十 天則意図
シャイタンの呼び出しに応じて現われた暴風雨神ルドラは、夜空の下、そこだけが眩く見えるような姿をしている。頭の高い位置で金髪を結い、金色に輝く赤褐色の肌と強靱でしなやかな肢体を持つ美少年で、黄金の装飾品を身に纏い、金色の弓と矢を持っているのだ。
【シャイタン、おれを呼んだ以上、手加減などというものは期待するなよ。おれはインドラとは違って心ゆくまで暴れるからな】
一方的に宣言すると、咆哮者とも呼ばれるルドラは、暴風雨を起こして踊り狂い始めた。火神アグニは焚き火を殆ど消されて小さくなり、一触即発状態だった人間達も、それぞれ木陰に散っていく。ナヤクも、驚いたように辺りを見回し、しなる枝や吹き付ける雨風から顔を庇ったが、すぐにシャイタンのほうを振り向いた。誰の仕業か分かったらしい。こくりとシャイタンが頷いて見せると、青年は少し肩を竦めるようにして微笑み、次いで動けないラクシャスへと歩み寄っていった。
(あくまで、そやつに関わろうとするか……)
シャイタンは溜め息をつき、自らも青年の後を追う。一人取り残されたラクシャスは、下草の中に座り込んで、ナヤクとシャイタンを睨み上げた。雨に震えるその姿は、痩せっぽちの十一、二歳の少年にしか見えない。
(天則め)
シャイタンは、この世界の管理者にして支配者たる天則――リタの意図を明確に感じて、顔をしかめた。天則は、敢えて幼気なラクシャスを、この世界に多く存在させているのかもしれない。だが、そんなラクシャスを攻撃した兵達の精神は、更に度し難いものになってしまった訳だ。
「大丈夫だ」
ナヤクが屈んで、暴風雨に負けない声でラクシャスに言う。
「おれは、おまえを傷つけない。だから、怪我をしているところを見せてくれ」
「あなたは手当てができるんですか?」
シャイタンもまた暴風雨に負けないよう声を張って、天則への苛立ちを八つ当たりすると、屈んだ青年は肩越しに見上げてきた。
「あんたが治してくれると思っているんだけれど、もしかして、無理……?」
「随分と、わたしのことをお人好しだと思っているんですね……!」
「ああ。魔王討伐軍に入った上、面倒な境遇のおれを助けたあんたは、随分とお人好しだと思う……!」
真顔で肯定した青年に、シャイタンは深い溜め息をついた。確かに、そう指摘されても仕方のない行動を取った。
「……そうですね……!」
認めて、シャイタンもナヤクの傍らへ屈み、暗がりの中、ラクシャスの少年と目を合わせる。
「さあ、どこが痛むのか見せなさい。さもないと、今度は雷霆神インドラを呼んでヴァジュラを振るわせますよ……!」
暴風雨に勝つ大声で軽く脅すと、ラクシャスの少年は身を竦ませ、恐る恐るといった様子で、右足を伸ばした。動けないはずだ。骨張った足には、槍で突かれたらしい深い傷があり、出血が続いていた。腕や顔には、火傷も負っている。
「安心しなさい。わたしは天才。天則に誓約し、才能を与えられし者。ゆえに、完璧に治療して見せましょう……!」
シャイタンは、暴風雨の中ずぶ濡れになって髪を乱されながら、ラクシャスの少年とナヤクに胸を張って約束した。




