第10話 レオナルドは焦っていた
まさかあいつがこんなに積極的な手段に出るとは……
だが、まだ終わったわけではない。
私の名前は『レオナルド』、アスタリオ国王の弟を父に持つ者だ。
王家の血筋ではあるが、臣籍降下してレイクイン家の人間として政務に携わっている。
私も先々、父と同様に王家を支え、同時に監視する役割を担うこととなるだろう。
自分の置かれている立場の重さは理解している。
それ故に父に促されて自分の護衛騎士を決めるために訪れたリーシュベルト家で、私は運命的な出会いを果たした。
リーシュベルト公爵令嬢のフレイスリア。
夫人譲りの煌びやかな金色の髪に当主と同じ深く澄んだ琥珀色の瞳、白い肌に整った可愛らしい顔立ち――率直に言って自分の好みド直球ドストライクだった。
この時ほど自分の立場に、そして彼女の兄であるアーサーを護衛騎士に推薦してくれた父に感謝した日はないだろう。
それまでであれば特定の公爵家に足繁く通うことなど、政界への影響を考えれば憚られるところであるが、護衛騎士がいるのならば苦しいながらも言い訳は立つ。
まあ、実際のところアーサーとは話もそこそこに妹の姿ばかりを目で追っていれば、私の目論見などすぐ彼には見破られてしまったが。
彼女は私がアーサーと手合わせをしていると、度々その様子を見に来ていた。
彼女の姿が見られることが嬉しくて堪らなかった。
手合わせの最中にどこかを痛めれば、甲斐甲斐しく手当をしてくれて休憩の時間に合わせて侍女とともに差し入れをしてくれる。
お礼に彼女の好きなユリの花束を渡せば、頬を赤く染めて笑顔を向けてくれる。
そんな女の子らしい面もあれば、自身も武芸に打ち込み、淑女教育にも不満を漏らさずに取り組む、そのひた向きさに私の心はますます惹かれていた。
彼女の私に対する態度を総合して考えれば、ある程度好意的だと思っていいのだろう。
しかし、1年と経たずに護衛騎士に選んだアーサーが、レイクイン家に出仕することになり、彼女に会う機会はほとんど無くなってしまっていた。
それでも、彼女への想いが消えることはなかったが。
貴族学校に入学する前から婚約の話が出始め、入学後は令嬢たちからは日々、熱い視線を送られている。
正直、うんざりだ。
私の心は彼女で占められ、何者も入る余地など無いというのに。
だからこそ、アスタリオ王家の第一王子で従弟にあたるレーヴェリアンにフレイスリアの話をしたのは失敗だったと本気で思った。
彼はフレイスリアの誕生パーティで彼女を見初め、あろうことか婚約者候補の一人として指名したのだ。
外聞的には他の4人の公爵令嬢と有力貴族の令嬢たちも候補に指名しているため、レーヴェリアンが誰を望んでいるかはわからないだろうが。
何とかして手を打たなければ、想い人が奪われてしまう。
王家の忠実な臣としてあるべきだと教育されてきたが、これだけは譲れない。
そんな決意とともに、レーヴェリアンの婚約者候補を招集した場に同席することを許された私は最後に見た時から可憐に成長したフレイスリアの姿を見て胸が高鳴った。
自分の心情を悟られるわけにはいかないと、視線はある程度動かしながらも、フレイスリアの姿は常に視界の端に収めていた。
ふと、彼女の表情が曇ったこと気付いて、表情が曇る直前に向けていた視線の先に顔を向けると、レーヴェリアンが何やら良からぬ笑みを浮かべている。
これを見て勝算は十分にあると思った。
そして、この後フレイスリアの誕生パーティであったレーヴェリアンの醜態を令嬢たちが暴露したことで、それは確信へと変わったのだった。




