38話 クリスに任せた
バレン隊長の第11分隊は二人が足に負傷した。レイチェルが手当てしている。
山賊役は6人捕縛。3人死亡。
第一連隊は全員捕縛。
全員手を縛って道の脇に寝かせている。
ロープが足りないので仕方ない。
そしてパメラが捕えた一人。彼は両手を縛られているが、パメラの横に立っている。
「あなたはエの国の使節団の方ですね。お名前は確かアラン子爵、でしたか。」
バレン隊長の指摘に男は答えず視線を避けている。
「まぁ、王都に行けば分かります。この魔道具もありますから言い逃れはできませんよ。」
アラン子爵が手にしていたのは40cmぐらいの木の棒で先に魔石が嵌めこまれている。
これを使って火炎弾を飛ばしたようだ。
(カン大尉。この男には余裕が見られます。どういう事でしょう?王都に行っても罪には問えないのでしょうか。)
(オの国とエの国の問題だからな。エの国への追放、ぐらいで済むかもな。)
(そうですか。片腕切り落としておくべきでしたか。)
俺はパメラに返事をせず、バレン隊長に向いた。
「バレン隊長。第一連隊の残りがどこにいるか聞いてみて欲しい。」
「そうしよう。伝令に送った者の行方も気になる。
パメラ殿には申し訳ないが立場上この男を奴らと同等には扱えん。すまないが付いていていただきたい。」
「承知しました。パメラに付かせます。アビー姫はいかがしますか?」
「姫には、もう少々お待ちいただきましょう。私の部下を二人、村へ送ります。
ロープの入手と迎えの手配をさせますので。」
「わかりました。リサに連絡して待機させておきます。」
(リサ、こちらが落ち着くまでしばらく掛かりそうだ。)
(了解です。こちらは楽しくおしゃべりしてますから大丈夫ですよ。)
(そうか、また連絡する。)
リサの背嚢にはいろいろ詰まってるからな。お茶でも飲んでいるのだろう。
「さて、アラン子爵でいいのかな?俺の名前はファルス=カン。月の人だ。
少々お話しをしたいんだが、いいかな?」
アランは25歳ぐらいの若い男だ。
子爵としてはさっぱりしているが山賊役の男たちより身なりは良い。
俺の顔を見たが、また視線を横に向けた。
ボフゥ
その視線の先1mぐらいの所で突然炎が立ち昇る。
「うわぁ!」
アラン子爵が声を上げのけ反る。
パメラを見るが、パメラも俺から視線を逸らした。
まったく。
「アラン子爵、あなたはエの国の人だな?」
アランは左右をキョロキョロと見て、最後に俺の顔を見た。
「そ、そうだ。」
「先程、名乗ったが、我々は月の人間だ。」
俺は空に浮かぶ月を指差した。
「あの月から来た。この地を旅して出会った人に色々と話を聞いている。」
「なっ、あの月だって?あそこは死者の国だ。人間が居る訳ないだろう。」
ボフゥ、ボフゥ
次はアランの左右で炎が立ち昇った。
さっきより近いぞパメラ。
「ひっ、ほ、本当なのか?」
「ああ、本当だ。」
アラン子爵は俺の顔を呆然と見ている。
「アラン子爵、オの国とエの国の争いは長いのか?」
「な、なんでそんな事を?」
「いや、行き掛り上、アビー姫を助けたが、俺たちはオの国の味方では無い。
なので、どっちに付くかは双方の事情次第なんだ。
だからエの国の人からも話を聞きたくてね。」
「そうなのか!」
アラン子爵は左右を見てから声を潜めつつも激しい口調で語り始めた。
要約するとだ。
事の起こりは12年前。
国境を隔てる山脈には鉱物資源が豊富だ。
エの国もオの国も穴を掘って鉱物を求めている。
国境線は山の峰だが、穴の中は掘った者勝ちである。
そして、12年前に大規模な山の崩落事故があった。
オの国の採掘現場が山の上方に在ったが山中の地下水脈に穴を繋げてしまった。
オの国の採掘穴は水に沈んだが、脆くなっていた岩盤が崩落し、下方にあったエの国の採掘現場も潰した。
その結果エの国側に大きく山は崩れ、鉱物で汚れた水が大量に溢れ出し、山裾の畑を飲み込み、川へ流れ込んだ。
エの国の人々に1000人以上の被害者が出た。
汚染された川は元に戻ったが、崩れた山と汚れた土地は元に戻らない。
エの国王マクシム=ニコルフ7世は、オの国王ディエゴ=チェインに親書を送るが保障は聞き入れられなかった。
数回に渡る使節団による交渉でも成果はない。
そして、勇士たちによって3年前から計画されたのが、今回のアビー姫誘拐、という訳だ。
対立する両者にはそれぞれの言い分と正義があるものだが、今回もそのようだ。
◇
1530。第三連隊の増援と合流して、捕縛した囚人たちを荷馬車で護送した。
アビー姫も王家の豪華な馬車に乗って帰路に付く。
俺たちもバレン隊長と第三連隊隊長に同行を求められたが、昼食を理由に後での合流とさせてもらった。
第三連隊隊長は納得しなかったが、バレン隊長が収めてくれた。
で、遅めの昼食を食べながら、先ほど聞いたエの国の事情を皆に話した。
「ファルス、その切っ掛けとなった崩落事故はオの国の責任なのか、エの国の責任なのか、双方の責任か。それは我々では判断できんぞ。」
「そうだな。」
「オの国王が保障交渉に全く応じないのが気になりますね。」
「オの国に責任が無ければ交渉するでしょうねぇ。つまりぃ責任がある事は知っている、と。」
「そうなるよなぁ。」
「だからと言って我々が直接言っても国王は聞かんだろう。ファルス。」
「そうですねぇ。」
「ですよねぇ。」
「アビー姫に頼むしかないよなぁ。」
「ないわねぇ。」
「ないですねぇ。」
俺たちはクリスを見た。
「なっ、何?」
「クリス、アビー姫に今の事情を伝えてくれ。
その上でこの話を兄の第二王子と国王に伝えて欲しいと言うんだ。」
「そうそう、自分が狙われた事件の事情と、それが解決しない限り、今後も狙われる可能性があるんです。きっと国王を交渉に応じるよう説得してくれますよ。」
「それは分かるけど、その役目が何でうちなのよ。説明ならファルスとホークが上手いでしょ!」
「いや、アビー姫はクリスがお気に入りだから。」
「えっ?」
「もう、大変だったんですよ。アビー姫と二人で待機させられて、どうしようかと思っていたら、アビー姫から”クリス様の事を教えて欲しい”と言われて、もうずーっと話題はクリス大尉の事でしたから。」
「ええっ?でもリサ、そんなに私の事知ってた・・・、レイチェル?」
「えっ?パメラもよ。」
「あっ、中尉!」
「まあ、そういう訳だ、クリス、頼んだ。」
「ふぅー、分かった。リサ、来い。」
「あははは、ですよねぇ、了解です。」
「クリス大尉、アビー姫と別れて40分です。馬車が王都に入るまで2時間はあるかと。」
「よし、馬車に乗り込んで話してくるよ。」
「俺たちもここを片付けたら合流する。頼んだぞ。」
「了解。」
その後、俺たちもアビー王女の隊列に合流した。
第三連隊の第9、第10分隊と第11分隊が引率している。
連隊長とバレン隊長は報告の為、先行して王都に向かった。
隊列はアビー王女の豪華馬車と42人の罪人を載せた荷馬車が4台と第11連隊の犠牲者を載せた荷馬車が1台。
最初の伝令は村に近い道の脇で愛馬と共に殺されていた。
俺たちは第11分隊の副隊長から同行の許可をもらった。
そして、第三連隊の馬上の人となった。
乗馬はいいな。
2時間後、王都に到着した時の俺は、痛む尻に乗馬を後悔していた。
◇
王都オの都は外周を3m程の高さの土壁と石壁で囲われている。
東西南北に4本の街道が出ており、俺たちは西の街門から街に入った。
街門から王城へと続く道を通ってゆく。
街路は石で舗装され、建物は一階を石造り、2階3階を木造りとしているようだ。
王城も1階は石造りだが2階部分は木造りだ。
街は清潔で人が多く、店も多い。
宿屋、飯屋、武器屋、防具屋、道具屋、鍛冶屋、冒険者ギルドなんて大きな建屋もあった。
アビー姫の馬車は人気で人々から声が掛けられる。
荷馬車に載せられている罪人たちには罵声と小石が飛ぶが、第一連隊の制服に気付くとざわつきはじめた。
そして、俺たち月の人にも視線が集まる。
俺たちの白とグレーのパワードスーツの装いも奇異に映るだろう。
多くの人々に囲まれながら街路を進み、城の正門を通り抜けた。
馬を降りた俺達は、アビー姫の馬車から降りてきたクリスとリサと合流し、第12分隊の兵士に案内され大きな部屋に通された。
兵士は「ここでお待ちください。」と言い残して去ってしまった。
「まぁ、事件の報告が終わったら呼びに来るだろう。」
部屋には3人掛けの長椅子が2脚と長テーブルが置かれている。
俺は長椅子に腰掛けた。
壁際にある小さなテーブルには茶器が揃って置かれているようだ。
「長引きますよね?大尉。」
リサが室内を確認しながら聞いてきた。
「そうだろうなぁ。まずは事件の経緯説明をするだろう。まぁここで俺たちの存在が説明されて、会わせろってなるが、説明は進んで、第一連隊が出てくると、俺たちの存在よりも自分とこの問題に話題が移るからなぁ。」
「城内は混乱しますね。」
「第一連隊の残りが気になるな。秘密裏に確保できれば良いが。
クリス、アビー姫の感触はどうだった?」
「かなり動転していたが、兄の第二王子へ説明をし、二人で国王に話すと言っていた。大丈夫だろう。」
「リサ、何してるんだ?」
リサは長引くと聞いてから部屋の隅にあった板のような調度品を動かしていた。
「いやぁ、時間あるならボディスーツを洗っておこうかと思いまして。この部屋の中で土壁で区切る訳にもいきませんからね。」
確かに、いろいろ汚れが目立つな。
「手伝います。」
「うむ、部屋の奥半分を仕切ろう。ファルス、ホーク、その長椅子をどかしてくれ。」
「俺たちも必要かな?」
「カン大尉。呼び出しがあるかもしれませんので、ここは交代制で。」
「そうだな。ホーク、このテーブルも動かそう。」
俺たちの心配を余所に、呼び出しが来たのはそれから4時間後の2200の事だった。
次回39話「王宮の夜」
お食事です。




