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リリと溺愛

リリにとっては毎日がお祭りのような状態だった。

何をしていても楽しいので、もう仕方がないと言えるだろう。

バルトロメイの趣味の一つが観劇で、リリがいるからこそ劇場に行ける様になった彼は、今までの何年もの間、出入り禁止になっていた鬱憤を晴らすようにか、リリを伴って観劇に行くようになったのだ。

それでも毎日の仕事をきちんと行っているのはさすがである。

だが、リリの方はと言うと、毎日が楽しいが、なかなか大変な事も多かった。


「またお花を持ってきてくださっても、もう飾るところがないじゃないですか!」


「古い物から順番に処分すれば良いだろう」


「だって毎日お花をたくさんもってきてるんですよ! まだまだきれいでかわいいお花たちを、捨てるだなんてとんでもない!」


「ならば俺が持ってくるごとに、使用人達に下げ渡せば良いだろう」


「そんな事失礼にならないんですか!?」


「ありふれた話だが。装身具などはよく聞くぞ」


「いやいや……質に入れたり出来る物と、枯れちゃって最終的には土になっちゃう物を、同じ土俵に並べちゃって良いのか……と思うんですけど」


「それとも、なんだ。俺に俺の美しい踊り子への敬意を表するための花を、持ってくるなと?」


「……うう」


バルトロメイは有能であり、リリ相手には饒舌に言葉を紡ぐらしい。

それはおそらく、リリが真っ正面から彼を見て、怖いという目をしないからだろう。

彼の長い人生の間で、畏れられていた時間の方が遙かに長いというわけで、その彼の考えるくくりの外側にいるリリは、面白くて愉快で、そしてよほどの何かを見せつけなければ怖がらないというわけで、安心して人間らしさを見せられる、と言う事なのだろう。

彼にとって、それだけ神依として、周りから壁を作られていた時間が長く、たとえどんなに年月が過ぎたとしても、人間との交流は経験が物を言う世界だ。

彼にとっては、とても遅くに来た青春なのかもしれなかった。

そう思うと、リリはああだこうだと文句を言いまくって、彼の行動を拒絶すると言う真似は出来なかった。

彼のやっている事が、ちょっと大げさというかやり過ぎと言うだけで、害が無いためとも言えた。


「……お花、こんなに毎日もらっていたら、もらえなくなった後がさみしくなっちゃうから、とっておきの日に、ぱーっと豪華にしてくださいよ。その方が、思い出になるし、忘れられないし、そうですよ! 特別な事は特別な日じゃなかったら、特別扱いできないんですよ! だから、バラ様、私のお願い聞いてください」


リリの一生懸命に考えた言葉を聞いて、バルトロメイは目をすがめた後に、考えた調子になった後に頷いた。


「その代わり、特別な時に、どれだけ盛大に行ったとしても、苦情は受け付けないからな」


「ああ、よかった! これでお花屋さんも、バラ様にお渡しするために、ほかの大事な勝負の時のお客さんの分のお花、なくならずにすみますね」


「なんだ、それは」


「よく言うんですよ。結婚を申し込む人が、とびきりの花束を用意して、相手に求婚するって。だから隣の国では、自分の精一杯のお花を買って、大好きな人に結婚してくださいって言うんです。こっちでもそういう一大決意を秘めた人がいたとしても、バラ様が一番のお花を皆買っちゃったら、もしかしたらその人が、求婚に失敗しちゃって、恥ずかしいかも知れないじゃ無いですか」


「考えた事の無い方向だな」


「お店で買うお花ってそれくらいに、特別仕立ての物なんですよ、一般的には」


そう言って、その日もリリは渡された花束を受け取り、毎日贈られても、見飽きる事が無いのがお花なのだな、と勝手に思っていた。

特別な時に、とっておきの素敵な花を。

これからはそうしてもらえるのだから、リリは思い出が増えそうだと心の中で喜んだ。

バルトロメイは、そんな反応のリリを柔らかい視線で見ていた。

ほかにもこんな事がありふれた事になっている。





「バルバリアードゥ様、私のお召し物をこれ以上増やさないでくださいよ」


「”おれ”が着飾りたいのだ、何か文句があるのか」


「私の体は一つなんですよ! 知ってますか、人間って選択肢が多すぎると、頭が迷子になっちゃって物を選べなくなると言う現実を!」


「初めて聞いた話だな。普通は多ければ多いほどいいと女性達は言うだろう」


「生まれつきたくさんの選択肢があった人達は、そうかも知れませんけどね、私洗い替え含めて三枚あれば贅沢って言う育ちなんですよ! きれいなお召し物はうれしくて楽しくて心が躍りますけど、多すぎるとお召し物を着てあげられないじゃないですか!」


「毎日でも新しい物を身にまとえば良いだろう」


「だめですよ! だってお召し物が、一回しか袖を通してもらえないなんて、お召し物お化けが出てきちゃうじゃ無いですか」


リリの真顔の言葉に、バルバリアードゥは首をかしげた。


「なんだそれは」


「旅の空で団長から聞いたお話です! 物には命が少しくらいはあって、皆使われたいと思っていて、着る物だっていつだって自分に着て欲しいんだって。だから、一杯着てもらわないと、着る物は悲しくなっちゃうって」


「お前はそれを信じているのか?」


「団長の、物を大事にしろという事だったのかもしれません。でも、一回しか袖を通してあげられないってさみしいじゃ無いですか。それも私のためだけに用意してもらった物なのに!」


リリがまくし立てて、バルバリアードゥの顔ぎりぎりまで顔を近づける勢いで熱弁すると、武神は目を瞬かせた後に言う。


「……お前にはかなわないらしい。少し回数を減らそう」


「ぜひそうしてください! 今だってどれにしようかな合戦で、どれからも着て欲しいってお願いされている気持ちになるんですから」


リリの言葉に、バルバリアードゥは大笑いをして、彼女の頭をなで回した。


「お前の、そのかわいい部分は好ましいな。本当に、お前が巫女で”おれ”は幸いと言う事だろう」





リリは、こういう風に、『踊り子であり巫女であるリリ』に対しても、大変にバルトロメイもバルバリアードゥも惜しみなく物や体験を与えてくれるものだから、当然彼の妻である、隣の国のお姫様もそれ以上の扱いをされていると思っていた。

だが、どうにもそうではなかったらしい。


その日、リリが使用人達と一緒に、バルトロメイの許可を取ってから、中庭の庭園にテーブルを用意し、かわいらしいお茶会をしていた時だ。

じゃんけんに負けて、お茶会に参加できなかった女性の使用人が、お茶菓子の談義に弾んでいたテーブルに走り寄ってきて、真っ青な顔でこうリリに告げたのである。


「大変です、巫女様! バルトロメイ様の奥様である、リリービアンカ姫がいらっしゃってます! 大変にお怒りのご様子で……愛人をつまみ出せ、今日から自分がここに暮らす、と鼻息荒く……」


「……愛人ってバラ様、この邸宅に愛人さんの離れを作ってたんでしたっけ」


「リリさんに作るって言った、新築はありますよ!」


「最高級の建築士と建材とそのほかを集めに集めて、歴史に残る位の贅沢な離れをお作りですよ!」


「たしか明日が、リリ様に見せる日だと……あ、いけない、バルトロメイ様に口止めされてたんです!」


なんだか秘密の予定を聞いてしまったらしい。

と思ったリリであるが、とりあえずリリービアンカ姫のところに行かなくてはいけないだろう。

愛人では無く踊り子で、神の怒りをなだめる巫女という事になっているのだと。

勘違いは訂正した方が、お互いに心穏やかであるに決まっている。

そう言うわけで、リリは急いで立ち上がり、リリービアンカ姫がいると言われた方に急いで向かったのであった。

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