ナルシスト教師の戯言
4月21日 午後04:00 1ーA教室
ここ、聖宮学園は裕福な家庭の子息・令嬢達が通う中高一貫の私立校だが
ちゃんと勉強できる奴だけが通れるように試験がある。
だが、高等部編入の生徒は本当に稀という位中等部入学の生徒が多い。
今年の編入生は私と現在行方不明中のヒロイン「那由多日華」の二人。
つまり今のところ一人という訳だ。
今は帰る前のショートホームルーム。
いわゆる「帰りの会」の真っ最中である。
私は元々、こんなセレブ連中と一緒ではなく、ごく普通の公立小・中学校の出身であるため
こんな俗世の知識が身に着いた。
付け加えると実のところ、中学校は二年生の途中でこちらの世界に来てしまったので
実際毎日勉強面で皆に追い着こうと精いっぱいだ。
しかも、こっちじゃ優等生だという。
家庭教師の先生がいなきゃ死んでた。
誰に説明してるんだろうね、私は。
ただ、自然とそんな使命感が湧いてきたんだ!(キリッ)
そんな感じでテキトーに担任の話を窓から中庭を覗きながら聞いていた。
登校初日も同じように聞き流していたなぁ、と。
ヤンデレ生徒会副会長からの一件から三日が経っていた。
三日間せっせと学園の事を調べていたので、もうクタクタに疲れてしまった。
だが、聞き込みをしている間にクラスメイトとも少しずつ仲良くなった。
あと、私の学園生活での初めての友人「香月瑠璃」は出会って三日後に
同じクラスであることが分かった。
本人はずっと知っていて当然向こうも気付いているとばかり思っていたらしいが
このクラス意外とキャラの濃い人達ばかりで私は全く気付いていなかった。
後にそれを知った彼女は涙目でショックを受けていた。
流石に「門地瑞貴」さんは同じじゃなかったけど。
「星宮は後で生徒指導A教室に来るように。以上」
・・・・・は?
っえ? 何? お呼び出し、食らった?食らっちゃった?
~夜部冥利~
俺はここ、聖宮学園高等部1-Aの担任を若くして就任した。
俺自身もこの学園の出身であり、仕事もし易かった。
俺はクラス、いや、学園の生徒からとても好かれた教師である。
全体的に人気の教師だが、特に女子生徒、
それから一部の男子生徒からの熱烈な支持がある。
俺は女の方が好きだけど・・・。
現在、下校前のショートホームルームなのだが、
今年の唯一の編入生である「星宮玲」という生徒だけこちらを見ていない。
俺は学園一人気の教師だというのに・・・。
よし、呼び出そう。
と、思い立って呼び出した。行動力は俺の美点の一つである。
4月21日 午後04:10 生徒指導A教室
パイプ椅子、長机、パイプ椅子。
そういう風に向かい合って座った。
しんとした5秒間が5分間に感じられた。
何故、何も言わないんだ?
ああ、そうか。呼び出した俺から始めるのか。
普段であればそんな事くらい分かり切っている。
不覚にも何の反応も示さないこの生徒に動揺しているのだ。
「あー。登校初日も思った事なんだが、中庭ばかり見ているな。
何か面白いものでもあったのか」
「そんな事で呼び出したんですか?
・・・木、草花は見ていて飽きないですよ」
思わず笑ってしまった。
「そんな物が何だと言うんだ?
あの庭園は理事長の意思により無駄に広く作ってあるが
その殆どを多くの生徒達が使っていない。「汚れる」と言ってな。
お前も、もうすぐ理解できると思うぞ」
こんな事を言えば不快になるか。
と思えばやはり、顔色一つ変えやしない。
「まあいい。とにかく、人の話は目と耳と心で聴くように」
「解りました。今後気を付けます」
反抗する訳でもないし。
これから俺の事を崇拝するように仕向ければいいか。
他の生徒は確実に俺の事を意識しているというのに
赤面も、はにかみもしないので俺はイライラしていたのだ。
長机に肘をつき、人差指でトントンしてしまった。
つい、分かりやすい態度を示してしまったので、すぐにやめた。
とりあえず許す。俺は心も広いのだ。
俺の美点の二つ目である。絶対に覚えろ。ここ、テストに出るから。
「失礼しました」
星宮はドアの前で軽くお辞儀をして、さっさと出て行った。
「俺はこんなにも生徒に好かれ、しかも、恋する者も少なくない。
・・・・・俺は恰好良いよな。美しいよな?」
~星宮玲~
『ピッ』
ケータイ持ちながら壁に背を預けていた。
それから不敵ににやりと笑った。
録音済。
「夜部冥利」。聖宮学園高等部1-A担任、学園一人気の教師。
別に、何か恨みとかある訳じゃないんだけどね。
しいて言えば今さっきの事とか?
この世界に来てまだ少ししか経っていないから
警戒心とか不信感とかあって、毎日を気を張り詰めて過ごしている。
(どうでもいい時間は論外。担任の話とか。)
今の独り言は確実に弱点になる。大きな痛手となる。
少しでも、帰れるためのピースはあった方がいいよね。
さて、今後どこで何に使えるかな~?