召喚
ベンチをどかし元気な芝生の上に布を広げる。
大きな丸型に星や四角やら色々重なった魔法陣が中央に一つ紫のインクで描かれている。
「どちらからやりますか?」
ゼムに問いかけられルギオスとディミータは、顔を見合わせる。
キラキラと澄んだ目でディミータは、ルギオスを見つめる。
流れる金髪から顔を出した左眼にルギオスのはにかんだ顔が映る。
「ディミが先でいいよ」
ディミータの顔に書かれた文字を読んでルギオスが答える。
「ありがとう! ルギオス!」
上機嫌になったディミータがゼムの言葉に従って靴を履いたまま円の上に立つ。
「いいですか? 足元から徐々に魔力が布に向かって流れていくようなイメージをしてください。魔力がきちんと流れたら、この紫のインクが光り出します。すべて光りましたら魔物が出てくるまでその状態は保ってください」
ディミータは言われた通りに魔力が、自分の体から布に向かって流れるようなイメージをした。
ゆっくりとディミータの近くのインクが光り出す。
それにつれディミータは何が体の奥底から溢れ出し、足元に向かって流れていくのを感じた。さらさらと小川のように滞りなくながれてゆく。
「お上手です。そのまま保ってくださいね」
円全体が既に美しい光を放っている。
数秒の間はただ光っているだけだったがなんと光が魔法陣の形を保ったまま中に浮かんだ。
二階ぐらいの高さまで上がるとその場で回転し始めた。スピードはそんなに早くはないが遅くもない。
「ディミータ様、魔力の流れはそのままにしてこちら来てください」
ディミータはゆっくり布から離れゼムの隣に移動した。
「さあ、ディミータ様。どんな子が来て欲しいか想像してください」
ディミータの心はもう決まっている。
(龍…………出来れば巨大な龍)
ぐっとディミータの体に何がのしかかった感じがした。
ディミータは耐えきれずグラッと膝から崩れ落ちる。
崩れ落ちるのとほぼ同時に魔法陣の回転が急速に早まった。それに合わせて魔法陣は大きくなってゆく。
ぐわんぐわんと音を立てながら激しい点滅を繰り返していく。
しばらくするともくもくと魔法陣からカラフルな煙が吐き出されてきた。渦をまき夏の入道雲のようになっていく。
「ディミータ様!!」
数人の声が響いたその瞬間
パリーンと魔法陣が音を立てて壊れた。
その衝撃のせいかどくろを巻いていた煙が一斉に吹き飛ばされる。
────グォォォォォォォォォォォォォォォォオ!!!!!!!!
校舎が 大地が 空気が 震える。それが体の芯に直に伝わる。中庭付近の窓や戸が壊れるんじゃないかってぐらいガタガタと音を立てる。
たった一匹の龍の嘶きで。
龍は蛇みたいなイメージで
ドラゴンはごついイメージがある。
そのためこの世界では
龍とドラゴンは別物とされている。