338話
それを視線からシシーは読み取る。一挙手一投足は思考に繋がる。
「あぁ、警戒しなくていい。と言ってもそれも難しいか。だが、敵ではないし苦しめようとかそういうのでもない。話をしたいだけ——」
「それで? 特にこっちには話はないんだけど」
向こうが言い切る前にカッチャは言葉をぶつける。平常心。深くソファに沈み込み、足を組んで対等な立場を装う。
一瞬、気圧されたような表情を見せるシシーだが、すぐに微笑を浮かべて話を続ける。
「なるほど、俺の読み違いだったかな。ならば一方的にこっちから話そう。なに、答えたくなければそれでいい。ちょっとしたことだよ。俺にはどうでもいいことだからね」
ほんの少し。目の前の人物に興味が高まる。
やっと、店全体が見回せるくらいにはカッチャの視野も広まってきた。先ほどまでは相当に狭められていて、角度で言うと四五度ぶんくらいしか見えていなかった。それは心の落ち着きも意味する。
「……で、なんで私が話あると思ったの? それだけ聞いとくわ」
「どうぞ。アーモンドミルクラテです。お好き、でしたよね?」
スッ、と笑顔のユリアーネがブレンドのコーヒーを二つ、トレンチからテーブルに置いた。味を改良中でまだ試作段階、だが自信のある一杯。
一週間ほどエイジングした豆で淹れたもので、コクがより感じられる。紅茶派のアニーのような、その人に合った一杯、などは自身にはできない。だからこそ、地道で確実な進歩を目指し、日々研究している。表面にはフェニックスのラテアート。
それを見たシシーは破笑する。
「あぁ、よく知っているね。ありがとう。すごいね、これは」
「いえ、ごゆっくり」
パリに留学している間、知り合った人物にラテアートを習っていたユリアーネ。少し出過ぎた真似だったかも、と悩んでいたが、喜んでもらえたなら嬉しい。




