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①人材派遣会社【アビリティワークス】

 ――グランベルカ

 

 ここは、「アビリティ」によって価値が決められる街だ。


 人は成長とともに、固有の力『アビリティ』を発現する。

 それは、戦うための能力や、傷を癒す力、遠くの物を見たり、念話で思いを伝えることができる力など様々だ。


 その力が有用であればあるほど、需要が高くなり、生活に困ることはなくなる。


 だが、そうでない者は……仕事にも恵まれず、居場所を失う。


 それが、この街の常識だった。

 


 ――グランベルカ中央区。

 人通りの多い大通りから一本外れた場所に、質素な平屋がある。


 入口に掛けられた、小さな看板には……


 『アビリティワークス』


 まるで、表札のように控えめに記されていた。


 その扉の前で、一人の女性が佇む。


 肩までかかる淡い金色の髪を、左手で弄りながら、深く息を吸う。

 

 何度かそうするうち、意を決したように、扉を押した。


 中に足を踏み入れた瞬間、奥から若い男が現れた。


 エリオ・グランツ。

 胸元の名札には『派遣相談員』と記されていた。


 年の頃は二十歳後半。

 栗色の髪に、整えられた身なり。

 柔らく、落ち着いた声で言う。


「いらっしゃいませ。アビリティワークスへようこそ。私はエリオと申します。今日はどうされましたか?」


「……は、はい。仕事の、相談で……」


 女性は緊張からか、徐々に声音が小さくなる。

 そんな彼女に対し、男は姿勢を正し、受付越しに軽く会釈した。


「承知しました。こちらへどうぞ。お名前を伺っても?」


「ミラ・ルージュです」


 名乗ると同時に、ミラは両手を強く握りしめる。

 その仕草だけで、ここへ来るまでに苦労したであろうことは伝わってきた。


「ミラ様ですね。では……アビリティを教えてください」


 その瞬間、ミラの肩が、わずかに強張る。


「……透視、です」


 その言葉に、エリオは疑問を抱く。

 透視は、本来なら需要の高いアビリティのはず……?


 そう思った瞬間、ミラがすぐに言葉を続けた。


「ただ、問題があるんです」


「問題?」


「……手で触れている部分しか、見えません」


 視線を落とし、自分の指先を見つめながら、淡々と告げる。


「透視だと言うと、最初はどこに行っても期待されました。でも……触れた場所だけじゃ、役に立たないって」


 室内に、短い沈黙が落ちる。


「……生活していくためのお金も、残りわずかで……これ以上仕事が見つからなければ、もう……」


 声が、震えていた。

 

「分かりました」


 顔を上げ、ミラを見る。


「まずは、アビリティの詳細を教えてください。発動条件や、効果をできるだけ詳しく整理いたしましょう。ミラ様に合った仕事を、必ずご提案いたします」


 ミラは一瞬、驚いたように目を瞬かせ、

 それから、ゆっくりと頷いた。


 ――


 エリオはミラを受付の隣にある応接室へ案内すると、彼女をソファーへと座らせる。


「では、さっそく……こちらの書類に記入していただいてもよろしいでしょうか」


 そう言って、幾つか質問事項が記載された紙を机に滑らせた。


「これは……発動してからの持続時間、疲労度の蓄積具合?」


 ミラは紙に書かれている質問を言葉にしながら、エリオに尋ねる。


「あの、この紙は?」


「アビリティを使う際、どういった条件で、何ができるのか、そして、それによる身体的な負荷がどの程度であるのか等を書いていただきたいのです」


 エリオは念を押すように言葉を続ける。


「詳しく教えてくだされば、その分、斡旋できるお仕事が増えますので……もちろん、仕事の斡旋以外での口外は一切致しません」


「仕事が……」


「ええ、ですが、虚偽の記載をされた場合、斡旋後に問題となっても責任を負えませんので、ご了承を……」


 斡旋先から話が違うと言われても困るからな。そこは了承してもらわないと、こちらも困る。


「は、はい……わかりました」


 ミラは戸惑いながらも頷き、用紙に記入していった。


 その様子を見ながら、エリオは奥でお湯を沸かし、紅茶を淹れる。


 限定的な透視能力。

 すでにいくつか斡旋先は候補が思い浮かんでるけど、とりあえず、一日で使用できる回数や、持続時間、本人への負担がどの程度かわからないと決められないな。


 エリオは茶菓子と紅茶をそっとミラの席へと運ぶ。


「あの、か……書けました」


 不安そうにペンを置き、両手を握りしめながら膝の上に乗せる。


「ありがとうございます。それでは、少し目を通させていただきますので、紅茶をどうぞ」


「えっ、と……はい、ありがとうございます」


 エリオは小さくお辞儀をして、ミラが書いた書類を読んでいく。


 【発動条件】

 触れたもの全て。

 目を閉じて、透視するために意識するだけで発動できる。

 

 【透視できる範囲】

 手のひらが触れている箇所から10㎝ほどの深さまで、視界に映るものは白黒で見える。


 【持続時間】

 5〜10分ほど、それ以上は頭痛と目の痛みが出現するため、試したことはない。


 【疲労度の蓄積具合】

 一度発動してから、5分ほど休めば再度使用は可能。


 【一日に使用できる回数】

 特に使用回数に制限はないが、限界まで試したことはない。


 ……なるほど、透視できる条件と範囲に制限はあれど、使用できる回数は多い。


「一般的な透視能力に比べると圧倒的にコスパがいいじゃないか」


 この条件で紹介できる仕事は……やっぱり、あそこしかないな。

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