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第四惑星  作者: ブルーベリージャム
第四章 カルー少佐
74/142

72話 リセット

翌朝、オールドマッケイ楽団を見送り、カッシーニ81への立ち入り禁止を解除した。

広場や道路には祭りの跡が残っていて、村人たちは片付けをしつつ日常に戻っていく。


俺が外政官の館の1階で職員の村人と話して居た所へ、マーカス村長代理兼財務管理官がやってきた。

「おはようございます。エディ村長代理。」

「おはよう。カン外政官、オールドマッケイ楽団の交渉担当の男から手紙を預かったよ。」

そう言ってマーカス村長代理は1通の封書を俺に渡してきた。

宛名は”オの国を救った方へ”となっている。

「これは?」

「ああ、契約金の受け渡しの時に先方が取り出してね。では、失礼するよ。」

そう言ってエディ=マーカス村長代理は館を出て行った。

俺は手紙の封を切り、中身を一読する。

内容は、”ドラゴンが倒れる時、この世界は救われる。”の一文だけだ。署名も無い。

俺はクリスを呼び、生産管理室のホークの所へ向かった。


◇


生産管理室にはホークと、生産部第二班の面々がいた。

ホーキンス生産部管理官は不在だがレイチェルはいる。

「おはよう、ホーク。」

「おはようございます。カン外政官。」

新婚生活をスタートしたが、いつもと変わらないな。

「これを見てくれ。」

俺は手紙をホークに渡した。

「手紙ですか。・・・、これは、男爵からですか?」

ホークが俺の顔を見る。俺は頷いた。

「エディ村長代理が今朝の契約金支払いの時に、オールドマッケイ楽団の交渉担当の男から受け取った物だ。」


レイチェルがホークから手紙を受け取り、第二班のマルクスに手渡している。

手紙をスキャンして、文面以外の情報を読み取るためだ。

「どう思う?」

「”ドラゴンが倒れる時、この世界は救われる。”ですか。

ドラゴンは、キケロ中尉の言葉にも出てきましたね。

ブラックドラゴンのことでしょうか。」

「そうだろうな。」

「ファルス。マーカスが契約金を渡した時の映像じゃぞ。」

クリスがスクリーンの一つに映像を出した。


正面に交渉担当の男が映っている。

場所は村長の館の2階。村長代理の執務室だろう。

男はテーブルの上の銀貨を数え、革袋に入れる。

それを荷物袋にしまい、代わりに一通の封書を取り出した。

「これをカン外政官にお渡しください。」

そう言って、封書をテーブルに置く。

マーカス村長代理が封書を受け取り、男は椅子から立ち上がり、挨拶をして部屋から出て行った。


「男の動作に不審なところはありませんね。カン外政官、と言っていますが。」

「オの都なり王都ミラルダなりで情報を探れば俺の名前はすぐに分かるからな。

封書の宛名に書いていない所を見ると、山小屋で会った俺と外政官の俺を結び付けてはいないようだが。」

「つまり、オールドマッケイ楽団がレギウス村に行く事が決まった後に、交渉担当の男に接触して手紙を託したのじゃな。

そうなると、男爵はオの都に潜伏しておるな。ファルス。」

「そうだろうな。長年アバンテ男爵として生活していたなら王都ミラルダに隠れ家のひとつふたつあるのだろうと思っていたが、オの都にいたとはな。」

「オの都にも隠れ家がある、ということですね。」

「そのようだ。山賊の隠れ家から国境が近いにも関わらず、エの国へ行かなかったのは、俺たちがオの国で活動していると考えたのだろう。

そして、オの都に戻り、月の人の話とレギウス邸を見つけた。というところかな。」


「手紙には手掛かりは無いですねぇ。」

「そうか。レイチェル、ありがとう。」

「期待してませんでしたけどぉ、指紋もないとなるとぉ、相手も警戒しているんでしょうかぁ。」

「そうだな。今更名前が判明した所で、何も違いはないだろうに。」

「顔も名前もわからない。手紙もレギウス邸ではなくぅ、楽団の人に託して渡してますぅ。

なんでしょう、行動が読めませんねぇ。」

「本人ではなく、使いの者かもしれませんね。」

「仲間がいる可能性は高いな。」

「はい。通信用魔道具を持っている可能性もありますし、彼らには時間はいくらでもあります。

エの国でアバンテ男爵であったように、オの国でも何らかの身分と名前を持っているでしょうから。」


「それで、奴の期待には応えるのか?ファルス。」

「ドラゴン倒して世界の救済、か。」

「世界が救われる。これは、何を指しているのでしょうか。」

「わからないな。救済が必要な世界なのか?ここは。」

「んー、ゴブリン達、敵の存在がありますよぉ。」

「しかし、ドラゴンを倒しても、ゴブリンが滅びはしないだろう。・・・するのか?」


「メティスに確認するのはどうでしょうか。5番艦の情報解析も終了していますから、関連資料が残っているかもしれません。」

「私は今からでも大丈夫じゃぞ。ファルス。」

「私も問題ありません。」

「私は、外政官の館でお留守番していましょうかぁ?」

「すまんレイチェル。リサは何処にいるんだ?」

「あー、あの子は今日はお休みですぅ。第二集会所のベッドの中かなぁ、まだ。」

「そうなのか。」

「昨夜はちょーーと、盛り上がり過ぎたのでぇ、ね。」

「分かった。クリスとホークと一緒に中央指令室に居るから、何かあれば連絡してくれ。」

「了解。」


◇


俺たちは中央指令室でメティスが5番艦の記録解析を行った結果を聞いた。

残念ながら、地上における惑星開発部隊の活動記録の詳細は、彼らが持ち込んだ機材で行っているため、5番艦内の記憶領域には残されていない。

だが、報告書としてまとめられたレポートは残っている。

メティスは月面基地の管理コンピューターの記録内容と照合しつつ解析を進めたそうだ。


レギウス歴1061年に始まった第四惑星の開発活動は月面基地で行われていた。

そしてジャンプゲートの事故が起こる。

この事故の詳細は現在も不明だ。

惑星開発メンバーの企みだったとしても、その記録は彼らの機材にあるのだろう。

5番艦は月面基地に帰還するが乗組員は全滅していた。


その後も惑星開発部隊は第四惑星の開発を進める。

5番艦の脱出艇を改造した播種作業も始まる。

開発活動は長期に渡るが、カルー少佐がクローン体開発を成功させたことで、彼らは時間的制限を超越する。


1110年に惑星開発部隊はクローン体への移行を実施している。

1114年、惑星開発部隊は5番艦に乗り込み、第四惑星に降り立つ。

月面基地にはカルー少佐以下3名が残るが、これはクローン体の寿命を延ばす為の研究継続の為だったようだ。

地上に降りたメンバーは10年ごとにクローン体への移行を繰り返している。

これは5番艦内部に作られたクローン体生成装置で行われていた。

この時期、彼らは各大陸に脱出艇と工作機を持ち出し、拠点となる城を築いている。


1143年にカルー少佐たち3人が惑星に降下する。新型クローン体が完成したのだ。

この時点で地上の7大陸にはそれぞれの人類種が繁殖し生活圏を作っていた。

そしてナノマシン教育による神話の内容をカルー少佐は知る事になる。


1145年、惑星開発部隊の新型クローン体への移行作業が行われるが、ここで彼らの記憶が5番艦中央管理コンピューター内に捕らわれる。

この時点では生物グループのオフィーリオ少佐以下、神になった7名の記憶も捕らわれている。

唯一、ミリア中尉の記憶だけが無い。

もしかすると、彼女はこの時点で死亡している可能性もある。

彼女はカルー少佐の味方だったのか?

そう思う理由は、彼女の持つナノマシン技術だ。

ナノマシンのバージョンアップに関する操作指令は主に彼女の認証コードで登録されている。

だが、彼女の活動記録は1143年を最後に残されていない。


1435年間に渡る3人の生活。


2580年。グリューン中尉、ケンプファー中尉の消息が絶える。

明確な死亡記録は無いが、2人の活動記録がこの年を最後に存在しない。


カルー少佐が残り、この時点で彼がアバンテ男爵であることがほぼ確定した。


2600年に中央管理コンピューターから7人のクローン体が作り出された。

オイゲン中尉、パトリシュ中尉、オフィーリオ少佐、キケロ中尉、シューマ中尉、ソーサ中尉、マイヤー中尉。

人類種の神になった7人だ。

だが、彼らの活動記録も存在しない。

この年、カルー少佐は脱出艇で各大陸を廻り、最後に第四大陸に脱出艇を降ろしている。


2601年。最初のリセットが実行された。


リセットとは、ナノマシンによる生態操作だ。

ゴブリン共の繁殖力を増大させることで個体数を増やし、さらに人類への敵対心を高め積極的な攻撃行動を促している。

この攻勢は、各大陸ごとに人類種の総数が1万人以下になるか10年が経過するまで続けられる。

種の存続の危機に際しての強き個体の出現を促す行為、だそうだ。

このリセットの命令はミリア中尉の認証コードで登録されている。


1458年振りのミリア中尉の活動記録。

これは、1140年頃に既に用意されていたシナリオなのか。

それとも、ミリア中尉がこの時に設定したものなのか。


このリセットは2000年ごとに繰り返されてきた。

前回のリセットは12601年、6回目のリセットだ。

次回実行予定は14601年、今から1113年後に発生する。


◇


「つまり、人類は2000年ごとに文明が破壊され、衰退する、ということか。」

「1万2千年経過しても現在の科学水準であることの理由になりますね。」

「と、なると、世界の救済とはリセットの停止、か?」

「ドラゴン退治がリセット停止の鍵か、ファルス。」

「そうだろうな。しかし、7匹のドラゴンがいるぞ。全部倒さないとダメか。」

『いいえ、カン外政官。倒すのは1匹です。』

「そうなのか?どれか1匹を倒せば全大陸のリセットが停止するのか。」

『いいえ、リセット停止はドラゴンが所属している大陸が対象です。その他の大陸には永続モードが発効されます。』

「永続モード!?」

『はい、下等種に対する繁殖増大と敵対心の向上はリセットと同様ですが、人類種の残存個体数と10年という活動制限が設けられていません。』

「つまり、生き残るのはドラゴンを倒した人類種だけで、その他の大陸の人類種は滅びろ、と。」

「ファルス、どうする?どうすれば良いのじゃ。」

「少し、時間が必要だな、これは。」

「そうですね。我々だけでは決めかねる問題ですね。」


「そうだ、メティス。そのリセットの実行命令の破棄をナノマシンに指示するには、どうすれば良い?」

『はい、カン外政官。対応するセキュリティコードを含んだコマンドが必要になります。』

「セキュリティコード?つまり、この命令は普段使っている魔法より特別な魔法という事か。」

『はい、その通りです。カン外政官。』

「そうすると、あの設備は・・・」

「設備、ですか?」

「そうだ。5番艦の外で破壊されていた建物が1棟あっただろう。通信設備を備えた所だ。」

「はい。憶えています。」

「あれが5番艦の外にあった事が不明なんだが。あれはナノマシン操作設備だったんじゃないだろうか。」

「個人用ポッドも外の建物に移動していた。惑星開発部隊は5番艦の中での作業には拘っていなかったようじゃぞ。ファルス。」

「元々は月面基地内部の設備ですし、彼らには5番艦への愛着もないですからね。

だとすると、カルー少佐がすべての作業を終えたと考えた時点で破壊したんですね。」

「そう思うな。ナノマシンへの命令実行には、惑星開発部隊ナノマシンチームが持ち込んだ機材が必要だ。それが、あれだろう。」

「どうします?回収して、ナンドゥールに調査してもらいますか?」

「それも考えたが、ハードは修復できてもソフトが失われているだろう。」

「その可能性は高いですね。」

「一応、回収するかぁ・・・都合よくセキュリティコードが残っているとも思えないが。」


「メティス、5番艦の脱出艇の最終確認位置は表示できますか?」

『はい、ホーク管理官。』

ホークの問いに対して、前面スクリーンに惑星図と10個のマーキングが表示された。

8個は5番艦の位置だ。

「各大陸の城の位置表示もお願いします。」

1個の脱出艇マーキングと城マーキングが重なった。

第四大陸の南東。ウの国とイの国の国境となっている山脈だ。

残りは第六大陸の南極点付近。以前見た氷の下にある機体だ。


「今も位置情報を伝えている脱出艇はありますか?」

『いいえ、ありません。ホーク管理官。最新の位置情報は2号機の位置情報です。3407年451日に第四大陸で記録されています。』

第四大陸のマーキングが点滅した。

「ありがとうございます。メティス。

カン外政官。カルー少佐の拠点は第四大陸のこの城の可能性が高いですね。」

「そうだな。我々の外見で目立たずに行動できるのもフォース族のいる第四大陸だろう。」

「それもありますが、私はこの城に彼のクローン体製造機があると考えます。」

「なに!?」

「彼が現在も生きているのはクローン体のおかげですが、それも代替わりが必要です。

他の大陸にクローン体製造機があれば脱出艇での移動が考えられたのですが、それを使っていないのであれば、彼の活動は第四大陸内に留まっているのではないでしょうか。」


「では、その城に乗り込んで、そこの機材とコンピューター一式をかっさらうのはどうじゃ?ファルス。

さすがにカルーの奴も慌てるじゃろう。うちらばかり考えるのは癪だからな。元々の原因の奴に解決策を考えてもらおう。」

「そうだな、それをこちらで押さえる事でアバンテ男爵、カルー少佐に交渉できるな。」

「もしかすると、ナノマシン操作機器もあるのではないでしょうか?」

「決まりじゃな。」


◇


その後、マクレガー村長、マーカス村長代理の二人を交えて解析内容の対応について確認を行った。

1113年後のリセットについては時間もある事から対策案の検討は後日となった。

カルー少佐の城に乗り込み、彼のクローン体製造機器を奪う計画についても、カルー少佐と明確に敵対する事になるので、即答は避けられた。


その日の夕食後、俺たちは食堂に集まってもらった仲間たちにメティスの解析内容を告げた。


「各大陸のゴブリン共を全滅させれば良い。」

「1100年後までに復活するかもしれんぞ。」

「ならば、全滅を確認後にドラゴンを退治してみては。」

「失敗した時のリスクが高いな。各大陸にゴブリン共に対抗できる戦力の準備が必要だろう。」

「そうすると、現地人へのリセットの説明が必要だな。」

「だが、統一国家ではない。何人ものリーダー、国王、族長に話して、その全てに信用してもらわないと。」

「倒すドラゴンの選択もです。どの大陸のドラゴンを倒すのか、それを我々が選択するのですか?」

「だが、現地人に選択権を与えても、それこそ争いが起こるだろうな。」


「ドラゴンって、直接戦って倒せるのか?」

「どうだろうなぁ、空に飛ばさなければ、いけそうじゃないか。」


「リセット自体を止めれば良いのでは?」

「ナノマシンへの命令の上書きか。」

「その方法が不明なのが痛いよなぁ。」


「次の出撃には参加させてもらわなければ。」

「そうです。ゴブリン退治を経験していないのは我々だけですからね。」

「でも兵長。次は泥棒ですよ。ゴブリンはいないんじゃ。」


俺たちは、それぞれが意見を検討した上で3日後の夕食の後に採決をする、として解散した。


◇


翌日、俺とリサは丘陵地帯の湖に行き、湖底探査機4機を回収した。

今回は残念ながら有益な情報はなかったそうだ。

丘の内部に鉱石があり、ゴブリン共が掘り進めた結果、沈下したのではないか。というのがホーキンス生産部管理官の予想だ。

村としては羊の群れを確保できたのでありがたい結果となったが。

高原の羊の群れは毛の刈り取りが終わり、少しスマートになった姿を見せていた。


湖底探査機は整備を行い、次は大レギウス湖の調査に就くそうだ。


サイ族のゾコラ族長の所にも寄った。変わりなく日々を過ごしているそうだ。

オーガの追撃は無いようだな。

「何かあれば、天使セリーヌ様が助けてくれるさ。」

と言われた。

色々誤解があるな。


さらに5番艦に移動する。

屋外にある破壊された建屋の機材を回収する為だ。

「カン外政官。これはさすがに背嚢には入らないです。」

「やはり、でかすぎるか。」

「それもありますが、袋に入れるには動かさないといけませんからね。これは動いてくれませんから。」

「そうか。」

飛竜や荷車は動かせるので、背嚢の口に一部を入れればそのまま入っていくそうだ。

建物等は動かせないから無理、と。

ん?連絡艇やカッシーニ81は入れれるのか?

答えを聞くのが怖いので聞かないでおくか。


「ホーキンス管理官にお願いして、工作機と連絡艇を借りましょう。」

「そうだな。ここの機材の回収とその後の修復と分析作業は生産部にお願いしよう。」


◇


3日後の夕食後。

俺たちは"リセット"への対応について採決を行った。

カルー少佐の城への襲撃と設備の略奪を試みる件だ。


襲撃に関しては否決された。

だが、カルー少佐の城を訪ねて情報交換をする方向で話がまとまった。

まずは平和的な会談だ。


次回73話「カルー少佐の城」

殴りこみは却下されたので、礼儀正しく訪問します。

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