赫(あか)い閃光
視界を埋め尽くす猛烈な砂煙が、容赦なく三人の体力を削り取っていた。
一歩先を歩く緒方の背中すら霞む中、立花は顔を腕で覆い、荒い息を吐きながら一歩ずつ砂を蹴った。
「……信じられない。何が悲しくて、こんな砂だらけの場所を歩かなきゃいけないのよ」
立花は毒づきながらも、決して二人の歩調から遅れまいと必死についてくる。誰に強制されたわけでもない。神殿に残って、あの正体不明で薄気味悪い榊と同じ空気を吸い続けるよりは、まだこの刑事たちと行動を共にする方がマシだと、彼女自身の意志で選んだ道だった。佐藤という青年が残っているとはいえ、今の彼からはかつて一夜を共にした時の面影は消え、榊と共鳴するような冷たい知性しか感じられなくなっていたからだ。
いくつ目かの丘を超えようとしたその時、高瀬の足が深く砂に沈み、バランスを崩して転倒した。
「うわっ……!」
「高瀬! 大丈夫か!」
前を行く緒方が立ち止まり、手を差し伸べる。だが、その数秒の停滞が命取りだった。周囲は一面の白い壁。視界を遮る砂のカーテンが、一瞬にして三人の距離感を狂わせた。
「緒方さん! 立花さん!」
高瀬が慌てて立ち上がり、周囲を見回す。だが、そこにはもう緒方の背中も、不服そうに歩いていた立花の姿もなかった。砂の咆哮だけが鼓膜を打つ中、突如として視界の端で**「赫い閃光」**が爆発した。
「――っ、あんた、何よ……その顔」
砂煙の向こうから、立花の震える、しかし挑発的な声が響いた。
高瀬が音のする方へ駆け寄ると、そこには砂嵐を突き抜けてそびえ立つ、あの「紅い光の巨人」と、その足元で身構える立花の姿があった。
巨人の顔の空洞から放たれる紅い光が、立花の全身を舐めるように照らし出す。
「来ないでって言ってるでしょ……! 私が何をしたっていうのよ!」
立花は逃げ場のないことを悟りながらも、鋭い視線で巨人を睨みつけた。だが、巨人の動きは無機質で、かつ圧倒的に速かった。
巨人が腕を振り上げた瞬間、その指先が鋭利な槍のように変貌する。
「立花さん、逃げて――!」
高瀬の叫びが届くより早く、機械的な駆動音と共に、巨人の一突きが立花の腹部を深く貫いた。
「……ぁ、……っ」
立花の口から鮮血が溢れる。彼女は自分の腹を貫く鋼のような指を掴もうとしたが、力なくその手は滑り落ちた。彼女の瞳に宿っていた強気な輝きが、紅い光に焼かれるように急速に失われていく。
巨人は、仕留めた獲物に興味を失ったかのように指を引き抜くと、今度はその手を「人間の手」のような形状へと滑らかに変容させ、周囲を索敵し始めた。
「高瀬! こっちだ!」
背後から現れた緒方が、茫然と立ち尽くす高瀬の襟首を掴んで強引に引き寄せた。
「来るぞ! 逃げるぞ!」
二人は岩場の陰へと滑り込み、息を殺した。
立花の最期の呻き声すら砂嵐に呑み込まれ、やがてあの不気味な足音も遠ざかっていく。
……。
……静寂が戻った後、緒方と高瀬は重い足取りでオアシスの小屋へと辿り着いた。
「……あ、ありました」
高瀬は、震える指で小屋の壁、木材の隙間に挟まっていた写真を引き抜いた。
差し出された写真を一目見た瞬間、緒方の表情が劇的に崩れた。
こみ上げてきたのは、あまりにも皮肉な「一致」に対する、やり場のない感情だった。
「…………っ、……はは、……っ」
緒方の目から涙がこぼれ落ち、それと同時に、小さな、乾いた笑いが漏れた。
「……すまない、高瀬。……笑っていい場面じゃないんだがな。あまりにも、出来すぎている」
緒方は目元を拭い、刑事としての顔で写真を凝視した。
「……間違いない。この家族写真。隣で笑っているこの小さな男の子……。これは俺があの日、警察署の暗い部屋で、何度も、何度も目を通した事件資料の……あの、12年前に亡くなった子供そのものだ」
写真の中で笑う無垢な姿が、この地獄のような砂漠の現実と、過去の悲劇を一本の残酷な線で繋ぎ止めていた。




