Episode 8: 幕開け
「油断すべきなのは、金星人かもしれない。」
大翔が隣を歩く拓斗に話しかける。
二人は静かに訓練場の戦闘スペースへと向かっていた。
「金星人は精神系の魔法を使うだろ、戦闘を乱してくるかもしれない。」
「……あの女か。ただ、戦闘には向いてなさそうだ。速攻であいつを潰すか。」
拓斗の口ぶりは冷酷だが、戦況を冷静に読む目は確かだった。
そして、間を空けて「……面倒くせぇことに巻き込んで、悪い。」
拓斗は、横を歩く大翔にだけ聞こえるような声で呟いた。
「それは、青木さんと朋佳に言ってやれよ。でも……俺も正直、あの採用には疑問だったよ。」
大翔の言葉には、諦めと理解が混ざっていた。
訓練生時代、二人は東京本部配属を目指して、死に物狂いで訓練を重ねてきた。
拓斗は卒業試験で全体9位の好成績を収めた。それでも、結果は地方配属。
そして、同期の惑星人はヘラヘラした態度でやる気が無い様子。
拓斗のプライドが深く傷ついたのも、無理はなかった。
「おーい、待ってたよー、怒りんぼくーん!」
陽気な声が響いた。
視線を向けると、戦闘スペースにはカイとルシア、そしてロアの姿があった。
「……ちっ」
拓斗が舌打ちをする。カイの軽口が、神経を逆なでしたようだった。
「私が審判を務めます。両者、位置についてください。準備が整ったらお知らせを。」
ロアが淡々と指示を出す。
両陣営は静かに準備を整え、それぞれのエリアへと散っていく。
すると、カイは足で地面を擦り、即席で線を引き始めた。
「ルシアは危ないから、この線の外には出ないでね~。」
「うん。」
ルシアはゆっくりと線の後ろに下がり、体育座りをして静かに構えた。
(……まさか、一人で戦うつもりか!?)
大翔は眉をひそめた。
「慌てんな、はったりだ。油断させて精神魔法で来る気かもしれねぇ。」
拓斗が冷静に大翔へ耳打ちする。
ロアが再び声を上げた。
「これより模擬戦を開始します。勝敗の判断は私が行います。
両チームとも、次の条件で敗北となります:
・2名とも戦闘不能と判断された場合
・ギアまたは魔法制御リングが致命傷と判定する攻撃が体にあたった場合」
ふと目を凝らすと、カイとルシアの腕には魔法制御用のリング型デバイスが装着されていた。
両チームが手を挙げ、準備完了を伝える。
「それでは――戦闘、開始!」
ロアの宣言が場に響いた。
次の瞬間、地面を蹴る音とともに、両チームが接触した。