち止まることもなく進んで行くが、街を出る馬車や荷馬車は荷物を検められる様だ。
街道脇に連絡艇を降ろした俺たちは少し街道を歩き、衛兵詰め所の衛兵に話しかけた。
衛兵も道行く人々も、空から来た俺たちに視線が釘付けだ。
「おはよう。我々は月の人だ。国王陛下に新年の挨拶に伺った。案内してくれるか?」
「こ、国王陛下にご用でしたら、王城入口の衛兵にご用件をお伝え下さい。」
「では、我々はこのまま通っても良いのかな?」
「はい、どうぞ。」
通れ、と言われれば仕方ない。
俺たちは2列縦隊でそのまま街道から王都スーザの街中に入った。
この辺りはオの都や王都ミラルダより南にあるため、気温はレギウス村のように肌寒い。
街道脇の雪は足のすね辺りまで積もっている。
内乱の影響で食料難、という話だったが、店先には干し肉が並び、街の人々は普通に生活が出来ているようだ。
王城は街の東を流れる川沿いに建っている。
城門は開かれ、左右に衛兵が立っている。
「おはよう。我々は月の人だ。国王陛下に新年の挨拶に伺った。案内してくれるか?」
「陛下はご多忙であらせられる。詰め所にて用件と連絡先を記入し、ご案内あるまで待機せよ。」
俺は詰め所で差し出された連絡帳とやらに国王陛下への謁見希望と名前を記入した。
「連絡先、には何を書けばよいのだ?」
「旅の者か?宿泊先の宿の名前を書けばよいぞ。」
「いや、宿には止まらない。街の外で野宿しようと思っている。」
「そうなのか?うーん、それでは許可書が発行されたら此処で保管しておく。明日また参られよ。」
「明日、この時間でいいか?」
「好きな時間でよい。まぁ明日はまだ許可書は出ないだろうがな。」
「そうなのか?では、いつ頃許可されるのだ?」
「我々にも分からんよ。国王陛下はご多忙でな。ここ数日は許可書の発行も止まっている。ほら、570日に記入されている面会希望にも未だ許可が出ていないだろう。」
衛兵がめくったページの記入に対して、許可書確認欄は空白のままだ。
俺は詰め所を出た。
城門前から少し離れた所で円陣を組む。
「さて、どうしたものか。」
「何もせずに帰る訳にもいくまい。ファルス。」
「とりあえず、家でも探すか?」
「そうですねぇ。そうしたら連絡先も出来ますし、順番は変わりますが、挨拶前に活動を始めますか。」
「では、冒険者ギルドで登録して、家の確認をしましょう。」
「その前に、何か食べませんか?」
「あっ、さんせーい。」
次回97話「屋敷を買う」
即決現金買い!




