99話 2回目の朝食
「貴族達の権力争いの被害者、か。」
「で、その後は加害者になったのか。」
「だが、理解できる。自分と自分の仲間は守らねばならん。」
「この場合は、民衆が暴走したな。だが、王族ならば自分達の動きが民衆に与える影響も考慮すべきだったな。」
「ジャミル国王、いえ、ジャミルさんは王族より冒険者として過ごした年月が長いわ。その辺の感覚が薄かったのね。」
「そうです。ご指摘の通り、私は自分達の行動が周囲に与える影響を考えていませんでした。そして、結果も。」
◇
ジャミルは空席の国王の座に座った。
貴族制の廃止を宣言し、貴族の貯めこんだ財産を国が没収し、国民に配布する通知を出した。
ジャミルが当初から考えていたことだ。
だが、国王の仕事はそれだけではない。
王族と貴族たちはいなくなった。
しかし、国はあり、動かす者が必要だ。
組織は指示を出さなければ動かない。
王都の民兵組織の主だった者を組織運営にあてたが、元は王都の商人や近隣村の農民である。
役所仕事などは分かるはずもない。
地方貴族達に王都に来て仕事をしろ、と通知した。
従わない貴族には軍を差し向けたが、その軍は辺境貴族の財産を巻き上げると、それを着服し現地解散してしまった。
海軍はエの国に逃亡して帰ってこない。
それらの報告を受けても、動く組織も人もいない。
なので、辺境貴族の財産没収は冒険者ギルドに依頼した。
国王の元に届く書類は日々増える。
最近では事の軽重を問わず、あらゆる書類が届く。
食料配給の請願書、盗賊退治のお願い、廃村への再入植申請、軍の移動計画、衛兵への賃金払いの確認、などなど。
イの国の魔法兵団は王都掌握後に国に戻っている。
ジャミルとテレーザと付き人3人で慣れない事務仕事に埋没する日々を過ごしてきたが、限界がきた。
王城裏の川に小船を用意し、ジャミルとテレーザは誘拐を装って脱出する。
3人の付き人も誘拐犯を探すと言って王都を出る。
今夜、王都の南の街道で落ち合い、イの国へ向かう予定だという。
◇
「本当に国を捨てるのだな。」
「私たちは冒険者です。国を治める仕事なんかできません。」
「国王不在となると、ウの国はどうなるんだ。」
「今朝も言いましたが、誰かリーダーとなる人間に出てきて欲しい。彼の元に集う人達ならば国を動かせるでしょう。」
「それは、複数人が出てくると、また内乱が起こるな。」
「その可能性はあります。」
「イの国はどうじゃ?国王不在のウの国を統一しないのか?」
「それは無いです。イの国は基本的に現状維持。他国との交流を避け、人や物資の流通も制限していますから。」
「では、君達の行動は例外なのじゃな。」
「そうです。魔法兵団が力を貸してくれたのも、テレーザを助けるためですから。」
「ふむ。オの国は動かんじゃろうな。ファルス、エの国はどうじゃ?」
「動きようがないだろうな。新王が誕生して貴族制廃止を宣言したばかりだ。1、2年は国内の体制固めじゃないか。」
「えっ。エの国も貴族制を廃止したのですか。」
「そうだ。先日の新年の宴で新王ユーリ2世が宣言した。今年の収穫祭で貴族制を廃止する。これからそれに向けた準備に入るそうだ。」
「そうですか。準備時間があれば、ウの国も混乱は少なかったでしょうね。」
「でも、ジャミル。その時間を無くしたのは貴族達よ。私達は私達が助かるために最善の行動を取ってきたわ。」
「ああ、そうだ。後悔はしていないよ、テレーザ。」
「では、ファルス。外政官としては、今後どう動くんだ?」
「アレク。当初予定していた、ウの国国王への謁見は叶った。協力感謝する。
俺はこの二人を、二人が望む場所に連れて行き、そこで開放するつもりだ。
ウの国の内情は気懸かりだが、これは俺たちが介入する問題ではない。ウの国の国民に任せようと思う。」
「はーい、質問です。」
「いいぞ、リサ。」
「金貨500枚のお屋敷はどうします?」
「・・・取り消せないか?」
「はぁ~、交渉してみます。」
「あの、テレーザさんの付き人さん達との合流は、今夜の予定ですよね。」
「その予定だ。ロッテ。」
「どうやって行きます?屋敷から街を出て行くのは難しいでしょうから、連絡艇で行きますか?」
「目撃されると不味いか。」
「街中の移動は無理だな。国王が誘拐された日の昼間、"見慣れない白い装束の集団が現れて、王城近くの屋敷を買った。" という噂が流れていてもおかしくない。
しかも、次の日にその屋敷を手放そうとしてみろ。これはもう誘拐犯の疑いが掛けられるぞ。
まぁ、その通りだが。」
「そんな集団が国王夫妻と見られる二人の男女と行動を一緒にしては、間違いないですね。」
「アレクとマルビンの予想は正しい。これでは月の人は誘拐犯じゃ。ファルス、隠密行動が必要じゃぞ。」
「移動に関しては、俺たちが屋敷の転送門を集合場所に持って行ってもいいし、リサかレイチェルに遠見の窓を開けてもらう手もある。
なので、心配はしていない。
だが、誘拐犯にされるのも今後のためにならないな。」
俺は時刻を確認した。
「1048、向こうは朝か。ジャミル、国王陛下の朝は何時に始まるんだ。」
「朝は一の鐘で起床します。女中が朝の支度を手伝ってくれるので、誘拐のメッセージをベッドに置いてきました。」
「それは俺も確認した。そうすると、城では今頃騒ぎになっているな。」
「ふむ、国王捜索隊が城の内外を捜索し始めるな。テレーザ、付き人の3人はどのように動く予定なのじゃ?」
「はい。2人は捜索隊を街の東門と西門に派遣し、夜間の街道通過の様子を衛兵に確認させます。
その後、半分を街から外側の捜索、残り半分に街中を捜索させます。この捜索活動は夕方までの予定です。
残る1名は城内の捜索です。
夕方、城に戻った3人は、兵たちを休ませ、自分達だけで街の外の捜索に向かいます。」
「そうして、合流する訳じゃな。ファルス、捜索隊が我々の話を聞く可能性は高いぞ。」
「今日は、あの屋敷で過ごすか、捜索隊が来て、普通に対応して、屋敷の中を見てもらった方が良いな。」
「では、我々も行こう。8人揃っていた方が良いだろう。」
「助かるよアレク。さて、本日のジャミルとテレーザさんには何処にいてもらうか、だが。」
「我々ならば、どこでも構いません。」
「ホークとレイチェルに相談してみるか。クリス、アレク、すまんが先に屋敷に行っててくれるか。」
「わかった。捜索隊を待つ間、屋敷での生活を堪能しよう。」
俺はホークとレイチェルをジャミルとテレーザに引き合わせ、今日一日のお相手を引き受けて貰った。
「まぁ、そうですかぁ。今日は丁度ぉ行こうと思っていたところがありますのでぇ、ぜひご一緒に行きましょう。」
「私の妻も一緒に行きますので紹介します。」
「どちらに行かれるのですか?」
「ふふふ、お二人が初めて行かれる所ですぅ。凄く綺麗な場所ですからぁ、楽しんでくださいねぇ。」
ホーキンス生産部管理官との旅で良い所を見つけたそうだ。
◇
屋敷に着くと、おいしい肉の焼ける匂いが漂ってきた。
暖炉には火が点けられている。
食堂ではシャーリーとロッテが掃除をしていた。
「皆はどこに行ったんだ?」
「あ、カン外政官。アレク班長達は離れの部屋で、昨夜寝ていた風の細工をしに行きました。
クリスさんは隣でお肉を焼いています。リサさんは食器が無い、と言って、村に戻ってますよ。」
「そうか。じゃあ、俺は上の部屋で寝てくるか。」
俺は二階に上がり、右端のドアを開けた。
ここは書斎のようだ。本棚が並び、机と椅子がある。
机の上は片付けられているが、本棚の中身はそのまま残されている。
ここの主人が立ち退くのに時間的猶予は無かったのだろう。
隣の部屋は主寝室だ。
大きなベッドが2台並んでいる。
寝具はそのまま残されているので、俺はベッドに寝転がり、一晩寝て起きた風に少し乱しておく。
続き部屋の扉がある。開けてみると衣装部屋だ。
女性用のドレスや靴がある。
男性用のスーツも端の方にあるな。
残り2部屋にも入り、ベッドを乱しておく。
◇
朝食は鹿肉のスライスと焼き卵のサンドイッチとコーヒーだ。
2回目の朝食だが、美味いものは良い。
「しかし、捜索隊がいつ来るか分からんし、今日は来ない可能性もあるんじゃないか?」
「それも考えられるな。」
「昼間に全員が屋敷に閉じ篭っているのもおかしいだろう。ファルス、俺たち3人は冒険者ギルドで仕事を受注してくる。誘拐犯なら、そんな行動しないだろう?」
「うーん。それもそうだな。」
「そうだ。お前も城の衛兵詰め所に行ってこいよ。まだ謁見の申請は取り消していないだろう。」
「うむ。アレクの考えは一理あるな。離れで考えたのか?」
「ああ、そうだよ。」
「じゃあ、私たちはどうしましょう?」
「私たちまで居なくなると、ここが留守になりますからね。」
「仕方ない。屋敷を使えるように整理するか。」
「あっ、ストップです。屋敷の契約破棄は、どうします?」
「すまん。しばらく、国王の誘拐が街中に知られるまでは待ってくれ。
その後に理由をつけて返そう。街を離れるからと言って。」
「そうしますか。」
「よし、朝食を食べ終わったら冒険者ギルドに行くぞ。」
「リサとシャーリーで街に買い物に行ってきてくれ。少し食料を買って、うちらが滞在する雰囲気を出しておこう。ロッテはうちと屋敷の片付けじゃ。」
俺はアレク達と共に屋敷を出て、城門へと向かった。
◇
城門前には衛兵が一人だけ立っている。
「おはよう。謁見の申請の許可が出ていないか確認に来た。」
「本日は許可証は発行されていない。帰りたまえ。」
「今日は一人なんだな。」
「そういう日もある。」
「そうか。」
俺は収穫なく城門から離れた。
城門前の通りには、武器屋、道具屋、宿屋、共同住居などが建ち並んでいる。
道具屋に入り、砥石とロープの束を買う。
「まいど!」
「国王陛下に会えるかと思ったんだが、なかなか会えないものだな。」
「へぇ、お客さん、国王様にお会いになるんですか。」
「ああ、昨日エの国からここに来たんだ。エの国での話をお知らせしようと思ってね。」
「なるほど。それでお客さんは、そんな格好なんですね。」
「私の格好が変かな?」
「変って言うか、珍しいんですよ。ここいらじゃあ、そんな白くて綺麗な服は貴族様しか着ないですからね。でも貴族様は国王陛下が追っ払ってしまったんで、もう王都には残ってないはずだし、ってね。」
「そのようだな。昨日、冒険者ギルドで聞いたよ。この周辺は内戦の影響は無かったようだな。」
「ええ、内戦があった事すら知らない有様で。それぐらい、ここは静かでしたよ。
あっ、今朝は騒がしかったんで、何かあったみたいですがね。」
「騒がしかった?王城が、か?」
「そうです。衛兵どもが騎馬に乗って、たくさん出て行きましたよ。」
「そうか。」
捜索隊は予定通りに動いているようだ。
次回100話「ファルスの推理」
ファルスの推理によって真実が明らかに、なるのか?




