24話 2章 ~日常編~ - 01
サイくんが処刑されてから数日が経過した。
その間、僕達は以前と変わらず――というわけにはいかなかった。
3人もの人間がいなくなったということ、更には殺人事件が起こったというのは、みんなの中に深い影を落としていた。
神になるために実際に人を殺した人間がいる。
その事実は、ほかの人もそういうことをするんじゃないのか、という疑心暗鬼を生み出すのには十分だった。
ほとんどの時間、みんなばらばらに独りで動いており、唯一みんなが揃う19時の晩御飯の時間でも、ほとんど会話がなかった。
会話をするのは、僕とユウリくんぐらいなものだった。もっとも、ほとんどはユウリくんからひっきりなしに話しかけてくるのに対応している、というだけなのだが。
そんな空間での食事は、到底おいしいとは言えなかった。
みんなもきっと同じ気持ちだろう。
それでも定刻通り来るのは、きっと、誰かが殺されていないかを確認するためだろう。
誰も殺されていないことを確認し、安心するために。
益体のない日々が繰り返し続き、今日もまた同じように静かな中でみんなで食事をしていた。
そんな中だった。
「あー、もううざってええな」
突如、そんな声を上げたのはチハヤくんだった。
「ち、チハヤクン、急にどうしたの……?」
「辛気臭えんだよ、あれから何日経ったと思うんだよ」
「いや、そうは言っても、知っている人が3人も死んじゃったわけで……しかも、殺人で……」
「ああ? ナギサ、あいつらはここで知り合って間もねえじゃねえか。感情移入なんてしてねえだろうがよ」
「それは……」
「いい加減にしてくれないかな、チハヤ君」
強めに机を叩いたのは、ツバメくんだった。
「親しかろうが親しくなかろうが、同じ建物で少なくない時間を過ごした人が死亡しているんだから、暗い気持にもなるだろう」
「ほう、少なくない時間、ってことは最初の根津に関してはそう思っていないってことだよなあ」
「はあ? そういうことを言っているんじゃないだろうが」
「ちょ、ちょっとチハヤさん!? それは違う話だとぼくも思」
「あ、なんか文句あるか、マシロ?」
「ひぃっ! け、ケンタロウさんなんとかしてよ!」
「うぇっ!? なんでオレ!?」
「だってチハヤさんの次に身長高いじゃないか!」
「身長は関係ねえだろ! あー、ってか一番でかいタケルとその次にでかいサイがいなくなったからそうなるのかよ……」
「はっ。腰抜けどもが。これで決心がついたぜ」
チハヤくんが席を立ちながら人差し指を向けてきた。
「いいか? 俺様はこれからタケルと同じように体育館にほとんどの時間いてやるからな」
「ねえチハヤー、なにするのー?」
ユウリくんが手を挙げると、チハヤくんは口の端を上げる。
「もうこの建物にいたくなくて死にたくなった奴は来い、って話だよ。
ただし、俺様はタケルみたいに優しくなんかねえ。俺様を殺させてあげるんじゃねえ。
――確実に殺してやるよ」
「なっ……」
みんな言葉を失った。
体育館に来たら殺してやる。
端的にチハヤくんはそう言ったんだ。
「まあ俺様が犯人になるだろうが、そんなの知ったこっちゃねえ。こんなうじうじしている奴らと一緒にいるよりは、死んだ方がマシだからな」
「そんなの間違っているよチハヤクン!」
「うっせえ! 黙ってろナギサ!」
怒声を飛ばすチハヤくんに、ナギサくんもびくりと肩を跳ね上げる。
「神とかそういうの興味はねえが、だからといってこのままずっといるわけにもいかねえんだよ。だったら最後の最後はスカッとしてえじゃねえか。死にたいやつを殺した方が罪悪感もねえしな」
「だ、ダメだよチハヤさん! 思い直した方が……」
「マシロ」
おずおずと声を上げたマシロくんに対し、チハヤくんは表情を消して告げる。
「おめえの入れた飲み物は旨いが、それがお前を殺さないってことにはなんねえよ」
「ひっ!」
「……まあ、体育館にずっといるのも飽きるだろうし、たまにはカフェテリアにも行くとは思うけどな」
そうだ、とチハヤくんが手を打つ。
「そん時にムカつくやつがいたら殺すか。うんそうしよう。今決めた」
「はあ? 何を言っているんだ、君は」
「何がおかしいんだよ、ツバメ。さっきから突っかかってきやがってよ。ムカつくな」
ツバメくんの前まで歩いて行ったチハヤくんは、彼の胸倉をつかみ上げる。
「お前、死にたいのか?」
「死にたいわけないだろ。その手を放せ」
「あ?」
「あ? じゃない、ボクは死にたいわけじゃないんだから、ここでボクを殺せば罪悪感で満ち溢れるぞ」
「ムカつくやつは殺すってさっき言ったよなあ? 聞こえなかったのか!?」
「ちょ、ちょっとやめるっす二人とも!」
「そうですよ!」
一触即発の二人の間に、サスケくんとヒナタくんが割り込んで距離を離させる。
すると意外にも素直にチハヤくんはその場から引いた。
「はん、そういうことだ。余計な事したら殺すからな、お前ら。よく覚えておけよ」
そう言ってチハヤくんは食堂から出て行っていった。
「……なんだったんだ、あいつは」
静まった食堂でずっと黙っていたジンくんが、そう呟いた。
それと同時にみんながやいやいと言葉を発する。
悪口だったり。
擁護だったり。
推論だったり。
色んな言葉が飛び交う中、
「コータなら教えてくれるかもねー」
「え?」
ユウリくんが僕にしか聞こえない声でそう言ってきた。
「チハヤがなんであんなことしたのかってこととか、本当のこととか、なんか考えていることとか、もしかしたらコータになら教えてくれるかもねー、ってこと」
「それってなんで?」
「さあ? ユウリの勘だよー」
にひひと笑って、ユウリくんは食事に戻ってしまった。
その後、教えてもらえる様子はなかったので、僕は何とも言えない気分のまま食事を続けた。




