物語の終わり
父に面差しの似た青年が訪ねてきてから、
夜空の星を線でつないで星座を作ったりして過ごしたり、
庭に青虫が大発生して慌てたり、
耳の尖った見た事もない人達が隊列を作って通りすぎるのを見たりした。
私の助けた小鳥の雛は立派な親鳥になって今度は雛を孵した。
その雛が蛇に食べられて、その蛇を別の鳥が食べて、鳥はお庭の青虫を食べて食べられなかった青虫は綺麗な蝶になって飛び立った。
わたしは繰り返される命の営みをただただ眺めていた。
気がむけばお願いして風に木の葉を揺らしてもらい、美しい花を咲かせてすごした。
弟達もニーナも、庭師のおじいさんもいつの間にか姿を消して、
館も蔦に覆われ屋根が落ち、床が落ちた。
塔だけはあいかわらずそこにあって、雨もりはするけれど、小動物たちの格好のの避難場所になっている。
私はいつまで私のままでここにいなければならないのだろうか。
もうかつての私としての記憶はあやふやだ。
時々自分が本当にここにいるのかわからなくなる。
叢からバッタがはねて飛んでいく。
それを小さな動物が咥え、巣穴に運んでいく。
雨上がりの庭はさまざまな命で躍動しやかましい程だ。
ーーまだそこにいたの?
誰かが話しかけてきたような気がした。
(うん、ずっと一人でいたけど寂しくはなかったよ)
私はそう答えた。
私の隣にその誰かは寄り添った。
ーー長い間かかったね
(うん、すごく長かったような気もするし一瞬だったような気もする)
私は答えた。
(なんかもういいかなって思えるの)
かつてないほど私の意識は透明になっていき溶けていく。
隣の何かにとけていく。
ーーおかえり
その何かは言った。
--ただいま
だから私は笑って言った
風が一陣通りぬけるとそこにはバラバラになった石づくりの塔の残骸が、わずかに残るだけだった。