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死に戻りの公爵令嬢は、三度目の人生もひた走る!  作者: とり
第三章 表舞台へ

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66.領都へ来たよ 暇つぶし

「こ、腰が‥‥いたた、痛いわ」

「お嬢さま、私は首が、首が回りませんっ!」


勝手に解釈した当主の後押し『好きに過ごせ』で、この北の古塔、古書の保管庫で希少な古書を四六時中読み漁る日々を過ごしている。中部城塞都市ブラックストーンへの出発も間近でついつい根を詰めてしまう。


因みにテリーは衣装製作、クリスは塔の屋根裏で発見した古の武器と手引書の解読である。イリシオンは相変わらず自由気儘に本を読んだり、昼寝をしたりと自由人、ではなく、自由森人を満喫している。



「ひと休憩ですねっ。紅茶を淹れますっ!」


痛くなった首のコリをほぐそうと亀のように伸ばし、怪しげな動きでテリーは紅茶を淹れてくれた。


爽やかな香りの紅茶に口をつけると、思っていたより喉が渇いていたようでとても美味しい。


「クリス、その武器の手引書はどうかしら?」


「とても興味深いです。古武術で棒手手裏剣には複数の投げ方があって、今その一つ一つの解説を読んでいます」


「それは面白そうね。その棒手手裏剣とはどのような形状なのかしら?」

「こちらです」


広げたページの絵を見せてもらったが、投擲する武器で先端を尖らせた鉄棒の形状をしている。


「あら、この形状なら短剣で代用できそうね」



翌朝、王都から戻ってきたハリウェル筆頭執務官長直属のロイド執務次官が挨拶に来た。あの感じの悪いナザレ執務次官補の上司である。部下の監督不備の傾向がある人かも? 


「おはようございます、ディフラン公爵令嬢。昨日、王都から帰還いたしました執務次官のラーシュ・ロイドと申します。ロイドとお呼びください。どうぞお見知りおきを」


体の線が細く、キチンと整えられた薄茶色の髪は短め、目元がスッキリしていて実直そうな青年だ。


これからハリウェル筆頭執務官長との連絡を担当する着任の挨拶だという。早速、あの事を頼む事にした。


「ちょうど良かったわ。忙しいのに申し訳ないのだけれど、短剣を二十本ほど都合してもらうことはできるかしら?」


「えっ、あのう、短剣を二十本?」

ロイドは顔に出やすい人のようで、顔に『えっ、何、突然?!』っと書いてある。


「出来るだけ簡素な短剣だとありがたいのだけど」

「その、宜しければ、理由をお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか」


「古塔に古武術の本があって、試してみたい棒手手裏剣が短剣で代用できそうなの」


「さ、左様でございますか‥‥その、棒手手裏剣とやらの代わりに‥‥」


ウィルソン辺境伯の側近の一人であるハリウェルの部下は仕事が早かった。直ぐに二十の短剣が届けられ、主館の端を使う許可も貰えた。



早速クリスが身長ほどの丸太を立てる。そう、的にするのである。


ここにはテリーとクリスの他に朝食を運びにきたライラとエリオットもいる。面白そうだから見学したいそうだ。もちろん短剣と的から大凡想像はできるが、一体何を始めるんだと興味津々のイリシオンもいる。


では、とクリスが古武術の手引書を参考に短剣一本を手に取り、的に目掛けて真っ直ぐに飛ばす。ヒューッと風を切り、的に刺さった。


「「「おおっ!」」」


持ち方も変えて、本にあった直打法、回転打法、半回転打法と練習していると刺さる技量が格段と上がる。


短剣の扱いは任せてくださいっ!、のテリーも参戦だ。複数の短剣を手に取ると、うっそりと妖艶な笑みを浮かべて、一刀一殺の激しい連射である。流石本職、いつもの事なのだが、なかなかの変貌ぶりにライラとエリオットの腰が引けている。


次に、と手を挙げたイリシオンもシュパンと的に当てることができた。得意そうなドヤ顔をしているが、風魔法を使っているので失格とする。


番が回ってきたが、上手くいかない。曲がってしまうし、そもそも丸太にナイフ先ではなく柄が当たって弾けることが多い。何かコツがあるようだ。


クリスとテリーの指導の下、幾度もひたすら繰り返していると、十回に一度は丸太に刺さるようになった。刺さり始めるとその面白さが一気に深みを増す。



次の日にも競うように短剣投げを繰り返し、やればやる程、面白いように腕前がメキメキと上がる。


ライラの双子の弟、護衛兵士のエリオットも参戦して、古武術の手引書を参考に新たな技に挑戦したり、改良したりと速投、座投、寝投、移動投、連続投なんでもござれになってしまったのだ。


「私達は何を目指しているのでしょうか?」


眉根を寄せて真剣な顔をしているライラの問いに、誰も答えなかった。いや、答えられなかったのである。




◇◇◇




中部城塞都市ブラックストーンへの出立も近い。その前に一仕事だ。


北の古塔の一階は元々木箱やらが雑に積み重なった物置だった。今は木箱をどかし、代わりに隅に追いやられていた大きな作業机を中央に置いている。


その作業机に皮袋から取り出したニ、三十個の小さな魔石結晶を押し広げた。


魔石は二種類あり、一つは自然界の純粋な魔石結晶。もう一つは魔力の汚染や乱れなどで魔獣へと変質したモノの体内にある魔石結晶。貝が異物を体内に取り込むと、身を守るために異物を包み込むように形成される真珠と同じ過程を経る。


実はこの北の古塔に帝国魔導具の貴重な本があったのだ。魔石への魔術陣の刻み方。考察、試行、再度考察、と今までの知識と融合させて新たな刻印方式を編み出した。


そこで、今日用意したのは北連合国の洞窟で採掘した自然界の純粋な魔石結晶。大麦の実から干し葡萄程の大きさで色も形も不揃い。でも窓から射す陽の光を受けて、宝石箱をひっくり返したように煌びやかに輝いている。


まるで世界にある全ての色を集めたかのようで、見ているだけでワクワクする。


テリーとクリスには防御付与の腕輪を渡してあるので、今回はイリシオンの希望で防御付与の耳飾りを作成しようと思う。


「イリシオン、どれがいいかしら」


「うーん、それじゃ、一番元気だからこれで」


付与する陣は古代魔法陣、古代魔術陣、現代魔術陣の三種類あり、それとは別に森人の古の魔法陣がある。イリシオンにはその古の魔法陣が一番波長に合うと思う。


イリシオンが選んだ一際キラリと輝く水色の魔石結晶を摘まみ、全身の神経を研ぎ澄まして、古の魔法陣を落とし込むように刻印する。


「砂金粒で‥‥こう、土座を、作ってと。よっ、はい、できたわよ。一回陣が発動すると魔石は粉々になるけど、元気が良い魔石なら、三回は大丈夫そうね」


「わぁ、嬉しいな。ありがとう」

ニコニコと嬉しそうにその片耳飾りを陽の光にかざして眺めてから耳に着けた。


「そういえば、なぜリリアナは人前では魔法も魔術も使わないの?」


「ふふっ、魔法と魔術は切り札に取っといてるの。ここで警戒されず、且つ、侮られない、さじ加減が難しいのよ」


「ふーん、色々と大変だねー」

「ふふっ、棒読みよ。軽く聞き流したわね」


二人で顔を見合わせて、噴き出してしまった。ふっと気になっていた事を聞いてみる。


「ねえ、イリシオン。原初の魔法から枝分かれして、今は現代魔術と呼ばれているのが主流でしょう。魔法と魔術を掛け合わせたり、どっちか分からない場合とか、どう呼べばいいのかしら?」


「えっ、魔法術かな?」

そのままの受け答えに、またもや噴き出してしまう。


そんな初冬の陽が心地よい午後だった。

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