因縁の対決
「【氷剣】!」
審判の掛け声とともに走り出すテイバンは氷の粒子を右手に集め、冷気を纏った透明な剣を生成する。
『両腕の甲冑を持ってこなかったベレス選手ですが、テイバン選手も昨日の試合で使っていた剣は持って来ていないようですね』
(ベレスが相手では全てがヤツの武器に成り得る。それなら魔力の消耗は大きくとも武器になる可能性は排除する!)
テイバンは体表と刀身を魔力で覆い、右斜め上から鋭く振り下ろす。
「【引手】」
ベレスは姿勢を低くして頭上の剣を避けると空間を消しながら拳を顎に目掛けて下から突き上げる。
「ッ……!」
反射的な重心移動で上体を横に流し、灰色の髪先が拳に掠った。
「相変わらず動きは速ェけど、去年より遅ェな」
「病み上がり相手にイキんなよ。負けた後で恥かくことになるぞ」
(力はいつもの五割も入らん、手中抹消の引き寄せでギリ及第点か……)
勝機を見出す彼に対しベレスの頬に一滴の汗が伝う。
「おいっ、ベレスの状態はどうなっている?」
テイバンを相手に早々に勝負を着けられないと疑問に思ったバリウスは尋ねた。
「はい! 失血した血液は昨夜の内に補充が完了できましたが、順応に時間が掛かるようでして身体能力の低下はあるようです。また本人の意向を汲み取って右脚の貫通穴と内臓を優先的に治療させましたが、腹部二箇所の傷口は塞ぎ包帯で補強したとの事です」
「私が聞きたいのはヤツの状態、つまり本調子で戦えるのかという事だ!」
「も、申し訳ありません! 医師からの判断としては絶対安静とのことです」
「じゃあとても戦える状態ではないじゃないか……! だというのに何故あの男は白鬼の前腕を着けんのだァ⁉」
バリウスは怒りに顔を歪めた。
「【万凍の冷気】」「【手中抹消】」
テイバンは後退しながら肌を刺すような冷気を放出し、ベレスは距離を詰めながら突き出した右手に一点収束させる。
『中距離から攻撃を仕掛けるテイバン選手に対応する動きを見せています! これまでとは違った戦い方をしているベレス選手についてどう見ますか?』
『自ら攻撃を仕掛けることは大きなリスクを伴います。第三試合のダメージが回復していない今の状態では適切に反撃に対処する確信が持てないのでしょう』
サイベルの問いをエリアが答え、ベレスがかつてない程の劣勢に立たされている事を説明する。
「このまま攻め続ければ……!」「長い因縁に決着を着けろォ!」
四年間の屈辱を晴らせるのかとエンドリアス学園の生徒たちは期待に胸を膨らませた。
「ああっ! ここで終わらせてやる!」
氷塊で牽制しながらテイバンは腕を突き上げる。
「【千花氷結】!」
彼は三メートルを超える花の氷造形を顕現させると旋回させながら千を越える花びらを散らした。
『出たああアアアっ‼ 昨年の試合で見せたテイバン選手の広範囲魔法、ここで勝負を決めに来るのかァ!』
「遂に来たか……」
「貴様の氷像を飾ってやるっ!」
正面、そして左右の三方向に分散させベレスを迎え撃つ。
「複数方向からの攻撃、アルムの戦術をパクったな……」
今度は対照的に距離を詰めていた彼は後退しながら攻略の糸口を模索する。
(新たに追尾性能を組み込まれた魔法特性に加え、魔法力も昨年に比べて大きく向上している)
「舐めてると命取りになるな」
ベレスは国宝を持ってこなかったことを僅かに悔いる。
(空間に干渉し軌道を逸らす不可視の歪みは追尾、そして空間を消滅させる手中抹消は広く散らさせることで収束しきれず確実に肉体に凍傷を負わせられる……!)
「唯一の懸念点は炎魔法のみ、絶対に油断するんじゃねェぞ!」
テイバンは目の前の敵を打倒するためあらゆる手段で完封を志した。
「何だか押され気味じゃね?」
「あの甲冑さえ持って来ればこんな苦戦しなかったのによぉ」
「これで負けたらどうなのさぁ?」
ベレスを応援するはずのベルモンド学園の生徒たちは苦戦を強いられる彼に陰口を叩く。
そして日頃の問題行動には全員が迷惑をしており、誰も止めようとはしなかった。
「いい気味ですよね、エルヴィスさん」
「……ああ、そうだな」
魔撃墜で散々な扱いを受けたエルヴィスも苦笑し、彼らは一時の優越に浸る。
(可哀想、とは思わねェぞ。全部お前の自業自得だ、でも敗者の態度は気に入らねェ……)
「さっさと勝て、強さ以外に取り得なんて無いんだからよ」
嘲笑の中に呟き、静かに消える侮辱交じりの応援。
隣人の耳にすら届かない声援、しかしベレスはにやりと口角を上げる。
「新たに会得した新戦術、いっちょ試してみるかァ!」
決断した彼は後退する足を止め、テイバンに刺すような視線を向けた。




