21話『中級の実力』
一気に前に出たカンミールとそれに続くようにミルマが走り、モルは一定の距離を保っている。
それに対してゴブリン側は8匹前に出てきておりお粗末な木の棒や斧を装備している、また1匹だけ何処から手に入れたのか弓を持っており狙いが甘いのか飛ばしても届かなかったり的ハズレな所に飛んでいっている。
「ミルマ、モル!いつものだ!」
「あいよ!」
お互いが接敵し重いハンマーを横殴りの体勢で振りかぶるカンミールを隙だらけだと思ったのだろうゴブリン3匹がカンミールに襲いかかる。
「ウチのエースに近づくのは難しいよ」
向かってくるゴブリン3匹の後ろに素早く回り込んだミルマの短剣はゴブリン達のアキレス腱を切り裂き、1歩下がる。
痛みと足首が曲がらなくなり走っている体勢から倒れそうになった所をカンミールのハンマーが横から3匹まとめて命中し血を撒き散らしながら飛んでいく。
「『我が願いを叶えたまえ…大地よ』」
「ギャッ!?」
2人がゴブリン3匹を仕留めたのを確認し、モルは何かを唱えたかと思うと攻めあぐねていた残りの5匹のゴブリンの足元の地面が突然割れ落下していく。
「…これで残りは1匹」
両手を広げ、叩いた瞬間割れた地面が塞がり始め裂け目に落ちたゴブリン達の悲鳴が最後に地面は綺麗さっぱり元通りになる。
一瞬で仲間が死んだのを見る事しか出来なかった弓持ちゴブリンは慌てたように森に入っていき大きな声で叫ぶ。
「なんだ?まだお仲間引き連れてくる気か?」
「ちょっと待って…多分後1匹大きなの来るわね」
「いつもの直感か?」
「そうよ?」
「ならその通りなんだろうな、恐らくゴブリンの親玉だ」
「親玉…」
そこそこ離れてるからか聞こえにくいがゴブリンの親玉っぽいのはアユムも出会った事がある。
大きな体にあの時はナイフを手に持っていた。
似たようなのが来るのかと考えていたら木々をかき分けて大きな姿が森から表れる。
「大きい個体がいたって報告はあったかモル」
「いや、ここ最近ではそんなの無かった」
「つまり最近ここに来た流れもんか…今後進行の邪魔になる、ここでやるぞ」
「あいよ、モルあの弓お願いね」
「分かった」
出てきた大きなゴブリン、言うなればゴブリン達のボスなのだろう。
身体中が傷だらけで歴戦の雰囲気を感じる、だがアユムが見たように武器を持ってはいたが大きな棍棒だ。
「『焔よ対象を燃やし尽くせ』」
「うおおおおぉ!」
手を伸ばし手のひらから炎のロープのようなものが飛び出し、弓持ちゴブリンに巻き付いたかと思うと激しくゴブリンは燃え始める。
ロープのように固定されてるのか両手が動かせず地面を転がるが火が消えずゴブリンは動かなくなる。
それに合わせてカンミールはハンマーを振るい同じく大きく振りかぶったゴブリンの棍棒とぶつかり大きな衝突音が響く。
「力はそっちが上だがちゃんと扱いきれてるか!」
「グオオオオオオォ!」
弾かれたハンマーの勢いに乗るように持ち手を変え回転を加えて反対方向から大きくハンマーを振るう。
応戦しようと棍棒を振ろうとした瞬間、いつの間にか接近していたミルマが投げた短剣が目に突き刺さり痛みで振るう棍棒の威力が落ちる。
「そらっ!もう1発!」
棍棒が弾かれ、そのままカンミールは勢いを殺さずその場で飛びハンマーを両手で構え上から振り下ろすようにゴブリンの肩に叩きつける…その姿はまるで舞っているようである。
骨が折れる音と更にミルマが足の筋肉を切断し立ってられずゴブリンは膝立ちになる。
「モル!」
「『その魂の結末を命ずる、断罪』」
両手で何かを包み込むような構えをしていたその空間が淡く光り…目で追える程の速度で光の矢が飛び出しゴブリンの胸元に突き刺さる。
その瞬間大きなゴブリンの身体中から光の剣が飛び出し血を吹き出しながらゴブリンは地面に倒れる。
「すげぇ量だったな、何したんだこのゴブリン」
「多分戯れで沢山殺してたんだと思う」
「なるほどねぇ、そりゃこんだけ出るわけだ」
戦いが終わり短剣を拾ったりしている3人を見ていたアユム達はポカーンとしていた。
「…あっちゅう間だったな」
「…………」
「あ、私魔石欲しいです」
「?」
「あー!アミーラは魔石集めるのが趣味でして!」
魔石欲しがるアミーラに疑問を持ったモルに誤魔化すように大慌てで間に入る。
「と、所でさっきの魔法凄かったですね!なんの魔法なんですか?」
「…あれは光魔法、断罪って言ったけど正式名称は無いよ」
「えぇ!?だけど大地とか炎とか…」
「魔法を使うのにはイメージが重要、自分がイメージしやすいなら無言でも良い」
「な、なるほど…」
イメージ、つまり想像力があれば何でも出来るのが魔法という事なのだろうか?
「さっきの話に戻るけど、さっきの光は当たった相手がどれだけ罪を犯したかで体から出てくる刃の本数が違う」
「つまりさっき沢山出てたゴブリンは…」
「結構悪い事してたみたい、生きる上での以上に…」
生物生きていく上で犠牲が出てしまう、自然の世界では特にそうだろう。
生きる為に殺し食い生きる糧にする…相手を害したりする事もあれば迷惑をかける事もある。
これ以上となると相当あのゴブリンは悪い事をしていたようだ。
「うちのモルはすげぇんだぞ、基本5つに加えて聖職者と魔族しか使えない光と闇も使えるんだ」
「えぇ!凄いじゃないですか!」
「や、やめてくれカンミール…その代わり基本しか出来ないんだ…」
基本5つも光闇や聖職者と魔族関係はさっぱりだがアユムはとりあえず驚いておく、今後魔法を使う事になるとすれば必要になるだろうが今は変に聞くのは止めておくことにした。
「んじゃ、先に進みますか」
「そうだね…予定通りに進めればいいんだけど」
荷車に戻っていくカンミールに続いて各々戻っていく、その中でリサだけはジッとミルマを見ていた。
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「おぉー…普通だ」
「あぁ…普通だ」
「お前ら仲間が作った料理見て第一声がそれか?」
ある程度進み夜になる前に野宿する場所を確保して各々準備をする。
その中でモルとアミーラが料理を担当する事になりアユム達は内心ハラハラしていた。
「借家の時の努力が実を結んだんだな…!良かった…!良かった…!」
「もう謎の味がするスープ飲まなくて良いんだ…」
「お二人とも失礼では?」
アミーラは何でも出来る、そう知っていれば何でも出来る…知らなければ知ってる範囲で行う為初めての料理では未知の領域に到達する。
借家での3人で料理をローテーションで行っていたがアミーラの時だけは緊張が走る、時にはアユムは失神しリサは3時間家出した事があった。
「そして味も普通だ!」
「辛くて甘くてしょっぱくなる事もない…うっ…うっ…」
「泣くなリサ!俺達の犠牲は無駄じゃ無かったんだ!」
「…なんだこいつら」
「失礼な人達です」
アミーラはスープ、モルは偶然川を発見した際に手に入れた魚を焼いたものを用意しており多少豪華になった。
「僕のは焼くだけだから楽したみたいだね」
「魚捕ったのはモルさんですから…」
「そうよモル、魚無かったら今頃干し肉よ干し肉」
「硬いのさえ何とかなりゃなぁ…」
「保存が出来ない分食料は限られるからね」
この世界の転生者がもう既にいたら便利な物は作ってそうだが、まだ出回ってないのかそもそも転生者がいないのか。
世の中上手くいかないものだと思いながらアユムはスープを飲むと入ってる野菜の中に何か入っている。
「ん?何これ」
「兎の形に切ったジャガイモです、大当たりですね」
「ヤッター!」
「ちなみに8個のジャガイモのうち7個がそれです」
「大当た…り…?」
「じゃあ僕のこの普通のが1番当たりだね」
アミーラの機転により食事は大いに盛り上がり食事を終え、ジャンケンを布教して最初の寝ずの番はミルマになった。
「はい皆ちゃっちゃと寝る、明日も早いんだから」
「おっとミルマ…寝る前のやつがまだ終わってないぜ」
「カンミールったら…もう…」
「ミルマ…」
「チッ!」
ローブを頭深く被り横になるモルにドッと笑いが起こり各々焚き火の近くに陣取る。
アユムは地面が硬かったので開拓者スキルで地面を柔らかくしながら横になる、焚き火の温かさが心地よくスグに夢の世界に入る事が出来た。
☆★☆
焚き火の弾ける音が響きミルマ以外の全員が寝静まっていた。
いくつもある短剣を1本ずつ出し磨いたりあえて泥をつけたりしていたが突然磨いていた手を止める。
「私に話があるのかい?リサ」
「…あぁ」
いつの間にかミルマの背後に立っていてリサの方に振り向き、座るように促す。
ひとまず座りお互いに向き合うような形になる。
「昼から何か言いたそうだったけど何?」
「…あんた1人でもゴブリン共倒せたのになんでわざわざアイツらの補助してたんだ?」
「あー…なるほどね」
ミルマは獣人、人間よりも遥かに身体能力も反射神経も良い…ミルマ1人で戦った方が早く終わる筈なのだ。
「私には分かんねぇ、仲間を危険に晒すよりもサッサと終わらせた方が安全だろ?あんたならそれが出来るだろ」
「んー、リサは少し視野が狭いねぇ」
「あ?」
置いてある短剣を拾い、クルクルと回しながらミルマはリサを見る。
「例えば私達の武器は同じでしょう?」
「あぁ」
「素早く動く為に使ってるわけだけど、例えばゴーレムが現れた場合どうする?」
「……切りまくる?」
「それでもいいわね、いつかは胸元のコアが破壊できるわ…それじゃゴーレムと弓を使う敵がいた場合は?」
「………弓片付けてゴーレム殺る」
「それじゃ更に追加するわね」
近くにあった石を置き、大きな丸を3つ弓を使う敵として描き同じような丸を岩の前に描く…そしてその後ろに小さな丸を2つ書いてミルマはリサを見る。
「このゴーレムと弓がいる中で子供が2人居るとしたら…どっちから行く?」
「………弓…いやゴーレムが…けど放置するのも…………無理だ」
「ちょっと意地悪だったかい?確かに私達は強い、けど出来ることは多くはない例え私が獣人で貴方が人間じゃなくてもね」
「…………」
「貴方から人間以外にも別の何かが感じるの、大丈夫よ他の誰にも言わないから」
腰に伸びかけていた手を止め、リサはため息をしながらミルマを睨む。
睨まれ微笑みながらミルマは小さな丸の前に大きな丸をもう1つ描く。
「確かに貴方の言う通り仲間が危険になる前に倒せばいい、だけど守るものが出来た場合はそうは行かない…例えばこの丸がアユムだとするとどうなる?」
「……アユムが子供守ってくれっからどっちかに行ける」
「そういう事、私達の仕事はねリサ…仲間を守る事も大事だけど支え合える架け橋を作ること」
「架け橋?」
何を言ってるのか分からないように首を傾げるリサに分かりやすいようにミルマは言葉を選ぶ。
「さっきの例えだけど大型ゴブリンがゴーレムだったとする、私じゃ倒すのに時間かかるけどカンミールなら一撃で粉砕して倒す事が出来る」
「…あのハンマー使えばな」
「けど周囲に小物がいたりゴーレムが素早かったりするとカンミールも倒しにくい、その場合私が周囲を整えてゴーレムの機動力を削げば後は彼がやってくれる」
置かれた石を短剣の先っちょで弾き遠くに飛ばす。
「そして弓を使う敵も近づくのに一苦労だけどモルなら遠くから狙って倒せる、だけど小物が接近戦を仕掛けてきたらモルは集中して魔法を使えない」
「…そん時は私達がさっきと同じように片付ければいい」
「そういう事、1人でも仲間が居ればできる事が増える…今は1人でもいいわ…けどいつか貴方は1人で守りきれなくなって…」
大きな丸の中心に短剣を突き刺し、残りの短剣も小さな丸に突き刺す。
「皆居なくなる」
「…………」
「まぁ私が言いたいのは1人で何とかなるとは思わない事ね、それじゃそろそろ交代の時間だから後は任せるね」
短剣を回収し、焚き火に少しだけ近づいて横になり毛布を被る。
しばらくすると寝息が聞こえてきて完全に寝ているのが分かる、1人残ったリサは何か考えるように空を見上げ思いにふける。
☆★☆
ぐっすり寝ているアユムは突然体が揺さぶられ飛び起きる。
「なんだ!敵か!朝か!それとも地震かー!」
「…静かにしろよ、元気かてめぇは」
「リサ…あれ?もう交代?」
揺れていたのはリサに揺すられていたからだった、寝ずの番はリサの次アユムであるが空を見て月の位置を確認するがまだアユムの番ではない筈だ。
「血だよ血、そろそろ補給したいんだよ」
「あー…まぁ今くらいしかタイミング無いか…ちょっと待っとけ」
リサは血をしばらく飲まなくても大丈夫だが限度はある、定期的にアユムが血を飲ませてるのだが最近そのせいか貧血気味であった。
アユムは焚き火に水を入れた鍋を置き水を沸騰させお湯に布を入れ軽く絞り腕を拭く。
「んな面倒な事しなくても切って飲ませろよ」
「駄目だわ雑菌舐めんなよお前ちゃんと歯磨きしたんだろうな」
「してるに決まってんだろお前も野菜食ってんだろうな」
「バランス良く食べてるわ血の味は保証する………血の味の保証ってなんだよ」
「知るか」
一通り準備を終え、専用のナイフを取り出しアユムの腕を少し切る。
溢れそうな血をリサはかぶりつき飲み始める、絵面だけだと警察沙汰である。
「…なんか酸っぱいな」
「4日前くらいにオレンジ飲んだからか…?まさか」
「……78点」
「人の血に点数付けるな…ちなみに初めて会った時は何点?」
「100点」
「マジで!?」
「血が飲みたくて仕方ねぇ状態だったからな」
「最高のスパイスは空腹じゃったか…」
食べた物で血の味は変わると何処かで聞いた事あるアユムはニンニクを食べるのは控えた方が良いのだろうかと不安になる。
「なんか血を保存出来る何かありゃ良いんだけどな」
「そんなのあったらわざわざお前から吸わないわ」
「それはそう」
「…………なぁ」
「ん?」
欠伸をして飲み終わるのを待ってるとリサが飲むのを止めてアユムを見てくる。
「お前なんで私らとパーティ組んでるんだ?お前人間の中でも身体能力高いしスキルも強いだろ…あの消滅ってやつ」
「あー…」
リサが最後にアユムが戦ったのを見たのはカルソンと戦った際の事だ、あの時は前文明の異物との戦闘で洞窟の頃に戻っておりスキル消滅もバンバン撃てた。
だが今のアユムは元に戻り弱い。
「…俺が出来ない事2人が出来る…から」
「……どういう事だよ」
「いやその…俺弓出来ねぇし素早く動けないし…スキル使い過ぎると気絶するくらい燃費悪いし…頼れる仲間居た方が楽しいしな」
この世界に来て最初にアユムが感じたのは孤独だった、1人ではあの黒龍も倒せない…アミーラとダガリオとリサがいなければ前文明の異物にも勝てなかった。
アユムにとっての仲間は心の支えであり頼れる仲間である。
「……そっか」
「どうした急に、悪いものでも食ったか?」
「うるせぇ!………私頑張るからよ、その…このままこのパーティに入れててくれよな…」
「?あぁ、てか早く飲むなら飲んでくれない?傷口固まりそうなんだけど」
「あ、やっべ」
「おい舐めるな傷口!」
時間が経つと血が固まって血が止まる、固まりかけたのを剥がされ痛みが走り怒っていると物音が突然耳に聞こえてくる、リサも聞こえたようで腰の短剣を構え音の方向を見ると…
「…あ…いや…まぁあれだ、ちょっと小便行きたくてな…邪魔して悪かったな…
はははは…」
いつの間にか起きて少し離れた場所に忍び足をしていたカンミールが気まづそうに苦笑しながらそろーりと歩いている。
だが途中で立ち止まり背中を向けながら
「その、なんだ…世界は色々な形があれど……血を飲ませて傷口を舐めさせるのはちょっと…あれだと思うぞ!おじさんはちょっと良くないと思うな!んじゃしばらく席外しとくから!じゃ!」
と、アユム達に聞こえる程度の大声で喋りダッシュでその場を離れる。
ポカーンとなりお互いの顔を見合っていたが、ふと我に返る。
「「待てやコラー!」」
その後2人がかりで捕まえあれこれ言い訳をし、なんとか説得しようと試みたがカンミールの目線はよそよそしい。
朝になってもカンミールは視線を合わせずミルマとモルとアミーラは疑問の表情を浮かべる。
しばらくの間、アユムは女の子に血を飲ませるやべー性癖の奴だと笑いの種にされ苦しい日々が続く




