20話『2度目』
ある程度整えられた道をアユム達を乗せた荷車は進む。
長距離を移動するのに使う荷車はガタガタした道では進むのに苦労する、ましてや未開拓地になると獣道が限度である。
「だから僕達開拓者が最低限道を作る、それが僕達開拓者の仕事…」
「けど俺達そんな仕事来たこと無いですよ」
「君達は下級…未開拓の場所は何があるか分からない、基本中級かそれに同行するか…もしくは国からの要請で道を整える事がある」
「なるほど…」
「君達も中級になったら…僕と仕事する事になるからその時はよろしく…僕体力無いから…」
カンミールが手綱を握り、残りは荷台に乗っていた。
アユムは比較的話しやすそうなモルに話しかけ情報を得ようとする。
「ははは、俺達が中級になるのはまだ先の話しですから」
「…君達はスグなる…」
「それは俺達の才能を見出して…?」
「いや、エレファムルの依頼は異様に難しいから…ギルドの基準が王都で決められてるせいで上がりやすい、死にやすいけど」
王都、教国と王国だろうか?ようやくいくつあるか分からないこの世界の国のひとつを把握出来た。
エレファムルには図書館が無い、セシリアに聞くのも考えたがアユムはこの世界の住人では無い事を教えてない為聞けてない、無闇に素性を明かす訳にもいかず相手も聞いてこないので言わずにいる。
「(ワンチャンこの世界の地球人の扱いがヤバかったり転生者とか居たら困るしな…)」
例えば転生者がヤバい事していて違う世界から来た者は問答無用で処刑、とかもありえなくは無い。
言うのはもう少しこの世界を知ってから、それからでも遅くはない筈である。
「人の事言えないけどさぁ、あんたら珍しいパーティね」
「え?」
「男女混合は問題が起きやすいのさ…よくあるのは色恋沙汰」
「あー…」
ミルマに言われ思い返す。
この世界に来てから死にかけたり等、色々あったが外から見たらアユム達は無表情のミステリアスなアミーラと体格は小さいが可愛らしい見た目のリサと謎の男のパーティである。
考えてみると男達からは羨ましがられる構図でアユムはいつ刺されてもおかしくないのかもしれない。
「で、どっちがタイプなんだい?」
「た…タイプですか?」
「わざわざ女と冒険するのは大体はそういう事なのさ」
「…………」
「あ?何見てんだ?」
アユムが交流してる間アミーラとリサは座って武器を磨いたり座って目を閉じてじっとしていた。
視線に気づき顔を上げるリサに思わず目線を逸らし疑問の視線を向けられる。
「君もそっち側の人間だったのかアユム君…!」
「モルお前誰これ構わず嫉妬すんな可哀想だろ」
「アユム君よく聞くんだ!仲間内に付き合ってる奴がいるとパーティは崩壊する…!」
「え、は…はぁ…」
モルに肩を掴まれ揺らされながらアユムは返答に困っていると見かねたミルマが間に入る。
「まだそんな事言ってるのさ、あんたも作りなさいよ…私達みたいに」
「そうだぞモル、戦ってる時背中を預けられるのは仲間と愛する奴だけだ」
「カンミール…」
「ミルマやめろ、今は他のやつも見てる…」
「これだ!毎回毎回イチャイチャイチャイチャ…!見せられてる僕の身にもなれ!やっぱり解散だ解散!」
ところ構わずイチャイチャし始めた2人にモルは発狂するように叫ぶ、どうやら酒場でのあの会話もこれ関係だったようだ。
「なんの話してんのか分かんねぇけど嫌なら出てけばいいじゃねぇか」
「………」
「嬢ちゃん言わんでやってくれ、こいつと俺には夢があるんだ」
「は?夢と出ていかない事になんの関係あんだよ」
「……僕とカンミールは上級Aになる為に冒険者と開拓者になったんだ」
暴れ狂うかのように思えたモルは冷静になったのか、最初に座っていた場所に座り直して口を開く。
「僕とカンミールはシュードル王国の東部にある小さな村で慎ましく生きていたんだ、ただその頃は帝国と戦争してたせいで盗賊が増えていた…」
「…………」
「珍しくもない事だ、僕らの村は僕とカンミール以外皆死んでた…僕達が遊びに行ってる間に」
「俺達が出来る事はそんな多く無かったからな、物乞い生活に嫌気がさして冒険者と開拓者になった」
「……中級になった頃、僕らの村を襲った盗賊達が規模をデカくしてルモンド共和国に根城を作ってるって噂を聞いて…復讐するつもりだった」
モルの顔は険しい、盗賊達が何をやったのかアユムは知らないが想像が出来ないわけじゃない、リサも同じ想像をしたのか怒りの表情を見せる。
「けど他の国に行くには上級になるか、別の方法で行くしかない…俺達は1番早い上級になる事を選んだ」
「…僕はカンミール意外と組むつもりはない、だから僕はこのパーティに居続ける」
「…ミルマさんは何でこのパーティに?」
「あたいかい?」
話を静かに聞いていたミルマは突然話を振られキョトンとしていたが姿勢を変えながら笑う。
「私はコイツらに助けられてね、冒険者として活動してたんだけど獣人だからって捕まえられて他に捕まってた子達共々奴隷になりそうな所に現れたのがカンミールとモル」
「あん時はキツかったぜ、相手に魔法使い8人居たんだぞ?モルが居なかったら俺達もどうなってたか」
「ぼ、僕はカンミールが戦いやすいようにしただけだよ…」
「他の子達もあんたに感謝してたのよ?勇気と自信がありゃあんたもねぇ…」
重い話にサラッと重い話が被せてきたが、この3人はアユム達には分からない硬い絆があるらしい。
楽しげに話していた3人だが突然カンミールが手綱を引いて馬を止める。
突然の急停止に横に倒れながらアユムはカンミールを見る。
「ど、どうしたんですか?」
「どうやら道中楽に進むのは無理そうだ…ミルマ」
「8…いや10くらいね」
「…多分ここに人間が通るのを見てたんだろうね」
ハンマーを握り降りるカンミールに続いてミルマとモルも荷車から降りる。
とりあえずアユムも槍を手に降り、リサとアミーラも続く。
ある程度視界が開けた場所から森に入る手前で止まっていたのに気がついたのか…森の中から複数の影が見える、それは小さな子供のような体型でアユムには見覚えがあった。
「…ゴブリン」
「は!話ばかりで退屈してたところだ!」
「っと、すまないな嬢ちゃん」
早速飛び出そうとしたリサの前にハンマーを出し停止させる。
「せっかくだ、俺達の実力ってのを見せてやる」
「あ?んなもん…」
「リサさん、今は大人しく見ておきましょう?」
「…チッ分かったよアミーラ」
「(アミーラの言う事は聞くのね…)」
少しモヤりながらもアユムはカンミール達の方を見る、それぞれ武器を構えゴブリン達が走ってくるのを観察する。
「行くぞ!ミルマ!モル!」
「あいよ」
「………」
大きくハンマーを振り上げ戦いの火蓋が切られる。