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植物喰いの賢者〜無能と蔑まれた侯爵家次男、実は植物の核を食べてステータスを無限に強化していた〜  作者: たま


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2話 泥の中に咲く花

数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。

拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。

2話 泥の中に咲く花


王立魔法学園の入学式。そこは、生まれ持った「属性」と「魔力量」がすべてを決める残酷なまでの階級社会だった。


白亜の校舎を背に、豪奢な馬車が次々と乗り付ける。降りてくるのは、まばゆい魔力を放つ貴族の子弟たちだ。その中で、私は祖母アメリアが用意してくれた、古いが手入れの行き届いた馬車から静かに降り立った。


「おい、見ろよ。あれは……」

「エステラード侯爵家の『役立たず』じゃないか?」


周囲からクスクスという忍笑が漏れる。

視線の先には、私の実兄であるカイン・フォン・エステラードがいた。彼は取り巻きに囲まれ、自信に満ちた表情でこちらを見下している。カインの適性は「爆炎」。攻撃魔法において最強の一角とされる属性だ。


「レオン、わざわざ恥をさらしに来たのか? 庭師の真似事なら実家の隅でやっていればよかったものを。アメリア様に泣きついて入学させてもらうとは、相変わらず見苦しい」

カインの言葉に、周囲の貴族たちが同調するように声を上げる。

「植物から種を抜くだけの能力だっけ?」

「神殿の鑑定で緑色にしか光らなかったっていう、あの……」

「ああ、雑草の種でも食べて飢えを凌ぐのがお似合いだな」

私は無表情を貫いた。

彼らには見えていないのだ。私の視界には、学園の広大な敷地に植えられた並木や花々から、濃密な「緑の燐光」が立ち上っているのが見える。


(……この学園は、宝の山だ)


数百年かけて育てられた「魔導大樹」の若木、歴史ある薬草園、そして、王家が秘匿しているはずの「古の茨」。

私は心の中で冷ややかに笑った。彼らが私を「役立たず」と蔑んでいる間に、私はこの学園の「精髄」をすべて喰らい尽くしてやる。


実力測定の「誤算」


入学初日、講堂で行われたのは「魔力出力測定」だった。

巨大な魔晶石に手を触れ、放出された魔力の輝きでクラス分けが決まる。


カインが石に触れると、講堂内が焼け付くような赤い光に包まれた。

「出力数値、850! さすがは侯爵家の嫡男だ!」

教師たちの感嘆の声。カインは勝ち誇った顔で私を睨んだ。


私の番が来た。

私は祖母の教え通り、体内の魔力回路を九割九分閉鎖した。残したわずかな隙間から、昨日「薄荷ミント」の種を食べて得た、清涼感のある魔力を一点だけ流し込む。


魔晶石は、ぼんやりと、消え入りそうな緑色の光を放った。


「……数値、12。植物操作適性……最低ランクだ。レオン・フォン・ヴァイスハイト、Eクラス」


講堂が爆笑に包まれる。

「12だってよ! 平民の農夫以下じゃないか!」

「ヴァイスハイトの名が泣いているな」


私は一礼して列に戻った。

Eクラス。そこは「落ちこぼれ」専用の旧校舎。管理が行き届かず、雑草が伸び放題の場所だ。

私にとっては、これ以上ない「最高の食卓」だった。


静かなる略奪


Eクラスでの生活が始まった。

授業は退屈そのものだった。植物魔法の基礎——「芽を出させる」「成長を数センチ早める」といった、あまりに低次元な内容だ。


放課後、私は誰も来ない裏庭の廃墟に向かった。

そこには、学園創設時から放置され、あまりの毒性の強さに誰も手を付けられない「獄炎蔓ゴクエンマン」が群生していた。


「……美味しそうだ」


指先を伸ばす。

蔓が獲物を感知し、鋭い棘で私の腕を切り裂こうと襲いかかる。だが、私の指が触れた瞬間、蔓の動きが止まった。


核抽出シード・エキストラクト


蔓のエネルギーが一点に凝縮され、私の掌の上に、燃えるような紅い種が三粒浮かび上がった。

それを一気に口に放り込む。


「……熱い。だが、力が漲る」


喉を焼くような感覚の後、私の魔力回路に「炎耐性」と「爆発的な熱量」が組み込まれていく。

この五年、私はただ種を食べてきたのではない。植物が持つ「生存戦略」そのものを自分の血肉に変えてきたのだ。


樫の木からは「剛力」と「硬化皮」を。

薔薇からは「魔力伝導」と「魅了の芳香」を。

そしてこの獄炎蔓からは、兄カインの「爆炎」すら無効化しうる「抗炎の理」を手に入れた。


一ヶ月後。

私の身体能力は、もはや人間の域を超え始めていた。視界は数キロ先の木の葉の揺れを捉え、聴覚は地中を走る根の鼓動を聞き分ける。


一方、カインたちは増長していた。

「レオン、お前にいい仕事をやろう。今度の学園祭で使う舞台の花を、お前の『ショボい魔法』で全部咲かせておけ。失敗したら……わかっているな?」


カインは私の肩を強く掴み、火傷するほどの熱を放った。

本来なら悲鳴を上げるはずの熱量。だが、私は瞬き一つせず、無感情に彼を見つめ返した。


「……承知しました、兄上」


「ふん、相変わらず不気味な奴だ。精々、泥にまみれて働け」


カインが去った後、私は彼が触れた肩の布を払った。

熱など微塵も感じない。むしろ、彼の放った魔力の一部を、私の服に付着していた「寄生苔」の種が吸い取り、私の糧へと変換していた。


断罪の園


「学園対抗演習」の日がやってきた。

全校生徒が参加し、学園所有の演習林に隠された「魔石」を奪い合う、実戦形式の試験だ。


カイン率いるAクラスのチームは、圧倒的な火力で他のクラスを蹴散らしていった。

「あはは! 逃げろ逃げろ! 雑魚どもが!」

カインが放つ火球が森を焼き、学生たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。


彼らの進む先に、一人の少年が立っていた。

私だ。


「おいおい、レオンじゃないか。こんなところで何を……まさか、自分も戦うつもりか?」

カインが取り巻きと共に着地し、嘲笑を浮かべる。


「兄上、この森の植物たちが泣いています。あなたの炎は、あまりに品がない」


「はあ? 植物が泣いているだと? 狂ったか、役立たず!」

カインが右手を掲げる。巨大な炎の塊が形成される。

「死なない程度に焼いてやる。それが家族の情けだ!」


爆炎波エクスプロージョン!」


紅蓮の炎が私を飲み込んだ。周囲の木々は一瞬で炭化し、地面はガラス状に溶ける。

カインたちの高笑いが響く。


だが。


「……それだけですか?」


炎の中から、傷一つない私歩み出た。

私の周囲には、目に見えないほど微細な「種」が霧のように舞っていた。それらがカインの放った熱をすべて吸収し、私を守る防壁となっていたのだ。


「な、なんだと……!? 私の魔法が効いていない……?」


「お返しです」


私は地面に片手を突いた。

『高速増殖:茨の牢獄アイアン・ブライヤー


地面から、鋼鉄よりも硬く、燃え盛る炎を纏った蔓が猛烈な勢いで突き出した。

「ぎゃあああ!?」

カインの取り巻きたちが一瞬で捕らえられ、宙吊りにされる。


「貴様……この力、どこで手に入れた! 植物魔法ごときで、私の爆炎を……!」


「兄上、あなたは知らないでしょう。植物は、踏まれれば踏まれるほど、根を深く、強く張るということを」


私は一歩ずつ歩み寄る。

カインは狼狽し、さらに大きな魔法を放とうとしたが、その瞬間、彼の体が硬直した。


「がっ……あ、足が……動かない……!?」


カインの足元。彼の服の繊維に潜り込ませていた「麻痺毒草」の種が、彼の魔力を餌にして一気に発芽していた。


「あの日、神殿で神官は言いましたね。『戦闘には役立ちが薄い』と。父上も、あなたも、それを信じて私を捨てた」


私はカインの胸ぐらを掴み、冷たい声で囁いた。


「今、あなたの魔力はすべて、私の『種』に吸い取られています。明日の朝には、あなたは魔力を一切持たない『無能』として目覚めることになる」


「や、やめろ……! 助けてくれ! 私は侯爵家の跡取りなんだぞ!」


「いいえ。侯爵家には、もっと優れた嫡男が必要でしょう?」


私は彼の胸に手を当て、最後の一撃——**『全核抽出オール・ドレイン』**を発動した。

カインの体内を流れる魔力の奔流が、一粒の、真っ黒な種に凝縮されていく。


カインは白目を剥き、そのまま崩れ落ちた。


新緑の覇者


演習は、一人の「落ちこぼれ」による圧倒的な蹂躙で幕を閉じた。


カインは一命を取り留めたものの、二度と魔法を使えない体となった。エステラード侯爵家は、次期当主の醜態と没落により、社交界での地位を急速に失っていった。

父は血相を変えて私を呼び戻そうとしたが、祖母アメリアが立ち塞がった。


「今さら何を。この子はもう、私の孫であり、次代の『緑の賢者』だ。お前たちのような枯れ木に、瑞々しい若芽を育てる資格はない」


私は学園の最上階のテラスに立ち、眼下に広がる森を見下ろしていた。

私の体の中には、カインから奪った爆炎の力、学園の古木から得た叡智、そして数千種類の植物の特性が渦巻いている。


「レオン様」


後ろから、同じEクラスの生徒たちが私を仰ぎ見る。彼らもまた、私が分けた「種」によって、かつてない力を手にしていた。

私を蔑んでいた貴族たちは、今や私の姿を見るだけで震え上がる。


だが、私の目的は復讐ではない。

この世界には、まだ見ぬ強力な魔法植物が眠っている。聖域に守られた「世界樹」、死の砂漠に咲く「灰の華」。


私は指先に浮かんだ小さな種を、そっと口に含んだ。

もはや、空腹を感じることはない。

だが、知識と力への渇望は、止まることを知らない。


「さて……次は、どの種を喰らおうか」


私は風に乗って運ばれてくる、遠い地の植物の香りに目を細めた。

庭師の息子から始まり、侯爵家の役立たずを経て、私は今、真の王へと至る道を歩み始めた。


緑のざわめきが、祝福のように世界を震わせていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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