60話 オーリウス伯邸急襲
さて、話は10日前、俺たちがザーリ辺境伯たちを王城に届け、レギウス村に戻った時に遡る。
王都ミラルダから再度ザーリ領に戻り、レイチェルが回収した廃棄物をゴブリンを避けて鉱山跡地の採掘穴奥深くに廃棄処理した俺たちは、レギウス村への到着が2800を過ぎていた。
俺たちはすぐに休もうとしたが、ここで天使セリーヌからのお誘いがあった。
先の催眠術師による影響調査をしたい、ということで、俺とレイチェルは医療センターに向かった。
クリスとリサは今夜はオの国泊まりなので、クリスの調査は明日以降だ。
翌朝の結果は異状なし、だった。
食堂に顔を出すと甲板部員達が昨日の武勇伝を話してくれた。
クリスから連絡は来ていたが、オーリウス伯邸を12秒で制圧したそうだ。
2秒は扉を開けて階段を下るのに掛かった時間だと。
クリスとリサはこちらに戻るとすぐに甲板長の元に行き、オの都にある悪党の館を制圧するから甲板部員を貸してくれ、と申し込んだ。
聞いた甲板長は、作戦予定時間は?、と聞き返す。
クリスは、1時間、58分待機で10秒で制圧して1分で撤収する、と答えた。
甲板長は甲板部員全員に3時間の休憩を与え、作業を中断し、装備を整えさせた。
甲板部員22名、ホーキンス甲板長、クリス、リサ、総勢25名でオの国王城の練兵場に移動した。
クリスはホーキンス甲板長と共に国王陛下への緊急面会を申し込んだ。
いきなり現れた月の人25人、4分隊相当の戦力である。
城内は異常事態を感じ取ってざわめく。
クリスが国王陛下への説明をしている最中にも甲板部員たちはリサから作戦概要を聞き、メティスからの城下町の画像にて、目標の館を確認する。
国王陛下の即決を聞き、アレク大尉率いる第一班とバベル中尉率いる第二班が飛ぶ。
オーリウス伯の館の上空100mから邸内の14人を確認した。
リサが館の周囲を旋回し、窓の位置と人の位置を照合したら準備完了である。
クリスが国王陛下に突入の最終確認を求めると陛下はうなずき返す。
クリスの「突入」の指示に甲板部員達は100mを急降下し館の窓から突入。家人たちを捕縛していった。
階段の途中にいた執事の一人を捕まえるのに時間が掛かったそうだ。
捕縛したオーリウス伯たち14人を広間に集めて、甲板部員達は撤収した。
リサは第一連隊が現場に来るまで館に残った。
館の調査は第一連隊が行う。
クリスとホーキンス甲板長とリサの三人は昨夜は王都泊まりで、今日も現場の確認作業に付き合うそうだ。
ホーキンス甲板長が帰って来ないことに驚いたが、マクレガー大佐が外に出て行ってるからな。
自分もこの世界に触れたいのだろう。
となると、後はエディ中佐にも出番を作らないといけないか。
◇
朝食の後、エディ中佐、ホーク、パメラ、甲板部副官のアレク大尉とバベル中尉。
さらに第一班副長ジェリー=エルラド曹長と第二班副長ブライアン=ネロ曹長を会議室に集めた。
マクレガー大佐と俺とレイチェルのエの国での話をざっくりと話す。
昨日のオーリウス伯邸急襲に至るまでの話だ。
「これで事件はひとまず落ち着くだろう。後は国家間の話し合いになる。」
マクレガー大佐がそう言って締めくくった。
俺が続けて言う。
「エの国からの報酬の話で、レギウス村に移民を引き受けることになる。
ベレッタ子爵の話に乗っかった物だが、ウの国からの避難民が大勢いるそうだ。
正確な人数が不明だが、彼らを引き受けるとなった時の準備が必要になる。」
「衣、食、住、ですね。」
「そうだ、ホーク。衣服は、オの国、エの国で調達の手段はあるだろう。
食事については、カッシーニ81からの供給は出来る。
問題は家だ。移民の人数が不明なので、300人75家族で想定しよう。」
「カン少佐、移民が来るのはいつ頃になるんだ?」
エディ中佐が訊いてきた。
「10、いや9日後に王都ミラルダに戻ります。
そこでザーリ辺境伯に状況を確認するのですが、早く決着が付けばその日に話が出ます。
ですので最短だと10日ですね。
それに今回の件で被害にあった警吏の2人が家族と共に移住すると言ってくれています。」
「そうか。どうだね諸君?」
エディ中佐が甲板部員に訊く。
アレクが答える。
「神官用に準備した住居は工作機1機で約1日でできます。
村内で稼働可能な工作機は6機ですから1日6軒は建ちますね。」
「いえ、大尉。1機は井戸の設置作業に必要です。75軒ですから15か所は設置しないと。」
「そうか、ナンドゥールに設計図を引いて貰わないとな。」
「そうすると約15日か?」
「いえ、工作機2機は神の館に後1日掛かります。ですので、16日は欲しいですね。」
「でもぉ、避難民の方たちには商人さんや鍛冶屋さんもいるでしょう?街中の普通の家だと都合が悪くないですかぁ?」
「そうか、農家は畑の方に点在して建てないといけないんですね。そうすると井戸の数も増えるのか。」
「最終的にはそうなるだろうな。だが、仮住まいで、まずは家に収まってもらう。
店をやるには商品が必要だし、鍛冶屋をやるには窯や作業場が必要だ。
それらの一人一人の要望に沿った家は次の段階で建てて行こう。
農家にしても、農家が何人いて、どんな作物を育てていたか分からないからな。」
「そうすると、受け入れた後に要望調査して対応していかないとならないですね。」
「ううむ。村民台帳の準備は出来ているが調査項目の確認と聞き取り担当の割り振りも必要だな。」
「甲板部員をそこに割り振ると稼働工作機の台数が減りますよ。」
「工作機の稼働台数は準備段階で大量に必要だが、移民が来たあとは開発速度を落としても良いだろう。」
「あのー、ちょっと良いですか?」
パメラが手を挙げた。
「いいぞ、パメラ。」
「はい、神の館の様な手の込んだ建物でなくても良いので、あのような大きな建物を作って、まずはそこに50人ぐらいで暮らしていただくのはいかがですか。
こちらとしても準備が早く終わりますし、井戸の場所も少なくて済みますし、食事を配るのも数ヶ所で済みます。」
「なるほど。そこで要望に沿った家を順に用意して移り住んでもらうのか。」
「神の館は装飾に時間が掛かっています。その工程を省略できるなら工期も短くて済みます。」
「仮住まいなら設置場所も広場周辺でなくても良いですね。カッシーニ81から広場までの道の北側に並べますか。」
「うむ。クルーガー少尉の案に沿って、移民受け入れの為の大きな館を複数建てる方向で準備に入ろう。良いな。」
「了解。」
◇
会議の後、マクレガー大佐と俺はホークの案内で神の館の建設現場へ行った。
そこに1人の神官と2人の女官が待っていた。
「紹介します。ヴァンサン=レイド神官、ナディア教士、リンダ=ガレス教士。
こちらは、レギウス村村長のマクレガー大佐、ファルス=カン少佐です。」
レイド神官は40歳後半、ナディア教士、リンダ=ガレス教士は20歳前に見える。
お互いに挨拶を交わす。
彼らも新しい村での活動を楽しみにしているそうだ。
まだ村民は我々月の人だけで、しかもほとんどカッシーニ81内で生活している。
だが10日もすれば村人がやってくる予定だ、と伝えたら顔が明るくなった。
村民のいない村なのでは、との不安もあったのかもしれないな。
神の館は9割がた出来上がっている。
後は屋根に付ける装飾や館周りの木塀だけのようだ。
そう思っていたら、内部の祭壇用の板や信者が座る椅子に神官が話を聞く部屋など色々必要らしい。
そういった事はホークを通して甲板部に要望を通しているそうだ。
リサがいないのでレイチェルにオの国での買い物に付き合う様に頼まれた。
◇
ナディア教士とガレス教士を伴ってカッシーニ81に戻る。
ホーキンス甲板長とリサが戻って来ていた。
レイチェルも一緒に操作席の後ろにいる。
「甲板長、何か作っているんですか?」
「おう、ファルス。リサが面白いもん見つけてな。」
「あ、少佐。見てくださいよ、コレ。通信魔道具なんですよ。」
リサが手にしているのは木の棒の様な魔道具だ。
一方の先に魔石が嵌められていて、もう一方は平らな円盤の台座がついている。
「円盤に何か模様と文字が刻まれているな。」
「そうなんですよ。これにはオの国通信1って書いてあります。この魔道具の名前ですね。
この模様はちょっと分からないですけど。」
「あの、それは風の神デニス神のシンボルマークではないでしょうか。」
「うん、間違いないですよ。デニス神のシンボルです。」
俺の後ろから声が掛かった。ガレス教士とナディア教士だ。
俺は3人にガレス教士とナディア教士を紹介し、オの都での買い物を頼みに来た事を伝えた。
「風かぁ。なるほど、音を運ぶからかな?」
リサが考え込んでいる。
「で、何を作ってるんだ。」
「ふふふ、転送門です。」
「転送門?遠見の窓か?」
「そうそう、そうなんですよ。
この通信魔道具に名前が付いていて、さらにこのメモ書きが一緒に置いてあったんですよ。」
「メモ書き?
”相手の通信具の名前を2回呼び、接続、と言う”、
”終わるときは、終了、と言う”、
”エの国モラス邸1”、
”エの国モラス邸地下”。
これは通信の連絡方法か。」
ナノマシン通信と要領は一緒だな。
「そうなんですよ。オーリウス伯って部屋のあちこちに、こういったメモ書きの紙を置いてあって、それが全部証拠品です。
この通信魔道具の横には本が置かれていて、通信内容が全部メモ書きされていましたよ。
オーリウス伯とモラス候の企みは全部書かれていたようです。」
「なんとも、それは突入した甲斐があったな。」
「昨夜はそんな資料が山ほど出てきましたからね。クリスはその本持って王城に行きましたよ。」
「で、転送門ってなんだ?」
「あ、そうそう。魔道具に名前を付けてお互いを接続して通信できるなら、転送門に名前を付ければ、遠見の窓が出来るんじゃないかと思いまして、甲板長にお願いしました。」
「おう、後5分ぐらいで出来上がるぞ。」
「オーリウス伯の館は捜査が終わったら私たちに貰えるようにクリスが交渉してくれたんですよ。
この転送門をこことオの都のレギウス邸に置ければ、私やレイチェルさんがいなくても行き来できるようになりますよ。」
待つ事5分。作業台の上には2m四方、厚さ5cmの金属板に2つの足が付いた門が出来上がった。
チェーンで吊るされ床に置かれる2つの門。
門の上部は丸くカットされ、左右につる草の飾りが付いている。
中央に直径1m80cmの穴が開けられ穴の上部に名前が刻まれ左右の柱の中央に3cm程の魔石が埋め込まれていた。
1つがレギウス村、1つがオの国レギウス館と名前が刻まれている。
「それでは早速実験です。
”オの国レギウス館、オの国レギウス館、門よ開け!”」
リサが村の門の左の魔石に手を触れて文言を唱えると、二つの門の魔石が光を発した。
村の門からは館の門の前に立つレイチェルの姿が見える。
「さぁ、繋がりました。次は転送です。」
リサは腰の布袋からネズミを取り出す。
「さっき砂ネズミさんを捕まえておいたんです。さぁ、この子に行ってもらいますよ。」
リサが砂ネズミを村の門に投げ入れる。と、砂ネズミは館の門から出てきてレイチェルの前に着地し、タタタッと走り去ってしまった。
「実験成功です。」
リサが言った瞬間、門で光っていた魔石から光が失われ、魔石は粉々に崩れてしまう。
門の接続も切れた様だ。
「あららぁ、なんでぇ?」
「リサ、お前は何を作っているのか分かっているのか?」
俺は、静かに言った。
「えっ、少佐?」
「これはな、リサ。ジャンプゲートだ。
お前たちが作った背嚢や遠見の窓でも思ったが、この転送門は、これは完全にジャンプゲートだ。
ジャンプゲートは周囲に12基の制御装置、重力子機関を配置していた。
この転送門も魔石が12個か、それ以上必要かもな。」
「なるほど。」
「よしよし。初めて作るもんって奴はなかなか上手くいかないもんだ。
こっちは材料さえありゃ何度でも作ってやるからな。ちょっと手直ししてやるか。」
「はい、お願いします。」
ホーキンス甲板長の言葉にリサは気を取り直した。
「レイチェル、悪いが買い物に付き合ってくれるか。」
「あ、そうですねぇ。すいませんでした、お待たせしてぇ。さぁ、行きましょう。」
レイチェルは遠見の窓を開けて、ナディア教士とガレス教士と共にオの都に移動した。
次回「10日後の午後」
59話「10日後」の続きになります。




