随伴
僕が覚えているなかで一番古い記憶は姉から殴られている記憶だ。
そしてその記憶は俺が知っている姉の唯一の記憶でもある。
ただひたすらに執拗に僕の顔に拳を叩きつけていた、あの時なぜ姉は僕を…
「…い、おい!!」
俺はその声で目が覚めた。
「ん?あぁ…僕寝てた?」
改めて辺りを見渡すとそこは何時もの広場だった。
歩道はコンクリートでしっかりと舗装され、端に植えられた木々の根元にはスプリンクラーが低いところに虹をかけ、辺りには複数の親子連れ。
そして木の高い所では片手に収まるほどの剪定ドローンが飛び交っていた。
そして脇には…親友の
「トォーア、やっと来たのかい?」
「ごめん!ヴェットのアップデートがあってさ!」
そう言うと彼は自分のヴェットが入っている右こめかみを指先でつついた。
走って来たのだろうか彼は少し息があがっていた、僕が少しベンチを横に詰めると空いたところに彼が座った。
「そろそろ暑くなってきたな、あの親子だなんてもう半袖だぞ?まだ7月だってのに…ん?」
と少し不思議に思ったのかトォーアは親子に耳を傾けた。
「…盗み聞きとは、あんまり褒められたものではないよ?」
「まぁいいじゃねえか……へぇ今日は子供の音楽発表があったみたいだな、お父さんが天才だって褒めてるよ…「うちのべネットは秀才だ!」ってな!」
僕にはあの遠くの二人の会話だなんて全く聞こえない。
「あのオッサン親バカだな!
十で神童、十五で秀子、二十過ぎればただの人だっていうのにな…」
ただの人…僕も二十歳になる頃にはただの人になれるのかな…
「…………」
そうやって僕が暫く黙っていると、トォーアは今回息が上がるほどに急いで来た本題を切り出した。
「本当に行っちまうのか?」
「うん…君も知っているだろ、この国では一定期間兵役に従事すれば誰でも市民権が獲られる。
そして市民権があったらヴェットも…」
手に入る、と口に出そうとした途端トォーアが物凄い力で両肩を掴んできた。
「ヴェットなんでどうでもいいだろ?
そんな事よりもお前だって知っているだろ?
ついこの前に戦争が始まったって、お前…本当に死ぬかもしれないんだぞ?」
「大丈夫!戦争中は兵役期間が従来の三年から半年に短くなるし、半年だったらほとんど訓練期間で終わるさ。
あとね…トォーア君がヴェットなんて言ってたでしょ?だけどさっき君が無意識に使っていた、視界ズームも聴覚強化もヴェットがなきゃ出来ないんだよ?」
そう言うとトォーアは「あっ…」と声を漏らした。
その後辺りに少しの沈黙が流れた。
「……すまん」
トォーアが再び口を開く時にはだいぶしおらしくなってしまった。
「本気なんだな…」
「うん…」
「じゃあ俺も行く!」