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『断絶のプラットホーム 〜遮断機の向こう側〜』  作者: ユタカ
『断絶のプラットホーム 〜遮断機の向こう側〜』

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分岐する思惑

 神殿の冷たい石床に座り込み、濁った水を喉に流し込みながら、高瀬の脳裏にふと一つの記憶がフラッシュバックした。

(そういえば……)

 ここへ辿り着く前、あの「先生」と呼ばれていた盲目の老人がいたオアシスの小屋。その内壁の、朽ちかけた木材の継ぎ目の隙間に、一枚の古びた写真が挟み込まれていたはずだ。

 若かりし頃の佐伯と、その傍らで優しく微笑む妻、そして幼稚園児くらいの小さな男の子が写った、幸せそうな家族写真。

 先ほど緒方が語った「12年前の事件」という時間軸と、あの写真に写っていた家族の姿。それらを照らし合わせれば、立花の言う「先生」が、12年前に失踪した「佐伯」という男であることの、決定的な裏付けになるはずだ。

 高瀬は傍らに立つ緒方の袖を軽く引き、周囲に聞こえないよう声を潜めてその事実を伝えた。

「……緒方さん。さっきのオアシスの小屋の壁に、家族写真が挟まっていました。木材の隙間に。佐伯の若い頃と、奥さん、それに小さな男の子が写ったやつです」

 その言葉に、緒方の目が鋭く細められた。

 刑事の血が騒いだのだ。誰の目にも留まらないような場所に隠されていた「物証」。それは、この狂った世界で現実世界の事件と自分たちを繋ぎ止める、唯一の楔になるかもしれない。

「……なるほどな。よし」

 緒方は短く呟くと、立ち上がって神殿の奥を探索し始めていた榊たちの方へ向き直った。

「俺は一度、ここに来る前に見つけたというオアシスの小屋に戻る。そこにあるもので、少し確認したいことができた」

 その唐突な単独行動の宣言に、壁画を眺めていた佐藤が驚いて振り返った。

「えっ? 一人で戻るんですか!? 外はまだ砂煙が酷いし、あの紅い光のバケモノがうろついてるかもしれないんですよ!?」

 立花は面倒くさそうに鼻を鳴らす。

「物好きね。勝手に行けば? 私はもう一歩も歩きたくないから、ここで休んでるわ」

 だが、その場を支配する不穏な空気を断ち切ったのは、榊の静かで、しかし有無を言わせぬ声だった。

「なら、君と、そこの君もついて行くといい」

 榊は、まるでチェスの駒でも動かすかのように、冷徹な視線で立花と高瀬を指差した。

 高瀬の背筋に氷のような悪寒が走る。榊は、高瀬の顔も素性も知らない。自分が三日前に惨殺した女の夫だとは露知らず、ただ「自分の探索に邪魔な人間」として、高瀬を緒方という刑事に押し付け、厄介払いしようとしているのだ。

「私と佐藤くんは、ここに残ります」

 立花の抗議の隙も与えず、榊は神殿の壁にびっしりと刻まれた古代文字や、異様な彫像群へと視線を移した。

「……私は少しばかり、言語学や考古学に明るくてね。この壁画の法則性を見抜ければ、この世界の成り立ちや、脱出の糸口を探るために佐藤くんに協力できるかもしれない。大所帯で動くより、手分けした方が効率的でしょう」

 極めて理路整然とした提案だった。

 緒方にとっても、あの異常な殺人鬼から高瀬を引き離せるのは好都合だ。だが、その代償として、佐藤を榊という化け物と二人きりにさせてしまうことになる。

「……佐藤。お前はどうする」

 緒方が鋭い視線を送ると、佐藤は不安がるどころか、青年実業家特有の計算高い、余裕を含んだ笑みを浮かべて肩をすくめた。

「僕は……ここに残りますよ。外の砂煙の中を闇雲に歩くより、よほど賢明な判断だと思いますしね。榊さんと手分けして、ここを調べさせてもらいます」

 怯えなど微塵もない、冷めて落ち着き払った声だった。

 もはや、止める理由はなかった。

 互いの腹の底にあるドロドロとした思惑を隠したまま、一行はついに二手に分かれることとなった。

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