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さて、トワイスとシリウスがどうしてカイゼルの王領からそこそこ離れている辺境伯領に即座に着いたのか。
それは、トワイスとシリウスの危険も顧みない命知らずな方法からであった。
まず、トワイスとシリウスは、王国で共通している狼煙を焚いて辺境伯領に王国の危機を知らせた。
マントを使って狼煙の具合を変えて報せる暗号を使った。
それに気付いた辺境伯の判断は的確だった。
自領に居る兵士を防衛分のみ残し、纏め上げ、進軍した。
そして、十分に暗号を送ったトワイスとシリウスは、王領から少し進んだ後に道を逸れた。
通常は下り坂を使って低所に行く所を、トワイスとシリウスは崖に立った。
そして迷う事無く、馬を駆り、崖を滑り降りた。
とてもでは無いが、まともな人間が降りようと考えるような傾斜では無い。
殆ど絶壁といっていいような角度の斜面を二人は巧みに馬を操り駆け下りた。
そして、想定よりも早い段階で辺境伯軍に合流したトワイスとシリウスは辺境伯に委細を話し、大軍で成せる最速で王都まで辿り着いたのだった。
一方、シャルロット姫はこの度の反旗を予想し、既に王子に正規軍の出撃を文にて要請していたのだ。
王子は即座に議会を説き伏せ、もし何事も無かった際は全責任を負うという最悪のカードを切ってまで、姫の元へ大陸でも有数の隣国正規軍の派遣に成功した。
また、王城に駆け付けた、奮闘したカイゼル王子はまた見事であった。
王城は最後の城門を固く閉じ、籠城の構えで交戦していたところに駆け付けたカイゼル王子は、たった十五騎の騎士達と、血で血を洗うような戦いの後、辺境伯軍と隣国正規軍が来るまで城を城門前で守りきった。
勇敢に立ち向かうカイゼル王子と、その腹心達、それから兵舎を救った後に駆け付けたレオンは持ち堪えたのだ。
当然、反乱を起こした貴族らは総て粛清された。
他国との交渉は、これから長い時をかけて行われる予定だ。
★
レオンは、戦後処理でバタバタと動き回っていたが、漸く束の間の安息を手に入れた日の事だ。
レオンはリサを探していた。
リサは兵舎の中庭を箒を使って掃除していた。
中庭を覗ける二階の窓から変わらない様子のリサを久しぶりに見て、レオンは満たされるような気持ちを味わっていた。
「リサ」
中庭に降り、リサの背後から声を掛ける。
振り向いたリサは、驚いた顔をしていた。
「少しいいだろうか」
リサは顔を赤らめて頷いた。
二人で並び、暫し沈黙する。
大人しいリサは、リサでは無いようだった。
沈黙を破るように、レオンがリサに語りかける。
「リサ、兵舎での戦いの際、助けてくれてありがとう。しかし、あの時どうして敵軍は総て裸になったのだろうか」
リサは思案顔をする。
「守りたいと思ったんです」
「守りたい?」
「レオン様を。死んでしまうと思ったから」
レオンは胸の中が暖かくなるのを感じる。
「でも、私あれから裸魔法使え無くなってしまいました。どんなにカッコイイ人を見ても裸にならないんです」
レオンは俄かに驚いた。
「それは本当か?」
「はい。何度か試したんですけど、あれ以来一度も裸魔法使えていません」
「それは良かったな!良かったが……、もうリサの側にいる言い訳が無くなってしまったな」
二人は俯いた。
離れたくない。
ずっと一緒に居たい。
しかし、リサを助けるという大義名分が無くなってしまった。
それでも……、側に居たい。
「リサ……」
レオンがリサの名を呼ぶと、切なげに瞳を揺らしたリサが居た。
ああ、可愛いな———。
レオンがそう思った時だった。
視界が光に包まれる。
まさかっ。
そう思うと同時に、レオンは裸になっていた。
「リサッ!使えているじゃないか。というか、一度掛かったらかからないんじゃなかったのか?」
驚きと呆気に取られたレオンが思わず零す。
「その筈ですよう。私もこんな事初めてで!あわっ、服を服を着てくださいよう!」
「いや、着るも何も消えて無くなってしまったじゃないか」
「あの、あのー、これを!」
リサは顔を真っ赤にして羽織っていた大判のストールを差し出した。
「これは、まだまだ一緒に居て守る必要があるようだな」
レオンは、受け取ったストールをさっと羽織ると、リサを思い切って抱き寄せた。
この可憐な少女は今暫くレオンと共に居てくれるらしい。
そう思うと、レオンは踊り出したくなる程、胸が踊った。
その、奇妙な高揚感のまま———。
裸の騎士様は、愛らしいヘンテコな魔法を使う少女を抱き寄せた。
了




