7話 捜索 ~2階 寝室~
保健室でジンくんと別れた後、僕達が次に向かったのは2階だった。
2階は各自の寝室だった。
最初は外に出ただけだったので気が付かなかったが、各扉にはそれぞれの干支の絵柄が描かれていた。
階段から近い所から時計回りに、ウマ、ヒツジ。
角を右手に曲がって、サル、トリ、イヌ、イノシシ。
更に角を右に曲がると、ネコ、階段、ネズミ、ウシ。
また角を右に曲がって、トラ、ウサギ、リュウ、ヘビ。
そして何も絵が描かれていない部屋が一つあって、最初の階段に戻る。
つまりはこのような形だ。
ネコ 階段 ネズミ ウシ
イノシシ トラ
イヌ ウサギ
トリ リュウ
サル ヘビ
ヒツジ ウマ 階段 無
「この何も書いていない部屋ってなんなんだろう」
真っ先に疑念を持つのがその部屋だ。
と、その部屋の前まで行った時だった。
「とりあえず入ってみるっす!」
「お、鍵が空いていますね。自分突撃します」
真っ先にサスケくんとヒナタくんが部屋の中に飛び込んでいった。
部屋の捜索をしているだろう2人を他所に、残った僕達は廊下で頭を悩ませていた。
「鍵が閉まらないらしい、ってのは聞いていたから空いているのはどうでもいいんだけど……でもやっぱり気になるよね、唯一の何もないこの部屋は」
「コータがいるから空いちゃったんじゃない? 13人だし」
「確かに、上下左右対称にするために、その可能性はある気はするね」
僕という存在はどこまでも異物だ。
そこに少しの後ろめたさを感じていると、
「うーむ、他の可能性もあるんじゃないかな」
ツバメくんが顎に手を当ててそう言う。
「他の可能性?」
「そう。例えば、この宴の『黒幕』とか」
「黒幕……?」
「そう、ボク達をこんな目に合わせているそいつさ。そいつ用の部屋なのかもしれない」
「それはないんじゃないかなー」
ユウリくんがあっさりとそう言う。
「なんか思うんだけど、黒幕って僕達の中にいるんじゃないかな?」
「……え?」
ユウリくんの言葉に心臓が跳ね上がる。
僕達の中に、黒幕がいる……?
「それはどうして……」
「んー、なんか説明できないからなんとなくなんだけど……コータ、アユムが処刑された時って覚えている?」
「……ああ」
覚えているに決まっている。
僕が唯一知っていた人物にして、最初の犠牲者。
真っ二つにされた時のあの瞬間の絶望に歪んでいる顔が、今でも忘れられない。
「アユムが神様になるって言いだした時の投票、あれってなんとなくだけど変なところなかった?」
「変なところ?」
思い出してみる。
アユムくんに対して投票した時のこと。
みんなスムーズに悩まずに投票していたと思う。スマホの使い方で戸惑っていた人はいたけれども。
そもそも、なんでスムーズに投票していたんだっけ?
それは……
「……あ」
僕は思い当たった。
「そうだ。あの時……というか今でもだけど、神様になったからといってなんのメリットもデメリットも具体的には教えられていないから、別にアユムくんでいいや、って雰囲気になっていたんだ」
だからみんなあっさりと賛成票に入れていた。
「なのに……1票だけ、反対票があった……」
その人物は、明確にアユムくんが神になることを拒んでいた。
つまり……
「神になるメリットを具体的に知っている、もしくは……《《明確に宴を継続させる意思があった人がいた》》……」
「……なんだって?」
「そう、それだよコータ! ユウリが感じていた違和感と繋がったよ!」
絶句するツバメくんと、顔を輝かせるユウリくん。
正反対の彼らを見ながら、僕は背中が凍り付く感触を覚えた。
「だから僕達の中に黒幕がいるかもしれない可能性が高い、ってことか……」
「そういうことになるな。……全く心当たりがボクには思い当たらない」
僕だってそうだ。
「ユウリくんは? 能力でそこらへんピンと来たりしない?」
「うーん……ぶっちゃけ分からんよねー」
あはは。
「ユウリの中で、そういうのは面白くない、って思っちゃってるのかも。ほら、推理もしていないの犯人当てちゃったら推理小説ってつまらないじゃない」
「それは……推理小説だったらそうだけど、でも、これは現実に起こっていることで……」
「うん、分かっている」
ユウリくんは今までにないくらい落ち着いた声でそう言った。
「だけど、ユウリはそれでも、そういう風に思っちゃっているんだよ。ごめんね。コントロールできないんだ、こういうの」
「別に謝ることじゃないよ。むしろごめんね」
僕も謝ると、ユウリくんは、にひー、と笑って小指を差し出してきた。
「じゃ、仲直りねー指切りしようか」
「え? 仲直りもなにもケンカですらしていないと思うけど……」
「じゃあとりあえず指切っとこうか。はいっ」
そう言ってユウリくんは無理やり僕の小指を絡めとって「指切った!」という。
「これ、約束事とかと一緒に切るんじゃなかったっけ?」
「そうだっけ? ま、別にいいっしょー」
笑顔のまま、ユウリくんはくるりと身体を翻して
「ユウリも謎の部屋探索隊に入隊してくる~」
駆け出して行ってしまった。
あまりにも自由奔放ぶりに、僕は思わず笑みを零してしまった。
「なんだか、そっちも騒がしいな」
そう言うツバメくんの顔も穏やかだった。
「そうだね。あれだけ騒がしくしてくれると陰鬱な雰囲気を吹き飛ばしてくれるよ」
「同感だ。まあこっちは2倍だし、うるさいし、そんな雰囲気にもならないけどな」
「あはは。そうだね」
「あーあ。早くこっから抜け出して、いつもの日常に戻りたい、家に帰りたいよ、ボクは」
ツバメくんが悪態をつく。
そんな風に。
ちょっとだけの不安と、それを吹き飛ばしてくれる存在に感謝しながら、
「じゃあ僕達も空き部屋の探索に行こうか」
「だな」
僕はツバメくんと共に、騒がしい3人の元へと歩いて行った。




