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第四惑星  作者: ブルーベリージャム
第四章 カルー少佐
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79話 ミラルダの冒険者ギルド

「月の人が冒険者ギルドに興味があるのかい?」

「一応、私も冒険者ですよ。ちょっとお待ちを。」

ルーカスとリリアナは既に数歩先を出口に向かって歩いている。

首もとのボタンを上手くはずせないので、仕方ない、取るか。

ブチッ

俺は首から掛けている冒険者登録証を服の下から引っ張り出した。

ボタンは上着のポケットにしまっておく。


「ははは、確かに冒険者だ。ボタンを取ってしまうとはな。ははは!」

どうやら俺の所作が気に入られた様だ。

ヴィクターが俺の肩を叩いてくる。

「いいね、気に入ったぜ。どうだ、時間があるんだろう?俺の部屋で話そうぜ。いい酒が手に入ったんだよ。」

「マスター。」

「いいだろう、イリーナ。今日は祭りだ。」


ギルドマスターのヴィクターは身長180cm超えの大柄な身体をしている。年は40歳前後か。

連れの二人の女性は補佐官らしい。

ヴィクターの横に居るのがイリーナ。ヴィクターより少し若いぐらいか。

後ろに控えているのがマリア。22、3歳か。


正直なところ、メモを見るための理由付けのために発した言葉だ。

なので、それ程重要な話題はない。

しかし、先ほどの王子とのやり取りから、ユーリ王子とヴィクターギルドマスターは知己の様だ。

王都ミラルダでは、これまで社交はしていない。

少し話を聞いても良いか。


街は祭りの喧騒で溢れている。

俺たちは冒険者ギルドに向かった。



冒険者ギルドは神の館の横の通りの先にある。

レギウスの館と同じく街の西側に位置しているが、少し南側にある。

冒険者ギルド前も大きな広場になっている。

一階は受付カウンターが並び、冒険者が控える大部屋には酒場の様なカウンターもある。

酒と軽い食事ができるようだ。

祭りの日だが数人の冒険者がテーブルで食事をしていた。


奥の職員スペースの階段を上り、2階のギルドマスターの部屋へと案内された。

低いテーブルを挟み、3人掛けソファに向かい合って座る。


「いやぁ、良く来てくれた。」

「いや、こちらこそ、お招きいただきありがとう。」

「最初のあいさつの時は下で名前を言い合っただけだったからな。一度ゆっくり話したいと思っていたんだよ。カン外政官。」

「ファルスと呼んでくれ。」

「ああ、俺はヴィクターだ。で、酒を用意しているのがイリーナ。もう一人いたのが、マリアだ。」


「イリーナです。よろしくカン外政官。」

イリーナは挨拶しながらテーブルに銅製のコップを置き、酒を注いでいく。


「酒のつまみは用意させている。まずは乾杯だ。」

俺たちは杯を合わせた。

透明に近い薄いピンクの色あい。ほのかに香る甘い香りの果実酒だ。

「美味いな。」

「そうだろう。カーチェ村で取れる桃の酒だ。俺の好物なんだよ。」

ヴィクターはそう言ってコップを傾ける。


「まずは、そちらの話から聞こうか、ファルス。」

「ああ、あまり、重要な話題ではないのだが、我々月の人はオの国で冒険者登録をしている。

この登録はこちらのエの国でも有効なのだろうか。」

「あぁ、そんな事か。

もちろんだ。冒険者ギルドは政治とは独立した組織だからな。

国は違えど冒険者として活動できるし、ランクも保障される。

ギルドに預けてある金があれば、取引することもできる。少し時間は掛かるがな。」

「そうか。実は月の人の中に、この地で冒険者として活動したいと考えている者がいるんだ。

もしかしたら、世話になるかもしれない。」

「ああ、そういう事なら大歓迎だ。なんせ、噂の月の人だからな。お手並み拝見、だな。」

「噂になっているのか?」

「もちろんだ。」


「お待たせしました。」

部屋のドアが開き、マリアが入ってきた。

その手には書類の束を抱えている。

彼女の後ろには2人の男性が付いて来ていた。

彼らは両手に料理の皿を持っている。

テーブル上に料理の皿を並べ、男性陣は部屋を去った。

肉の香りが漂う。

イリーナがヴィクターの横に座り、マリアが俺の横に座る。

彼女の前には書類の束が置かれた。


「その書類は?」

「おお、まずは、改めて乾杯だ。この料理は下で作らせたものだ。遠慮なく食べてくれ。」

「ありがとう。いただくよ。」

「では、アドニス神の恵みと我々の出会いに乾杯だ。」

「「「乾杯!」」」


「そういえば、ヴィクターはユーリ王子殿下とは知り合いなのか?」

「おお、そうだぞ。ユーリ王子は若い頃は冒険者でな。」

「そうなのか。」

「まぁ、王子ともう一人の男、今日もいただろう?その二人が剣士だったんだが、他はいつも若い女を入れたパーティーを組んでいてな。正直、評判は良くなかった。が、腕は良かった。地位もあるしな。誰も文句は言えないさ。」

「今日の従者も女性が多かったな。」

「そうだろう、ははは。

奴らはユーリ王子直属の黒鉄騎士団の連中だ。かわいい顔して腕は良いらしいぞ。」

「黒鉄騎士団、か。」

「まぁ、貴族の子弟を集めたお飾りって意見もあるがな。」


「マスター、彼らの実力は侮れないですよ。」

「そうよ、あの王子の直属ですからね。」

マリアの言葉をイリーナが推す。

「ああ、そうだな。」


「あの王子、とは?何か理由がありそうですね?」

「いやぁ、大した事じゃない。ただ、ユーリ王子には現役の冒険者の頃から、ある噂があるんだ。」

「噂?」

「ああ、曰く、相手の実力を見抜く。」

「ほぉ。」

通路で立ち止まったのは、俺をその技か魔法で見たからか?


「くっ、くっ、くっ、うわっはっはっはっ!」

俺の顔を見ていたヴィクターが大きな声で笑い出す。

「マスター、性格が悪いです。」

「そうよぉ。ファルスさん、すいませんね。」

「ああ。すまんすまん。つい、からかってしまった。」

「何だ?実力を見抜くってのは嘘なのか?」

「いえいえ。それは本当の事ですよ。ほら、きちんと説明してください、マスター。」


「いやぁ、この話を知らない奴に会うのは久し振りなんでな。

ユーリ王子が相手の、人間でもゴブリンやオークでも、目の前にいる奴の実力が判るってのは、ここじゃ有名な話だ。」

「そうなのか。それは魔法なのか?」

「そうだ。なんでも子供の頃から魔法の扱いに秀でていたらしい。

他にも炎や水の魔法も扱えて、炎をまとった剣を振り回していたんだ。」

「それは凄いな。」

「まぁ、そんな魔法が使えたら、自分より弱い奴しか相手しないからな。だから100戦100勝の英雄様の出来上がり、だ。」

「ああ、なるほど。」


「マスター、それは侮りすぎですよ。」

「なんだ、マリア。お前、あの王子のファンだったのか?」

「違います。

ですが、記録によれば、彼のパーティーはきちんとクエストをこなしています。

Eランク、Dランクの冒険者が、彼のパーティーに入ると短期間でBランクになっています。

さらに、彼の功績は偉大です。(イニシエ)の魔道具の発見とその開発の成功。」

「そうだな。それは確かに凄いことだ。・・・本当だったらな。」


「古の魔道具。」

「はい、通常の魔石は神の館で配布、魔道具は道具屋で作成されていますが、かつて、この地で栄えた古の帝国では独自の魔石と魔道具が数多く作られていたそうです。

ユーリ王子は冒険の最中、その遺跡を発見し、その奥深く眠っていた魔道具を持ち帰りました。

さらにそれらを研究し、通信の魔道具や遠見の魔道具を現代に蘇らせたのです。」

「ほぉ~。」

これは意外な話だ。

通信の魔道具はエの都の館でリサが見つけた物だろう。

あれはカルー少佐がもたらした物だと思っていたが、違うようだ。

王子が見つけたならば王族が権利を持っている。

神の館での挨拶を思い返せば、今朝の南の港町でのウの国撃退報告も通信の魔道具で受けたのだろう。


「しかし、あの王子が冒険の最中に見つけたってのは眉唾だぜ。現にその遺跡ってのは王家の秘密って事になって、場所は知らされていないからな。

魔道具なんて、イの国で買ったか、城の魔法使いどもが作った物を王子の英雄譚に混ぜたんだろうさ。」

「マスター。ここにステータス判定の魔道具があるじゃない。ファルス外政官に試していただいたら?」

「お、そうだな。」

イリーナが立ち上がり、執務机横の棚から石版のような物を持ってきた。

テーブルの上に置かれたそれは、淡い青みを帯びた光を発している。

表面に文様を描いた円が描かれていて、中央に魔石が一つ嵌め込まれている。


「ヴィクター、これは何だ?」

「これはな、ステータス判定機といって、ここに右手を置くと、そいつのランクがABCで表示される。

冒険者がBランク昇級試験の時に使うものだ。

凄いだろ。まだ国内のギルド支部に配給している最中だからな。他国のギルドには無い物だぞ。」

「そうなのか。これは、ユーリ王子の魔法と同じ能力なのか。」

「うーん、俺も詳しくは知らんが、王子の魔法はもっと細かく判るらしいな。

さ、ファルス。ここに右手を置いて見ろ。」

「しかし、俺はDランクだぞ。」


「それは嘘ですね。」

マリアが静かに言った。

彼女は書類の束をバンッと叩き、言葉を続ける。

「ファルス外政官。あなたがご挨拶に来られた時は存知あげませんでしたが、その後に届いた隣国オの国のギルドからの報告書。

冒険者から聞く噂話。

あなた達”月の人”は魔法を操り、空を飛び回り、その力は飛竜を軽々と打ち倒す。

この話が本当なのか、否か。

さぁ、その手を魔道具に載せてください!」

「あら、マリア。あなた酔ってる?」

「酔ってません。」


「まぁ、そういう訳だ。」

ヴィクターが再度促す。

まぁ、隠すようなものでもないだろう。

おれはステータス判定機の上に右手を広げて置く。

手の下の文様が黄色い光を放ち始めた。

その光は徐々に強くなり、黄色からオレンジ、赤へと移り代わり、さらに青や紺色の光りも加わる。

輝く虹色の光が俺の右手の上に"S"の文字を描く。


「「「えっ、えすー!!!」」」


次回80話「収穫祭の夜」

祭りの夜の密会といえば・・・。

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