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第四惑星  作者: ブルーベリージャム
第四章 カルー少佐
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83話 食後のコーヒー

狼達の狙いは牛の群れだった。

俺たちは狼を6頭ほど倒して、残りを追い払い、牛1頭を仕留めさせてもらった。


「ファルス。妙な牛がいるぞ。」

クリスが群れの中の一頭を指し示す。

この群れの牛達は体毛が長く、乾いてふわふわとした見た目だ。

だが、その一頭だけは今まで川に浸かっていたように濡れている。

「あれは、ルーカスが言っていた水犬か。いや、水牛(ミズウシ)か。」


以前、ルーカスから若い頃の冒険話を聞いたことがある。

その中で出てきた、水の魔法を操る犬の話を思い出した。

その犬は水犬と呼ばれ、人馴れするので旅のお供にできれば、そのパーティーは水に困ることがなくなるので貴重な存在だという。

水牛も水犬と同じ濡れた長い毛の外見をしている。

おそらくこの群れの大切な水源なのだろう。


俺はクリスにその話を伝え、野営地へ向けて飛び立った。


◇


牛は角、蹄、骨、皮と素材としての用途があるのでなるべく傷つけずに丁寧にさばく。

内臓を穴の中に埋め、木に吊るしたまま血抜きをする。

血の匂いを周囲に漏らさないように風魔法を掛け、上昇気流に乗って匂いは上空へ逃げていく。


今夜は左後ろ足の肉を焼いて食べることにした。

エデルゥたちにも声を掛けたが、それはお前達の獲物だから、と遠慮されてしまった。

まぁ、慣れるのに少し時間が掛かるようだ。


◇


朝食はパンに牛肉のスライスを挟んだ物を食べた。

食後にカッシーニ81から持ち込んだコーヒーカップの蓋を開けて飲む。

ああ、こうして外で飲むのも良いものだ。

クリスはそんな俺をジッと見ている。

「旅に出ても毎日飲んでいる。そんなにコーヒーが好きだとは知らなかったぞ。ファルス。」

「ああ、俺も最近気が付いた。この地にコーヒーを飲む文化が無いと知った時にな。」

そう、エの国もオの国も、そしてウの国にもコーヒーは無い。

おそらくフォース族以外でこの苦味と酸味を理解できる種族はいないだろう。

なので、カッシーニ81のコーヒー在庫が尽きた時、俺はこの味を味わえなくなるのだ。


「む。この香りは。」

出発の準備をしていたエデルゥがフンフンと鼻を鳴らして匂いを嗅いでいる。

そして俺を、俺が持つカップを見た。

「月の人ファルスカン。それはコピィの実か?飲んでいるのか?」

「エデルゥ、この香りを知っているのか。」

「ああ知っているぞ。あれはギィ族の献上品であったな。マルクゥ。」

「ええ、そうです。南の部族ギィ族からの献上品にございました。

センデローズ様はお気に召さなかった物です。」

「うむ。私は気にいったが、母上は香りが酸っぱいと言ってたな。」


「む、エデルゥ。貴殿は部族長センデローズの子であったのか?」

「そうだ。月の人クリス。言ってなかったか?」

「そうであったか。聞いていなかったな。」

「まぁ、気にするな。今は案内人だからな。」


「エデルゥ。コピィの実について知っているか?それは南の地にあるのか?」

「そうだ。南の煙吹き山の麓でしか獲れない木の実だそうだ。

火であぶると良い香りがするということでギィ族から贈られたものだ。

母上は気に入らなかったので倉庫にしまわれたままとなっているな。おそらく。」


これは、重要な情報だ。

コピィの実がコーヒーの原料になれば、この地でもコーヒーが飲める。

南の地の煙吹き山。

もしかして、オウル村か?

北の大山脈の後は西に向かい、海岸に辿り着いたら、一度レギウス村へ戻る予定だ。

どうする?計画を変更するか?


「しかし、コピィの実を茶にして飲むとは知らなかったな。美味いのか?」

「ああ、美味いぞ。」

「待て、エデルゥ。その茶はコーヒーと言って、酸っぱくて苦い。

それを美味いと感じる者はいるが、まずいと感じる者もいる。

うちは、苦手じゃ。」

「そ、そうなのか。」

「まぁ、一口飲んで見ろ。」

俺はエデルゥにコーヒーのカップを差し出した。

エデルゥの手と口のサイズと比べると、カップが酷く小さく見える。

フンフン

エデルゥは改めて匂いを嗅ぐと、クイっとコーヒーを口に流し込んだ。

「む、ぐっ、ぐはぁ、」

ペッペッペッ

と、コーヒーを吐き出す。

「ぐううぅう、これは苦いな。」

ペッペッペッ。


「だから言ったではないか。ほら、これは水じゃ。口をすすぐが良い。」

クリスが差し出したコップを受け取り、一気に飲み干した。

「うむ。少しはましになった。ありがとう、月の人クリス。」

「いや、口をすすいで欲しかったのじゃが。もう一杯いるか?」

「ああ、いや、すまん大丈夫だ。

月の人ファルスカン。コーヒーは俺にはまずいな。よく飲めるな。」

「まぁ、よく言われるよ。」

俺はエデルゥが返してきた空のカップを背嚢に戻した。

そういえば、初めてママドゥ達がカッシーニ81に来た時も、コーヒーを吐き出していたな。


◇


4日目に北への街道に入った。

しばらく行くと大きめの池があり、エデルゥたちはこの池で魚を取るという。

"嵐"と"早風"の身体を洗いながら、彼らの漁が終わるのを待つ。

池の周囲には木々と様々な植物が生い茂っている。

俺とクリスは野菜や木の実の収集をした。


◇


道中はゴブリンや盗賊の襲撃もなく順調に進んだ。

そもそもベア族の盗賊はその存在自体が珍しいという。

彼らは単独で狩りができるし、木工細工も得意なので他人の物を奪う、という考えが薄いという。

「まぁ、それでも、たまに悪い考えをする者もいるがな。」

「俺とクリスがある村を通り抜ける時に、通行料を寄越せ、と言い寄られた。

部族長センデローズの客だと言って払わずにすんだが、これは悪いことか?」

エデルゥの顔は話の途中から渋い表情になっていた。

「なんという事だ。我が領地にそのような村があるとは。月の人ファルスカン、その村はどこにあった?」

「ああ、東の海にゴンジー村がある。その隣の村だ。ゴンジー村のママドゥもその隣村は問題視していた。」

「ゴンジー村の隣。」

「おそらくゲオル村かと。」

「ん、判った。覚えておこう。」


◇


丘陵と小川と池や湖の多い地方に入った。

街道も曲がりくねっている。

この辺りからがグリー族の土地だという。

春から夏に掛けては上質な木材を求めて行商の者が行き交う街道だが、冬の始まる時期は人影もまばらだ。


北への街道を進み、15日目。

「見えてきた。あの丘の先がグリー族の村だ。」

エデルゥの指し示す丘。

麓に数軒の家が立ち並ぶのが見えた。


◇


「むぅ、月の人。彼らが北の大山脈に向かうのか。」

「そうだ。ここにルゥ族部族長センデローズの手紙を持参している。グリー族部族長ウソエニに通行の許可をいただきたい。」

エデルゥから渡された手紙を持って守備隊の者が部族長の元へ向かった。

俺たちは村の広場で待つことになった。


しばらくして5人の兵士に囲まれて一人の男が広場にやって来た。

薄い水色の布の服に黄色の帯布を腰に巻いている。

周囲にいた守備隊も整列して迎える。

「おおぅ。センデローズの次男坊ではないか。大きくなったな。」

「お久し振りです。グリー族部族長ウソエニ。」

「うんうん。元気でよろしい。さて、こちらが月の人かな。」

「はい。」

「お初にお目にかかります。グリー族部族長ウソエニ。私は月の人ファルス=カンです。」

「はじめまして、グリー族部族長ウソエニ。私は月の人クリスです。」

「うむ。私がグリー族部族長ウソエニだ。」

ウソエニは俺とクリスを見定めるようにじっくりと視線を巡らす。


「ルゥ族部族長センデローズより、そなたらの北の大山脈への立ち入りを許可してほしい旨の書状をいただいた。これに違いは無いか。」

「はい。」

「して、北の大山脈で何をするのか?」

「はい。我々月の人は、この地より東の海を渡った先にある第三大陸にレギウス村を作り、そこで生活しています。

ただし、この地に降り立った月の人は我々が初めてではありません。

大昔にこの地に降り立った者がいます。

その者の館が、北の大山脈に残されていることが分かりました。

私達は、そこを訪れる予定です。」

俺は用意していた探索理由を伝える。

まぁ、大筋では合っている。


「なんと。そのような事が。」

「そうであったか。」

センデローズは理由を聞かずに旅立たせてくれたので、エデルゥたちにも目的は説明していなかった。

「うむ。元々ベア族以外の者が入ることを禁じる法は無い。その様な理由があるのならばなおさらだな。

月の人ファルス=カン。月の人クリス。北の大山脈への立ち入りを許可しよう。」

「ありがとうございます。部族長ウソエニ。」


ベア族で俺の名前をちゃんと区切って発音できたのはウソエニが初だった。


次回84話「第一大陸の城」

今回の旅の目的地に到着です。


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