26話 2章 ~日常編~ - 03
チハヤくんと体育館で会話をした後、特に何もなく自分の部屋で就寝した僕は、翌朝、何事もなく朝食を摂りに食堂へと向かった。
朝は7時にアナウンスがあるとはいえ、19時とは異なって全員で集まる決まりにはしていないので、朝食を取る時間がバラバラになっていた。そのため会う人はその時々で異なるのだが、今回、食堂にいたのは一人だった。
「あ、コータ、おはよう」
「おはよう、ユウリくん」
屈託のない笑顔を見せる彼に、僕は手を振って向かいの席に座る。
途端にクウギョが朝食を運んでくる。毎日ご苦労なことだ。
「ねえねえコータ、昨日チハヤから本当のこと聞いた?」
「おおう、直球で聞いてきたね」
何の前置きもなく真っ直ぐに聞いてきた。
しかしながらどうしよう。
チハヤくんとは真実について口外するな、ということを言われているし……
「あー、うん。話は聞いたよ」
「そっかー。その様子だと聞いたみたいだね」
「……」
お見通しのようだ。
でも内容は言うわけにいかないので、僕は話題を切り替える。
「ユウリくん、君の探偵力を見込んで聞きたいんだけどさ」
「なんだい!? ユウリの推理力マックスで灰色の頭脳に何でも聞くがいいよー」
切り替える為に少し言葉を過剰に盛ったが、効果はあったようだ。
勢いのまま僕は問いかける。
「黒幕って誰だと思う?」
「んー、黒幕ー?」
人差し指を顎に当てて数秒当てた後、ユウリくんは首を傾げた。
「黒幕って、どういう存在ー?」
「え? このデスゲームの主催者でクウギョ達を主人で、僕達の中にいる誰かのことで」
「なんでユウリ達の中にいると思ったのー?」
「いや、だって根津くんの投票の時に一人だけ反対に入れた人がいたじゃない。あの状況で反対に入れる人なんて、このデスゲームを続けようとする黒幕の人間に決まっているよ」
「んー、反対に入れた人って本当に黒幕なのかな?」
「え?」
反対票を入れた人が黒幕ではない?
いや、それはないだろう。
だって理由が思いつかない。
「デスゲームを続けようとする人間以外が、あの時、反対票を入れたってこと?」
「それもちょっと違うかなー。これは推理なんだけどさー」
ユウリくんが人差し指を立てる。
「黒幕じゃなくて、『黒幕の協力者』の可能性もあるんじゃないかなー」
「黒幕の……『協力者』……?」
「うん。黒幕じゃないけど、たとえば脅されていたりとかして協力せざるを得ない状況になっている人とかがいるのかもねー、って」
確かに。
そう考えれば黒幕じゃないけれど、反対票を入れる理由にはなり得る。
「だとすると他に投票する人がいなかったことから、黒幕は僕たちの中にいない可能性もある……?」
「そうかもねー。ただその『協力者』は黒幕側の人間であることは間違いないけどねー。……あ」
そこでユウリくんはもう一度首を傾げた。
「でもそうだったら『協力者』はとっとと殺人を犯しそうだよねー。どんな理由かは知らないけれど、黒幕側に従わせられているんだから、さっさと自分で殺して神になった方がいいよねー。神になっちゃえば黒幕側に従う理由もなくなるだろうしねー」
「そうだよね。その『協力者』が神になっても状況が変わらないことになっているか、あるいはそもそも神にでもなれない理由がない限りは……あ」
今度は僕が気が付く番だった。
「ユウリくん」
「なあにー?」
「もしかして僕がその『協力者』だって疑っている?」
この中で唯一『神』になれない人間は、ネコの干支である人物だ。
故に誰かを殺すメリットはない。
にもかかわらず、黒幕側に何らかの理由で協力せざるを得ない状況だったら……
恨みを持たれるのは間違いないし、常に殺されるリスクを背負っている、かつ、抜け出せない。
どれだけ地獄のような状況だろう。
そんな状況にあると、ユウリくんは思っているのか。
緊張の面持ちでユウリくんの顔をじっと見ていると、彼は微笑んできた。
「ここで、疑っていない、って言ったところで信じる?」
「……確かにそうだよね」
この返答自体が、疑っている、ということだ。
仕方ない。
僕の存在はその考えだと非常に怪しいから。
「ま、全員疑っているから、コータだけじゃないけどねー。だから疑っているの、って言われたら、疑っているとしか答えようがないよー」
「そう、だよね……」
「いやー、ユウリの『能力』で何か隠している人は分かっちゃうから、そういうのがある人はどうしてもねー」
「え……?」
ドキリ、と心臓が跳ねる。
「ユウリくん、それはつまり……」
「んー、コータが何かを隠しているのは感じているよ」
あっけらかんと彼は言う。
「多分だけど、アユムに関係することだよね?」
「っ!」
……どこまでだ。
どこまで分かっている?
「あー、それ以上は分からないし、何なのかは言わなくていいよー。
そもそも顔見知りなのにアユムの方は知らない素振りだったことから、なんかあるなーってのは『能力』使わなくても分かっていたしー」
「……そうしてくれると助かるよ」
「そうするよー。誰だって言えないことはあるしねー」
そう。
言えないこと、だ。
これは僕の中だけでいい。
誰にも言う必要はない。
「んじゃ、そろそろおいとまするよー。ごちそうさまー」
ユウリくんは手を合わせてそう言うと、足早に食堂を去っていった。
残された僕は、先程のユウリくんとの会話でのことを振り払うように首を振って、一人、食事を続けた。




