第18話 最弱の英雄
「認めねばなるまい…敗北をな」
ガレアスは状況を理解し、ようやく言葉をひねり出した。
『敗北と卑下することでも、ない。いろいろなことがうまく行きすぎただけだ。お前が退けば、引き分けでいい』
ガレアスは頬のひげを撫でた。その行為は、戦意はもう挫けているとノートの目に映った。
「一つ問おう。貴様、名は」
『ノートだ。魔王軍にこんな姿にされたが、もとは人間だ』
「ノート、か。貴様は必ず魔王軍の障害になるだろう。しかし、今はその命を預けておく。そして、敗北の汚名は、いずれ貴様がその名を上げた時、殺すことで雪ぐこととしよう」
『ああ、是非そうしてくれ。俺たちの目的は正反対だ。この場で決着をつけずともいずれまた交わる』
その言葉を受け、獣王ガレアスは身をひるがえし、背を向け夜の闇に消えていった。警備隊から歓声が上がり、戦いは終わりを迎えた。
『サンゴ、作戦B大成功だ。よく、頑張ったな』
ノートは手羽先でぽんとサンゴを叩いて言った。
ノートの立てた作戦Aは獣王ガレアスを倒すことを目的とした作戦。作戦Bは獣王ガレアスを撤退させることを目的とした作戦であった。サンゴの力で魔王軍を壊走させ、コスカの街の戦力すべてを獣王ガレアスに集中させる。
作戦の成功を見届け、ノートはサンゴの腕の中で崩れ落ちた。
─────
「すごい数だな」
ノートとサンゴの出国の日が来た。獣王ガレアスの襲撃を撃退し、ノートとサンゴは街の英雄となった。その人気は大変なもので、おかげで船の順番も優先して都合してもらえたし、ノートのガマ口財布は街の人のカンパで金貨でパンパンに膨れ上がっている。
「まさかペンギラーが街を救うとはなぁ…」
見送りに来た宿屋の主人がぽんぽんとノートの頭を叩く。
「ほら、餞別だよ」
女将はノートに鮮やかな青のマフラーを巻いてくれた。
『これは勇者の織布か…高級品だ』
勇者の織布で仕立てられた服は、丈夫で防御力も高く、身に着けたものにリジェネレートの効果を付与する。
「これでうちの店のことを宣伝してきてね!」
その言葉にマフラーをよく見ると、「港町コスカにおいでの際は宿屋フラッパーへ!」と丁寧に刺繍されている。
『高級品、なのになぁ…』
旅館の手ぬぐいのようになっているのが、ノートにはちょっと残念だ。
「サンゴはリボンにしてもらいました!」
サンゴは勇者の織布をリボンにしてもらい、ノートに新しいリボンを見せびらかした。
『ああ、よく似合っているぞ』
「またコスカに来ることがあったらうちに泊まってくれよ」
「歓迎するからね!」
その言葉にサンゴは元気よく返事をし、ノートはグヮーと鳴いた。
(次はこの姿でないことを神に願うばかりだ)
そう思いながら、見送りを背に貨物船に乗り込んだ。
「すごい見送りの数ですね!」
振り向いたサンゴが言う。港は、街の英雄の一人と一匹を見送るために押し掛けた人でぎゅうぎゅう詰めになっている。魔獣であるペンギラーを冷ややかな目で見る者は、もう居ない。
『この姿だとスピーチをしなくていい分気が楽だな』
ノートは真新しいマフラーを潮風になびかせ、スピーチの代わりに大きく手を振る。一際見送りの歓声が大きくなり、港に紙吹雪が舞った。
「船に乗るのは初めてです!」
『俺も国外に出る船に乗るのは初めてだな…』
王宮仕えのノートは王国の領地から出たことがない。はしゃぐサンゴとは対照的にノートは不安を胸に秘めながらも顔を上げた。
ノートとサンゴの旅の舞台は西のロシマ連邦へ移る。




