23話 1章 ~エピローグ~
グチャリ。
そんな音と共に映像がブラックアウトする。
「これにて馬目サイ様の処刑を終了します。
そして皆様、おめでとうございます。
犯人は馬目サイ様でした。
よって馬目サイ様の神になる権利は消滅いたします」
部屋が明るくなり、みんなの表情が見える。
誰も彼もが絶句し、表情を青ざめさせていた。
また一人死んだ。
その事実に心が重くなる。
しかもサイくんは、巨大なルーレットの中で球に押し潰されるという、ふざけた方法で処刑されたのだ。
「……悪趣味すぎる……」
運営に対して、嫌悪感を覚えていた。
まるで処刑を一つのショーに仕立て上げ、楽しんでいるかのよう。
そんな感覚すら覚えた。
「ねえねえー、さっき映った女の人って多分サイのお母さんだよねー? それってどうなったのー?」
ユウリくんが訊ねる。
「その通りです。ですが、この空間には必要のないものです。元に戻しましたよ」
まるでモノの扱いのようだ。
さっきも感じたが、クウギョ、ひいては運営側にとっては、干支のみんな以外は舞台装置か何かだと思っているようだ。
怒りすら湧いてくる。
「ふーん、なるほどねー」
だけどユウリくんはあっけらかんと、それだけで終わらせた。
その言葉に、何の感情も入っていなかった。
答えを受けただけ。
『ああいうやつほど、裏で何考えているのか分からねえからな』
ふと、前にチハヤくんにカフェテリアで言われた時の言葉を思い出す。
ユウリくん。
君は何を考えているのか。
サイくんがあんな処刑をされて。
何を感じているのだろうか。
(……それを聞いても、よいことにならない気がするな)
ユウリくんの『能力』ではないが、直感でそう思った僕は黙っておくことにした。
「えー、では、これにて今回の円卓会議を終了いたします。皆様、引き続きお過ごしくださいませ」
そう言ってクウギョは浮遊してどこかに行ってしまった。
僕達も特に何か言葉を交わすわけでもなく、また誰かが率先したわけでもなく、円卓の部屋から退出していった。
◆
部屋を出た後、僕が向かったのはサイくんの部屋だった。
理由はなんとなくでしかない。
どこか彼がいた痕跡を探したかったのかもしれない。
サイくんの部屋は、トランプやサイコロなどの賭けに使う道具がたくさん置いてあった。
「……もっと仲良くなったり出来たら、一緒に遊んだりもしたのかな……?」
ふとそんなことを思ってしまう。
彼とはこの前会ったばかりだ。
まだ1か月も経っていないし、友人と言える仲でもなかった。
それでも、寂しさは感じてしまう。
「あ、コータも来たんだ」
「ユウリくん」
部屋の入り口にユウリくんが立っていた。
「どうしたの?」
「いやー、なんか今後の捜査に役立つものがあったらなー、って思ってね」
「今後の捜査に役立つもの? そんなものあるのかな」
「あるかもしれないよー」
だってさー、と彼はベッドに寝転がる。
「なんでサイが黒の部屋を選んだのかとか分かるかもしれないじゃないかー」
「え?」
僕は思わず目を丸くした。
「それはクウギョも言っていたでしょ。選ばなかった方にはサイくんのお母さんが入ることになっていたから」
「うん。それは言ってたねー。でも自分の命よりも大切なのかなーって思ってさ」
それほど、サイくんにとって母親が大切な存在だった、ということに他ならないのでは。
「ユウリくん、それは」
「きっと黒幕に繋がる何かがあったに違いないねー。だからその理由を探すんだー」
「……」
意気揚々と部屋の中を探すユウリくん。
本気でサイくんの行動原理を理解していない様子だ。
「ねえ、ユウリくん、ちょっと教えてほしいんだけど」
「んー、なあに?」
僕は少し踏み込んだ質問をした。
「ユウリくん、君の両親ってどんな方なんだい?」
「えー? ユウリの両親のことをいきなりなんで? まあいいけどー」
ユウリくんは笑顔で答える。
「知らなーい」
「え?」
「ユウリ、生まれた時からお父さんもお母さんもいなかったから、そういう概念は理解できないんだー。おじいちゃんに育ててもらったけどー、おじいちゃんはおじいちゃんだからねー。
それだけだよ」
これ以上は語りたくない。
口では言っていないけれど、そう感じた。
にこり、とユウリくんはもう一度笑顔を見せる。
見せつけてくる。
「コータの質問に答えられたかな?」
「……うん。ありがとう」
僕はこれ以上、何も言えなかった。
(もしかして……ユウリくんは親の愛、というものが分からないのかもしれない)
幼いころから両親がいなかった。
故に親の愛を知らない。
……家族の愛を知らない、とまでは言えないが。
でも、ユウリくんの言い方だとそれもなかったように思える。
ならばそれをこれ以上責め立ててもしようがない。
「あ、なんかあったー」
と、ユウリくんが何やら机の中から取り出す。
それはロケットペンダントだった。
「この中に黒幕の姿が……あれ?」
「どうしたの?」
「これ、あそこにいた人だよ」
ロケットペンダントを開けて見せてくる。
(やっぱり、か)
ある程度予想はついていた。
そこに映っていたのは女の人。
サイくんのお母さんだった。
「んー、あれー? でもサイはお母さんのことを自分の命よりも大切だったってことじゃなかったっけー? なんでその写真を部屋に残したまんまなんだろー? ロケットペンダントって普段から身に着けるもんだよねー?」
「うーん、確かに……あ」
ふと思いついたことを口に出す。
「もしかしたら、分かっていたのかもしれないね」
「分かっていた? 何が?」
「円卓会議で、自分が犯人と指名されることを」
そして助からないということを。
「サイくんの『能力』の2択がどこまで絞れるのか、今となってはわからないし、サイくんはとても頭が良い人だったからわかっちゃったのかもしれないけれど、いずれにしろ、自分が円卓会議で犯人であると指摘されることまで、事前に感じ取っていたんじゃないかな」
「えー、処刑されるの分かってたってことー? でもそれだとしてもなんで残したのー?」
「処刑されたら身に着けているものも何かしらでぐちゃぐちゃになると感じたんだと思うよ。実際、根津くんがトラ挟みで処刑されているのを見ているから。
だからお母さんの写真の入ったロケットペンダントは、処刑時に処分されないように置いていったんじゃないかな」
全部推定だ。
だがサイくんならば、それくらいやりそうだとも思える。
「ふーん、なるほどねー。そういう考えもあるのかー」
ユウリくんも納得したようだ。
いずれにしろここで分かるのは、
「サイくんが、お母さんのことを大切に思っていた、ってことは間違いないみたいだね」
そもそも大切に思っていなかったらロケットペンダントに写真なんかいれないし、この特殊環境下でおいていく理由なんてない。
……そのことをきっと運営側も分かっていたのだろう。
だからあんな処刑に……
「ねえ、ユウリくん」
「なに?」
「そのロケットペンダント、僕が預かってもいい?」
「別にいいけど、どうするのー?」
「後で死体安置室にサイくんの遺体が来たら、その中に入れておこうと思って。
処刑後ならばそれ以上、遺体が痛めつけられることもないから、一緒に入れておいても問題ないかな、って」
「へー。じゃあ、はい」
ユウリくんからロケットペンダントを受け取る。
ずしり、と重みを感じる。
大きくもないのに。
これが、サイくんの思いの重さか。
「……」
僕はその重さを噛み締めながら、彼のロケットペンダントを自分のポケットに入れる。
そして決意と共に、ポケットの中でそのペンダントをぎゅっと握り締めた。
1章 完




