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1話 捜索 ~4階 円卓の前にて~

 根津くんが処刑された。


 それが現実であることは、絶望に歪んだ表情の彼の上半身が目の前にあることから嫌でも分からされる。

 やがてツンとした鉄の匂いが充満してくる。

 血の匂いだ。

 だけど、現実感が湧かない。


 誰かが嘔吐した声が聞こえた。

 誰かが叫び声をあげたのが聞こえた。

 誰かが怒鳴り声をクウギョに向けたのが聞こえた。


 それでも僕は、どこか他人事のように思えた。

 自分が巻き込まれているという自覚がまるでなかった。


「説明の途中ですが、後片付けをこれから行わなくてはいけないですし、その間皆様をお待たせするのも忍びないですので、今回はこのあたりにしましょうか」


 クウギョのその言葉によって、意識が引き戻される。


「質問がある人は個別でお聞きしますので、見かけたらお声がけください。それか食事の時間にはいますのでそこでお聞きください。

 ああ、食事についてはお伝えしておきますが、朝は7時、昼は12時、夜は19時にアナウンスいたします。食事はその時間以降に1階の食堂にてお出ししますのでお集まりください」


 それともう一つだけ、と付け加える。


「夜の22時から朝の6時までは皆様の寝室の鍵が自動的にロックされます。そうなりますと部屋の中には入れず、身の安全が確保できませんのでご注意ください。

 ――それでは、皆様、申し訳ありませんが掃除いたしますので退室いただきますようお願いいたします」


 僕達は言われるがままに、円卓の部屋から退室していった。




             ◆




 部屋を出た僕達は何かを話し合うでも別の場所に集合するでもなく、みんな散り散りとなっていった。知り合いでも友達でもないから当たり前と言えば当たり前か。

 もっとも、僕の知っている唯一の人は先ほど死んでしまったのだが。


 根津アユム。


 神になるための投票で全員一致ではなかったので処刑された。

 奇しくも、彼の犠牲によって一つルールが分かった。


 神になるための投票は全員一致でなければ処刑される。


 しかしながら、彼は惜しい所までいっていた。

 反対票は1票だけだったのだ。


 それを投じたのが誰かは公開されなかった。

 つまり今後、神の座のライバルを減らすためにノーリスクで行うことが出来る、ということの裏返しでもあった。


 これによって話し合いで神になるのは実質無理だということだ。あまりにもリスクが高すぎる。


 と。

 そんなことを考えて佇んでいたところだった。


「ねー、何考えているのー?」

「わっ」


 気が付くとそこにいたのは、猪瀬(いのせ)ユウリだった。


「い、猪瀬くん」

「ユウリでいいよ。コータ~」


 馴れ馴れしいな、とは思わなかった。どこか彼には許してしまいそうな雰囲気があった。


「というかさあ、ユウリだけじゃなくて、《《みんなのことも名前で呼んだ方がいいんじゃないかな》》」


「え? どうして?」

「だってみんなそんなに自分の苗字好きじゃないんじゃないかな、って感じだし。ほら。干支が入っているせいで今回の宴に巻き込まれたから」

「そ、そうなのかな……?」

「そうだよ。だってユウリ、そういうの分かるんだよね~。あ、コータには言っていいか。ネコだしね~」


 ユウリくんがにっこりと笑う。


「誰にも言わないでね~。ユウリの『能力』はね、『()()()()()()()()()()』なんだ」


「探し物を見つける能力?」

「そう。だけど多分コータが想像しているようなやつじゃないんだよね」

「え? 例えば財布を落とした時にそれがある場所が分かるような、そんな能力だと思ってたんだけど」

「やっぱりね~。それだけの能力だったらよわよわじゃんか~」


 ちっちっち、と指を振ってユウリくんは説明してくれる。


「僕の能力は、違和感とか、そうなのかも~とか、そういうのも見つける能力なんだよね。ユウリの探し物って、謎、とか、真実、とか、面白いもの、とか、そういうのだから、それを探す手がかりを見つける能力なんだ」


「え? それってさっきのよりもよわよわなんじゃない?」

「あはー、言うねえ。そう、普通の人ならね~」


 しかーし、とユウリくんは胸を張る。


「この名探偵猪瀬ユウリの手に掛かれば、手掛かりさえ見つけられればたちまちそういうのが見つけられるのだ~! だから、この能力は強い!」

「め、名探偵なの!? すごいね! どんな事件を解決したことがあるの!?」


 僕が目を輝かせると、ユウリくんは何故か目を逸らす。


「ま、まあ、まだ事件と出会っていないというか~事件がユウリを避けている、というか~」

「……」


 どうやら自称名探偵のようだ。


「ともかく! ユウリはそういうのに敏感な能力なの! 敏感少年なの!」

「敏感少年って……」

「だからさっき言っていた、名前の件は信用してよね!」

「あ、う、うん」


 敏感少年、もといユウリくんの勢いに押され、思わず頷いてしまった。

 その勢いのまま彼は告げる。


「よし! じゃあこの建物を一緒に探索しに行こうか、コータ~」

「え?」


 僕が呆けた声を出すと、ユウリは首を傾げる。


「ん? もしかして先約とかあった?」

「い、いや、そんなのはないけど……というか僕はネコだよ? 一緒にいる意味なんてないでしょ?」


 もしくは僕を最初の犠牲者にするつもりか――ということまで思考が辿り着くと、


「意味はあるよ~。だってさ。君といたらなんか面白いことが起きるかも、って、感じ取ったからね~」


 ユウリくんは無邪気にそう言う。


「それは……能力、で?」

「うん。能力で。ユウリはユウリの能力を信じてるからね~」


 それ以上理由はいらないでしょ。

 彼は口の端をあげる。


「ごちゃごちゃ言わないでレッツゴ~」

「あ、ちょっと待って」


 僕は彼に手を引かれ、建物内の探索へと向かった。


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