1話 種を喰らう者
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
1話 種を喰らう者
侯爵家の次男として生まれたが、私の人生は五歳で変わった。
神殿での才能鑑定。神官が水晶玉に手をかざし、私の潜在能力を測る儀式。父と母は期待に胸を膨らませていた。侯爵家の子息として、高い魔力か、あるいは剣の才を示すだろうと。
しかし水晶はかすかに緑色に光っただけだった。
「植物から…『核』と呼ばれる種を抽出する能力です」神官の声はためらいがちだった。「戦闘や政治には…直接の役立ちは薄いでしょう」
父の表情が凍りついたのを、今でも覚えている。
あの日から、冷遇が始まった。侯爵家にとって役に立たない子息は、存在そのものが恥だった。食事は一日一回、質素なものだけ。居場所は屋敷の最も奥の小部屋。家庭教師もつかず、他の兄弟が剣術や魔法の訓練を受けている間、私は一人本を読んでいた。知識を得て時間を過ごした。
空腹が最も辛かった。
五歳の春、あまりの空腹に耐えかねて、私は庭の薔薇に手を伸ばした。無意識に、指が花弁に触れる。すると、薔薇の中心が微かに光り、米粒ほどの透き通った種が浮かび上がった。本能のように、それを口に運んだ。
ほのかな甘み。そして、体中に微かな温かみが広がる。
翌日、いつもより少しだけ庭の雑草が抜きやすくなっているのに気づいた。体力が、ごくわずかだが増したのだ。
それから五年。
毎日、様々な植物から核の種を抽出し、密かに喰らい続けた。薔薇、ひまわり、樫の木、雑草。植物によって種の味も効果も異なる。薔薇は魔力を、樫は体力を、薄荷は知力の鋭さをほんの少しだけ高めてくれた。
気づけば、私の能力は鑑定時の三十倍以上に成長していた。しかし誰にも悟られないよう、意図的に鈍く振る舞い続けた。侯爵家の役立たず次男。それが私の仮面だった。
転機は、魔法学園への入学をめぐる議論だった。
「あの子を学園になど行かせる必要はない」父の声は冷たい。「侯爵家の顔に泥を塗るだけだ。庭師見習いにでもすればよい」
母は何も言わない。兄は薄ら笑いを浮かべている。
その時、居間の扉が静かに開いた。
「では、私が引き取ろう」
現れたのは、母方の祖母、アメリア・フォン・ヴァイスハイトだった。かつて王国随一の植物魔術師と言われた人物。長年、領地の別邸に隠居していると聞いていた。
「この子の能力は、あなた方には見えていない」祖母の目は、私をまっすぐ見つめた。「学園で正式な教育を受ける権利がある。あなた方が拒むなら、私は養子として迎え入れ、私の財産から学費を支払う」
父は反論しようとしたが、祖母の権威と、彼女がかつて王国に払った功績の前に、声をひっこめた。
こうして私は、侯爵家の次男から、アメリア祖母の養子となった。手続きは驚くほど速やかに進み、学園入学の一週間前、私は祖母の別邸に移った。
別邸は植物に囲まれていた。庭には見たこともない魔法植物が咲き乱れ、室内には乾燥した薬草の香りが漂う。
「よく来たね、レオン」祖母は温かい紅茶を差し出しながら言った。「君が密かに核の種を喰らい続けていること、私は知っているよ」
私は息をのんだ。
「どうして…」
「植物たちが教えてくれたのさ」祖母は窓辺のツタに優しく触れた。「植物は話す。ただ、多くの人間は聞く耳を持たないだけ。君の能力は、単なる種の抽出ではない。植物の精髄を理解し、対価を払わずに受け取る力。これは…失われた古代の術だ」
祖母は書斎から分厚い古書を取り出した。
「この学園で、君は二つの顔を使い分けなければならない。表向きは、平凡な植物魔法を学ぶ学生。内実では、この書に記された『緑の賢者』の道を歩む者。しかし気をつけなさい。この力は、多くの者に狙われる。侯爵家の者たちでさえ、君の真の力を知れば、今度は利用しようと手を伸ばしてくるだろう」
学園入学の前夜、私は庭で月明かりを浴びながら、一輪の夜咲きユリから核の種を抽出した。透き通るような銀色の種は、口の中で冷たい甘みを広げ、視界が研ぎ澄まれるのを感じた。
五年間、冷遇と空腹に耐え、密かに力を蓄えてきた。
学園では、かつて私を見下した貴族の子弟たちもいるだろう。かつての家族も、私をなおも「役立たず」と思っているかもしれない。
しかしもう違う。
私は静かに拳を握りしめた。
この力がどこまで育つのか、自分でもわからない。だが一つだけ確かなことがある。
あの日、神殿で冷笑された少年はもういない。
これからは、種を喰らい、緑と共に歩む者として──自分の道を進んでいく。
庭の植物たちが、微かなざわめきで応える。まるで、長い眠りから覚めた同胞を祝福するように。
月が雲間から顔を出し、銀色の光が別邸を照らした。
明日から始まる学園生活。それは、偽装の日々であると同時に、真の力を育む旅の始まりでもあった。
私は最後の種を口に含み、ゆっくりと噛みしめた。
甘みの後にほのかな苦み。それは、覚悟の味だった。
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