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68話 3章 ~エピローグ~

「以上が犬飼ヒナタ様の処刑――【主役のいない桃太郎】でした」



 何が起こったのか、理解するのに時間が掛かった。


 ヒナタくんは何か丸いモノを口に入れられた。

 直後、そこにあったサスケくんとツバメくんの写真が貼り付けられていた立て看板に向かって話しかけ始め、あまつさえ抱きしめさえした。

 そして最後に、突如出てきた二足歩行型ロボットに向かっていくと、それらに叩き潰された。


「・・・・・・幻覚作用、か」


 ジンくんが顎に手を当ててそう言う。


「何か食べさせられているのを見た。その後の行動を鑑みるに、恐らくは立て看板に猿島サスケ、鳥羽ツバメの写真を本人だと錯覚し、まるで鬼退治と称してあのロボット達を退治しようとした」


「ご説明ありがとうございます」


 クウギョが正解とばかりに器用に礼の仕草を見せる。


「皆様から見れば少々インパクトに物足りないのですが、精神的に来るモノが良いとの主催者側の要望でしたので、今回はこちらを取らせていただきました」

「・・・・・・そんな悪趣味な言い訳なんかいらないよ」


(相変わらず反吐が出る)


 キッ、とクウギョを睨み付けたが、クウギョはそれを全く気にした様子無く言葉を発する。


「これにて犬飼ヒナタ様の処刑を終了します。

 改めてきちんとお伝えしますが、皆様おめでとうございます。

 今回の犯人は犬飼ヒナタ様でした。

 よって犬飼ヒナタ様の神になる権利は消滅いたします」


 皆の表情は相変わらず暗い。

 今回の二転三転した犯人候補から正しい人物を当てられた、という安堵感や達成感を覚えている人は間違いなくいなかった。


「では、これにて今回の円卓会議を終了いたします。皆様、引き続きお過ごしくださいませ」


 その声と共にクウギョがいなくなったが、誰も円卓から出て行こうとしなかった。

 後味が悪すぎたのだ。


 今回もそうだが、既に3回も殺人が起きてしまっている。

 これは黒幕の想定通りだろう。


 そう――黒幕だ。


 サスケくんが最後にクウギョとやり取りした映像にもあったが、黒幕はまだこの中にいるのだ。

 一体誰が黒幕なのか。


 今はヒナタくんの処刑で頭の中はいっぱいかもしれないが、きっとみんなも考えるのは間違いないだろう。


 ・・・・・・やめよう。


 僕は頭を振って考えを消す。

 あくまでサスケくんが推測してただけで、あのやり取りだけで本当に黒幕が残っているという確証はない。


 ただ、これ以上ここにいたら、変なことを考えてしまうかもしれない。


 そう思った僕は、静かに円卓の部屋から退室していった。




               ◆



 僕が向かったのは、屋上だった。

 自然と足が向いたのだ。


 外の風に当たりたかったのもそうだが、


「昨日、ここで花火をしたんだよね」


 間違いなく、僕達は楽しい思い出を作っていた。


 サスケくんが笑っていて。

 ヒナタくんが笑っていて。


 でも、もう2人はこの世にはいない。


 途端に寂寥感が押し寄せる。


「・・・・・・あのかしましさ、好きだったなあ・・・・・・」


 思い返せば、あの花火がトリガーだったのかもしれない。


 あの時、サスケくんは花火の実施を遅らせようとした。

 約束として、先に延ばそうとした。


 だけど、それをヒナタくんが拒否した。

 それで聡い彼は悟ったのだろう。


 ヒナタくんの精神が、もう限界だということに。


「もし、また今度、の約束が出来ていたら、こんなことにはならなかったのかな」


 そう虚空に言葉を投げた所で、屋上の入り口の扉が開いた。


「あ、ここにいたんだ」


 来たのはナギサくんだった。


「ナギサくん、どうしてここに?」

「多分コータクンと同じ理由かな? 風に当たりたくなったんだよ」


 彼はフードを被りながら、屋上の柵の方へと歩いて行く。


「ねえ、コータクン。聞いてもいい?」

「なに?」

「サスケクンの最期の時に言っていたじゃない。『黒幕がまだ残っている』って」


 彼は柵を掴みながらこちらに振り向く。


「君は黒幕は誰だと思う?」

「僕は・・・・・・」


 問われて考える。


「・・・・・・ごめん。僕はみんなの中に黒幕がいるとは思えないや」

「そうだね。急に聞いてごめんね」


 ナギサくんは微笑む。


「おれも同じように、誰かが黒幕だなんて思いたくないよ。むしろ、実はサスケクンがそうじゃないかって疑っていたくらいだからね」

「え? そうなの?」

「だって彼、賢いのに、そうじゃないように振る舞っていたじゃないか。円卓会議の時も的外れなことは言っていないし・・・・・・だから、彼があんな会話をしていたこと自体、驚きでしかなかったんだ」


 ナギサくんもサスケくんが頭がいいことに気が付いていたのか。


「今回の事件だって、きっと彼は最初からチハヤくんを殺せるとは思っていなかったはずだよ。殺せたらいいな、ってくらいに思っていただろうけど、でも、その失敗を最初から計算に入れて実行していた」

「そうだね。二重三重と状況を想定してやっていたね」

「キューを抜いて大量出血している状態でビリヤード台を動かせるくらいだから、包丁が深く刺さっていても移動できるくらいの根性はあったかもしれないね。視界隠してチハヤくんを刺した後に目隠しのまま体育館から出て行くのも、きっと動きとか計算して・・・・・・まあ、想像でしかないけど、それが可能だと思えるくらい、彼は色々と規格外だったと思うよ」


(・・・・・・確かにそうだ)


 彼ならきっとどんなイレギュラーも想定内に盛り込んでいただろう。

 後付けでもそう思ってしまうほどだ。


「だから、今は黒幕が誰かなんて白紙状態。・・・・・・でもさ」


 ナギサくんの目が鋭くなる。


「おれは黒幕を絶対に許さない。

 だからどんな手を使っても、必ず黒幕には痛い目を見てもらう。

 我慢強いのがおれの特長だから、どれだけ時間が掛かってもやり遂げる」


 彼の本気が、全身から伝わってきた。

 そのあまりの迫力に、僕は身が固まる。


 と、そこで


「あー、コータにナギサー。ここで何しているのー?」


 脳天気な声が飛んでくる。

 ユウリくんだった。


「・・・・・・円卓会議後に新鮮な空気が吸いたかっただけだよ」

「あー、あそこ長時間みんなでいるから空気悪くなるよねー」

「もうちょい換気性があるといいんだけどね」


 そんな風に肩をすくめて、ナギサくんは柵から離れて屋上の入り口へと向かう。

 その途中で、彼は僕の肩を叩く。


「――色(・)々(・)と(・)、君(・)も(・)気(・)を(・)つ(・)け(・)た(・)方(・)が(・)い(・)い(・)と(・)思(・)う(・)よ(・)」

「え?」


 ナギサくんはフードの紐をきゅっと握って屋上から室内へと戻っていた。

 ユウリくんが駆け寄ってくる。


「なに? 何か言われたの?」

「えっと・・・・・・」


 僕は逡巡する。


 ――色々と気をつけた方がいい。


 その言葉の対象は、全員にだ。

 この無邪気に振る舞っているユウリくんも何かあるのかもしれない。


「・・・・・・いや、何でも無いよ」


 だとしても。

 僕はまだ、黒幕の情報が無い以上は誰も疑わない。


 今までと変わらずに過ごすんだ。


 僕はユウリくんに微笑みを向ける。


「それより、ユウリくんはどうしてここに?」

「あーそうだ、コータを探していたんだよ」

「僕を?」


 何で、と聞く前に、彼はポケットから何かを取り出す。


 それは線香花火だった。


「今日の夜、花火しない?」

「花火?」

「そう。花火」

「なんで?」


 問うと、ユウリくんはいつものような無邪気な笑みを消して、慈しむような笑顔を見せてきた。


「なんかさ、ヒナタとサスケとの思い出を、線香花火しながら色々と言いたいと思ってさ」


 正直、驚きが隠せなかった。

 ユウリくんはサスケくんとヒナタくんの死について、なんとも思っていなかったように見えたのだ。・・・・・・いや、彼なら平等にそう思うのだと、勝手に思い込んでいた。

 だけど、そうじゃなかったのだ。


 ユウリくんも同じように楽しかったのだ


 サスケくんとヒナタくんといた、あの昨日の花火が。

 急遽行った誕生日会が。


 ・・・・・・どことなく人としての感情がずれていると思い込んでしまっていたが、彼もまた、きちんと感情のある人間なのだ。


 心の中で無礼を詫び、僕は満面の笑みで答えた。



「うん。今夜、眠くなるまでいっぱい語ろうね」

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