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第四惑星  作者: ブルーベリージャム
第三章 レギウス村
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53話 アラン子爵を村に

アラン子爵達は最初は20名、馬車は5台だったそうだ。

エの国の使節団がアラン子爵含め5名、従者5名、警吏5名。

そして、ワナビー河から上陸した後に冒険者ギルドで雇った護衛5名。

陸路、国境の町ミリンを目指す。


3日目、朝の出立の際に冒険者ギルドで雇った護衛3名が違約金を置いて消えた。

前夜、村の酒場で聞いた噂話が原因だと云う。

その日の午後、街道で山賊に襲われた。1回目の襲撃である。

相手は10名ほど。

冒険者ギルドで雇った護衛2人は人数が不利だと言って、早々に降参して去っていった。

警吏5名が抵抗したが、3人が死亡し、2人も傷を負った。

ここで馬車3台と荷物の大半を奪われた。


2台の馬車と徒歩で歩き続ける。

その4日後、今から5日前に2度目の襲撃を受けた。

食料も無く、体力が残っていなかった彼らは無抵抗で捕まった。

襲った山賊たちも得る物が少なく、馬車を売り払い、彼らを奴隷として売るためにアジトへ連れて来た。


この穴の中には既に3人の男が捕まっていた。商人だと言う。

奴隷商が引き取りに来るまでの我慢だと言われた。

与えられるのはパンとスープが1日1食。

使節団の男爵と使用人2人が体調不良で倒れていく。

苦しんでいる彼らを山賊の男が刺し殺した。


アラン子爵は俺たちが提供した温かいお茶を飲みながら話してくれた。



商人3人は若い男でエの国で魔法具を買い付けて来たそうだ。

小屋の中を捜索すると彼らの荷物があった。

いつも馬車1台なら狙われないので、護衛は雇わなかったそうだ。

だが、今回は襲われてしまった。

そして彼らは逃げ出し、さらに火の魔法具を使って抵抗してしまった。

その結果が穴倉送りである。


俺は彼らの荷物を小屋にあった馬車に載せ、痩せた馬と食料を与え、彼らを解放した。



「少佐、アラン子爵たちは体力の消耗が激しいですぅ。ここから動かせませんねぇ。」

「そうだな、医療ポッドに入ってもらうか。レイチェル。」

「はい。」

「カッシーニ81の医療センターに遠見の窓は開けられるか?」

「ちょぉっと待ってくださいねぇ。医療センターの入り口はっと。えい!」

掛け声がリサに似て来たな。


(ホーク、聞こえるか?)

(はい、少佐。聞こえます。)

(アラン子爵達と合流したが山賊に捕まり衰弱している。9人分の医療ポッドの用意を頼みたい。)

(分かりました。10分ください。連絡します。)

(頼む。)


(リサ、聞こえるか?)

(はい、リサです。こちらは問題ないですよ。)

(リサ、アラン子爵達をカッシーニ81の医療センターに連れて行く。)

(了解。それじゃあ、レギウス村に移動ですね。涼風たちも村に連れて行きますね。)

(頼む。)


アラン子爵は他の3人の貴族と空地に座り込んでいる。

使用人と警吏は少し離れた場所にいる。


「アラン子爵、よろしいですか。」

「ファルス=カン殿、ああ、紹介します。

こちらが使節団の団長、アントニオ=ド=ザーリ辺境伯。

そしてマルコス=フォン=ベレッタ子爵とダニエル=フォン=ブカン男爵です。」

ザーリ辺境伯は60歳前後の痩せた長身の男性だ。白いひげを蓄えている。

ベレッタ子爵、ブカン男爵はアラン子爵と同じく26、7歳といったところか。

俺は彼らに目礼をした。

ザーリ辺境伯たちも目礼を返すが、その表情は硬い。


「アラン子爵、皆さんには治療が必要です。

これから皆さんには我々の村に移動していただき、治療を受けていただく。」

「村?月の人達の村ですか?」

「なんと!それでは我々を殺して月に送ると!」

ザーリ辺境伯が大声を出して後ずさる。

なるほど、大きな誤解がある事を失念していた。

「違います。我々は月の人ですが、この地に我々の村を作っています。」

「し、しかし、移動と言っても、馬車で何日掛かるんだ?」

「ブカン男爵、馬車は使いません。彼女の所まで歩いていただくだけです。」

俺は後方のレイチェルを指差した。レイチェルが気付いて手を振り返す。

「なに?」

「何を言ってるんだ?」

「アラン子爵、使用人の方々を先にお連れします。」

「あ、ああ。」


アラン子爵も状況が分かっていないようだ。

そうだろう。これは彼らには未知の状況だ。

ならば言葉を重ねるより体験させる方が早い。

クリスが足を負傷して歩けない状態の警吏の男を起こしている。

俺は使用人たちに向かって言う。

「皆さん、これから皆さんを治療する為に、我々の村にご案内します。

立ち上がって、ゆっくりでいいので私に付いて来てください。」

使用人たちと警吏の男が立ち上がった。

警吏の男はクリスに手を貸して負傷した仲間に肩を貸す。


(少佐。医療ポッドの準備ができました。)

(わかった。これから送り込む。)


レイチェルが立つ横の空間に直径2mの丸い円が描かれている。

周囲の風景は山林だが、そこに見えるのは室内だ。

パメラが立っている。

レイチェルに近付き、遠見の窓の異様な光景に皆が気付く。

「さっ、皆さん、ここを通ってくださいね。」

レイチェルが窓を通りパメラの横に並ぶ。

「では、一緒に行こうか。」

クリスが警吏の男と共に最初に通り抜けて行く。

「さぁ、皆さん、続いてください。」

警吏の男が続き、使用人たちも一人、二人と続く。

俺は振り返りアラン子爵たちに声を掛けた。

「アラン子爵、皆さんも来てください。」


おそるおそるといった感じで、遠見の窓を全員が通り抜けた。

最後に俺が通り抜けるとレイチェルは遠見の窓を閉じた。


医療センターには20基の医療ポッドが並んでいる。

見た目には個人用ポッドと変わらない。

一人用の密閉型ポッドだ。

服を脱ぎ、ポッド内のベットに横たわり、扉が閉まると内部は医療用充填液で満たされる。


最初の服を脱いで全裸になる部分でひと悶着あったが、ポッドの中に入れてしまえば大人しくなった。

天使セリーヌが麻酔ガスを使ったかは不明だ。

初期診察結果では警吏の2人以外は8時間で出られる。

夜中に目覚めてもらっても困るので、明日の午後までゆっくり休んで貰うよう設定してもらった。



「ファルス、あの山賊どもを放ってきたが?」

「ああ、奴隷商が近々来るそうだから、運があれば助かるかもしれん。

もしかしたら、解放した商人たちが通報して軍が取締りに来るかもしれん。」

「そうか。」

「そうだ。」



「きゃぁー、これ、私の馬なのぉ。」

「そうですよ。白い毛並の雪風さんです。」

「夏風ですか。よろしく。」

カッシーニ81の横の原っぱにリサが馬たちを連れて来ていたのでホークとパメラを引き合わせた。

「この子たちの水飲み場とかぁ、色々作ってあげないといけませんねぇ。」

「オの国の村で馬小屋を見させてもらったからな。あの映像もナンドゥールに図面解析してもらうか。」


「さぁ、雪風、行きますよ。」

「涼風、私たちも行きますよ。」

「早風が一番!」

「強風も負けてませんよぉ。」


「夏風と嵐は自由にさせとくか。」

「残念ですが、少佐には出来上がった家を見ていただきたいので。こちらです。」



レギウス村は西にカッシーニ81があり、その東1000mに中央広場を作った。

ここを町の中心として、放射線状に8本の大通りを作る。

南西から北西に掛けてはカッシーニ81に近い事もあり村の管理部門の建物を置く、

北西から北東の北のエリアは大レギウス湖がある。湖での漁や獲れた魚を扱うエリアだ。

北東から東に掛けては同じく大レギウス湖経由の鉱石が運び込まれるエリアだ。

溶鉱炉を作成し、鍛冶の町になるだろう。

東から南西に掛けては住居、畑のエリアだ。

東に山脈のすそ野があるが、南は平原が続く。村の発展は南に広がっていくだろう。


今出来上がっているのはカッシーニ81から続く未舗装の道と中央広場の輪郭。

その道の脇に2軒の家が建っている。3軒目は工作機1機が土台作成中だ。

さらにその先には広場の脇に大きな土台を工作機2機が作成中だ。

建てられた2軒の家は同じ形をしている。

オの都で見学した金貨150枚の家だ。

一階部分を石造り、二階を木造で構成している。

一階が石造りなのは土台としての耐性と火を扱う炊事場がある為だ。

さらに地震対策でもあるという。

地震。大地が震え、山が崩れ、大地に亀裂が走り、建物は皆崩れ落ちる。

小さなものは10年に数度、大きなものは100年に1度ほど発生するという。


広場脇の建物は神の館になる。

これはベア族の部族長の村の女神の館とオの都の神の館を参考にしている。

共に規模が大きく大きな柱を幾本も使った天井の高い建物だった。

祈る神は違えど、神の館の基本構造は一緒なのだろう。

ホークが神官に聞いたところ、小さな村では小さな神の館があるそうなので、レギウス村の神の館もまずは小規模にした。

村が大きくなった時に建て替えよう。


次回54話「大佐と辺境伯」

おじさん二人。共通の趣味?が見つかりそうです。


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