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第四惑星  作者: ブルーベリージャム
第五章 ウの国
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98話 国王の事情

国王陛下と王妃殿下は地面に降り立ち、俺たちと向き合った。

国王は腰に剣を、王妃は背中に140cm程の杖を背負い、腰に短剣を挿している。

「貴様らは何者だ。」

「私は、月の人ファルス=カン。こちらはクリスティン=サワー。ジャミル国王陛下でいらっしゃいますね?」

「そうだ。私はジャミル=ラーゼンガー。王妃のテレーザだ。」

「そうですか。では、こちらを受け取っていただきたい。」

俺はジャミル国王に謁見の申込書を渡した。

「何だこれは?暗くてよく見えんが、謁見の、申し込み?」

「はい。丁度、我々が買った屋敷があちらにありますから、あちらでお話しませんか?」

「断る、が、従った方が良さそうだな。」

「ジャミル。」

「テレーザ。彼らが敵なら、城壁の途中でやられている。それに、ここで騒ぎを起こす訳にはいかない。」

「そうね。」


俺が国王陛下を、クリスが王妃殿下を抱え、川を飛び越え屋敷に戻った。


◇


「寒いな。」

「明かりは点けないのかしら?」

「ファルス。ここはまだ勝手が判らんぞ。」

「そうだな。外政官の館の方が良いな。」

俺たちはさらにレギウス村の外政官の館に転移した。


◇


レギウス村、外政官の館。

2階の応接室にジャミル国王陛下とテレーザ王妃殿下をお連れした。

俺は魔石暖炉に火の魔石を置き部屋を暖める。


「さっきのは転移魔法だろう?」

「そうです。でも足元に魔方陣が無かったわ。」

「ああ、あれは転送門と言います。我々の仲間が作りましたが、まだ魔方陣の仕組みを知らない頃に作ったので、こちらの方には異質に見えますか。」

「えっ、ええ。でも素晴らしい物ですね。」

「ありがとうございます。」

ガチャ。

扉が開き、クリスがワインとグラスを持ってきた。

「すまない。この時間なので手伝いの者がいなくてな。無作法じゃが許されよ。」

「ああ、構いません。それより、話を聞きます。」


「改めて名乗ろう、私はファルス=カン。月の人だ。」

「月の人?」

俺は久し振りに月の人の説明をした。

さらに左腕の情報パネルを利用して、第四惑星と各大陸、オの国、エの国、ウの国、そして別の大陸にあるレギウス村。

説明は60分を超え、国王陛下と王妃殿下は理解が追い付かず、混乱していた。


「ファルス、今夜はもう時間も遅い。話は一度切り上げた方が良いな。」

「そうするか。だが、お二人にはどちらで休んでもらうか。」

「うちらはカッシーニで休もう。お二人にはここの休憩室で休んでもらう。」

「私たちは構いません。冒険者として長い間過ごしてきましたしたから、どこでも寝れますよ。」

ジャミル国王は緊張と警戒が薄れると年相応の口調で話すようだ。

「ふふふ、休憩室のベッドは我が村の特製じゃ。あれを経験すれば、もうその辺の宿屋では寝れなくなるぞ。」

クリスは楽しそうに言って、二人を案内した。


◇


翌朝0600。

冬の朝は冷たく、薄暗い。

少し早めに起きた俺とクリスは食堂で4人分の朝食を準備し、外政官の館に向かった。

2階の応接室に朝食の準備をして、休憩室の二人をクリスが起こしに行く。


応接室に現れた二人は、さすがに眠そうな顔をみせた。

「おはようございます。短い時間でしたが、休めましたか?」

「おはようございます、カン殿。素晴らしいベッドでしたが、いささか寝覚めが悪く、申し訳ない。」

「本当に、身体が沈んで、包み込まれる様な感覚で、あっという間に寝てしまいました。身体も頭も、まだあのベッドに戻りたがっています。」

「そうですか。」

これには理由がある。

彼らの感覚では昨夜の2400頃に脱出し、その後我々と2時間ほど過ごして就寝したことになっている。

なので、彼らの計算上の睡眠時間は8時間だ。

だが、レギウス村との時差のために、実際は4時間しか寝ていない。

もう少し休ませてやりたいが、こちらも二人の事情を早めに知っておきたい。


二人はソファに座るが、朝食には手をつけず、スープを飲んでいる。

「実は、我がレギウス村をお二人に案内しようと思ったのですが、ある懸念があります。」

「懸念、ですか。」

「そうです。我がレギウス村にはウの国からの難民が住んでいます。つまり、昨年の内戦の被害者であり、夫や子供を失った者が多い。

その中を、君達をウの国の国王と王妃として案内するのは危険です。」

「そうですね。ですが、私達はもう国王でも王妃でもないのです。私達は国を捨てました。」

「それは・・・、昨夜の脱出、誘拐劇の原因ですか。」

「はい。私達ふたりは国を捨てることを決め、昨夜王城を抜け出したのです。

ですが、国王が国を捨てる、とは言えません。ですので、誘拐されたことにして行方をくらまそうと考えました。

もし、私達を探そうという者が現われれば、国はその者を中心にまとまるでしょう。

元々あの国には僕に従う者など、いないのです。」

「ジャミル。」

テレーザ王妃がジャミル国王の手を取る。


「そうか、うちらは誘拐犯じゃぞ。ファルス。」

「そう見えるな。」


俺はリサ達昨日のメンバーに食堂への集合と今後の対策検討会の開催を伝えた。

ホーキンス生産部管理官にはアレク達を借りることも伝える。

「ジャミル、テレーザ。すまないが場所を移します。一緒に来てください。」

俺たちはカッシーニ81の食堂に移動した。


◇


「あの鉄の城は!?」

「あれは、ゴーレム!?」

食堂に着くまでにも色々と衝撃を受けつつ、二人は席に着いた。

既にアレク達は集合している。


「おはよう。早速だが二人を紹介しよう。ウの国のジャミル国王とテレーザ王妃だ。

二人は国を捨てる事を決意し、昨夜、王城を脱出したところで我々と遭遇した。」

皆の顔がきょとんとしている。予想外の事だろう。

「あの、どうして、そんな話に。」

「うむ。リサの疑問はもっともじゃ。うちもファルスも、まだ詳しく聞いていない。ジャミル国王、できれば内戦に至った経緯から話していただけると助かるのじゃ。」

「ジャミル国王、ご説明次第で、我々は今後の行動を決めなければならない。」

「つまり、私達の敵にも成り得る、と。

判りました。では、お話しいたします。私の物語を。」


ジャミル国王は長い話を聞かせてくれた。

幼少時に国の特使として周辺国を回ったこと。

その時に出会った冒険者達と道中の旅の思い出が忘れられなかったこと。

15歳になって、王城を抜け出し、冒険者ギルドで偽名で冒険者登録したこと。

イの国に渡り、冒険者として生活し、テレーザに出会ったこと。

テレーザはイの国の魔法兵団の一つを預かる支団長として活躍していた。

巨大な魔物討伐、洞穴から溢れ出た魔物の群れの掃討、広大な迷宮からの逃避行など、いくつかの作戦で一緒に行動を共にし、仲を深めた。

そして、ジャミルはテレーザに結婚を申し込み、テレーザはそれに応えた。

ジャミルは当時所属していた勇者パーティーを抜け、ウの国に帰還した。

テレーザも一緒であり、魔法兵団で一緒だった団員3人が付き人として一緒に来た。


「勇者パーティー?」

「そうです。イの国最強戦士のパーティーに所属していました。そのおかげでテレーザと出会えたのです。」

「巨大な魔物に広大な迷宮。イの国は楽しそうじゃな、ファルス。」


◇


ジャミルはウの国に帰還するも、15歳で行方不明となった家出息子だ。

母親には手紙を出していたが、父王は許さなかった。

そして王位継承が決まっている兄の第一王子も良い顔をしなかった。


ジャミルは両親にテレーザを紹介し、結婚し今後は二人でイの国で暮らすことを伝えた。

それを伝えて去るつもりだった。

だが、母親である第一王妃が反対した。

ウの国の王族に連なる男子が他国に行ってはならぬ、と。

そして、第二王妃と第二王子は、そんな男を生んだ母親である第一王妃を非難し、同じ血の流れる第一王子に王位継承の資格が無いと言った。

それぞれには、支援する貴族連中が付いている。


ただ、挨拶がしたかっただけなのに。

ただ、妻となる女性を紹介したかっただけなのに。

ただ、言葉だけでも祝福が欲しかっただけなのに。


ジャミルとテレーザが過ごしたイの国には国王も貴族もいない。

国を纏める議長はいるが、世襲ではない。

10年毎に議員から選出され、連続して任じられることは無い。

議員は各地から選出され、最長20年と決められている。


ジャミルにとって、地位と権力と金銭を求めて蠢く貴族連中は害悪でしかなかった。

すぐにイの国に帰ろうとした。


だが、第一王子派の貴族連中が動いた。

ほぼ王位継承が決まっていた話を、再び混乱させたジャミルとテレーザを狙い、策を練り、実行した。

場所は王宮の中庭のひとつ、とある伯爵夫人主催の茶会が催され、第二王妃も出席していた。

この第二王妃側の茶会に招待されたジャミルとテレーザであったが、これは罠であった。

第二王妃は招待していない、と言った。

中庭の周囲にいたはずの衛兵がいない事に気付いた時には遅く、その場に黒煙が湧き上がった。

叫び声やテーブルの倒れる音、カップの割れる音が聞こえた。

そして幾人かの足音。

煙が晴れたとき、何人かの夫人が血を流して倒れていた。その中に第二王妃も含まれていた。


生き残った婦人の一人が、茶会に招待されなかった事に不服だったテレーザが魔法で黒煙を作り、ジャミルが剣で皆を刺し殺した、と騒いだ。

ジャミルとテレーザは投獄された。

だが、二人はその夜にテレーザの3人の付き人たちによって救出される。

その者たちの調べで、全ては貴族どもの企てである事は分かった。


そして、第二王子は母を殺したと第一王子を責め、第一王子は全てジャミルの企て、としてジャミルとテレーザの死刑を決めた。

第一王子は敵対する第二王妃を殺め、邪魔なジャミルを葬れる。


このままイの国に逃げても、追っ手が来るかもしれないと怯えて暮らすことになる。

イの国の仲間に犯してもいない犯罪の噂が届くかもしれない。


ジャミルは決意した。

全ての元凶は貴族だ。奴らの特権を全て奪って平民にしてやる。

テレーザの仲間はイの国に戻り、魔法兵団を召集して戻ってきた。


そして、王族と貴族への暗殺と襲撃を始め、戦闘は次第に大規模になった。

"貴族を平民に"のスローガンが民衆にも知られるようになり、民兵が集まった。

ジャミルの知らないところでも民兵が組織され、地方領主が襲われた。

内戦は混乱の度合いを深めていった。


ジャミルが王都を掌握した時、戦火が国内全体に広がっていることを初めて知った。


次回99話「2回目の朝食」

レギウス村からウの国王都スーザに移動します。

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