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死神だった俺、暗黒魔法の転生者として平和な時代で再び戦いに巻き込まれる  作者: バッチョ
魔導大会四日目

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戦いに向けて

「……うん……?」


 頬に正体不明の液体が(したた)り落ちてゆっくりと目を覚ます。

 目の前には口元からよだれを垂らし、今にも意識が飛びそうになりながら姿勢を正すラビスがいた。


「そう言えば俺の部屋に来たんだったな……」


 未だに眠気が取れない俺は瞼を閉じながら寝る前の出来事を思い返す。


 ラビスと話して、告白されて、そのまま眠って……。


 俺は壁の時計に視線を向ける。

 俺の第二試合が始まる時間が大体11時くらいで、現在の時刻は13時過ぎか……。


「嘘だろおいっ⁉」

「ふぇ……⁉」


 俺は驚愕のあまり飛び上がり、再び時刻を確認する。


「……ホントだ、本当に二時間以上も寝過ごしちまった……!」


 すっかり眠気は覚めたが毛布に(くる)まって現実から目を背けたい、そんな衝動に駆られてしまう。


「おはようアルム、少しは元気になったみたいだね」


「そんな暢気(のんき)な事を言っている場合じゃ、ないぞ……」


 彼女は眠たそうな目を擦り、俺はショックのあまり床に座り込んだ。


 数分程度だったら試合配置を変えて対応も出来るだろうが、第二試合は12時前には終わる予定で組まれているため、俺は棄権扱いで不戦敗なのは確実。


「魔導大会に特別な思い入れはないけど、この終わり方はあんまりだ……」


「大丈夫? 悪い夢でも見た?」


「ああ、そうだな。現在進行形で悪い夢を見てるんだ」


 もう何も考えたくない、ラビスの膝枕で全てを忘れよう……。


「あっ! そう言えばアルムが寝てたとき……11時より少し前くらいかな。理事長先生が部屋に来たんだよ」


「うん……」


 放心状態の俺は話半分で彼女の話に耳を傾ける。


「アルムの第二試合の相手が棄権したからゆっくり休んでていい、って伝えに来てくれたんだ」


「うん……相手が棄権⁉ それホントかっ!」


「直接見た訳じゃないけど、理事長先生が言うんだから本当だと思うよ」


 偽の情報を彼女に聞かせる利点はない、間違いなく俺の不戦勝だろう。


「ぐっすり寝てたアルムを起こすのは気が引けたから、理事長先生には助けられたよ」


「起こすって言っておきながらラビスもよだれ垂らして寝てたじゃん」


「ッ……⁉ そういうアルムも付いてるよ!」


 今更ながら気付いた彼女は慌てた様子で口元を拭う。


「いや俺は寝てたから別に問題ないだろ、それにこのよだれはお前のが垂れて来たんだぞ」


「なぁ……⁉ なんで付けっ放しなの! さっさと拭いてよぉ!」


「色々あってそれどころじゃなかったんだ――――」

「アルムの袖で拭かないでェ! 私ので拭くから!」


 彼女と同様に自分の袖で拭こうとしたが右腕をがっちりと掴まれ、先ほど拭いた袖とは反対の袖でゴシゴシと拭き始める。


「もうっ! ホント恥ずかしい……」


「……ラビス、まずはお前のお陰で眠れることが出来た。本当にありがとう!」


「どうしたの急に? でもまあ、アルムが元気になってくれたなら来た甲斐があったよ」   


 畏まった様子に困惑しながらも彼女は素直に受け取り、少しだけ拭く力が弱まった。


 ふたりきりで話すタイミングなんてそう多くは訪れない、話すなら今しかない!


「……あとはもうひとつ、告白の事だ」


 そう切り出すと手が止まり、深緑色の瞳を大きく見開かせる。


「あれがどういう意味なのか? そんな野暮な質問はしない」


 言われた当初は混乱していたが気持ちの整理がついた今ならあの言葉が何を指すのか、女性経験が少ない俺でも察することはできる。


 遅くなったが、その行為に対して俺も覚悟を決めた!


「俺もお前のことが――――」

「こ、答えなくていいからああああアアアァァ――――‼」


 答えを知る事に耐えられなかった彼女は顔を赤面させ、部屋から飛び出す。


「ええェ……」


 逃げられると思ってなかった俺は呆気にとられ、強めに擦られた頬が赤くなっていた。


 ***


 一方その頃、魔導大会の会場となっている円形闘技場の一室では14時から再開する一対一(ワオン・デュエル)の準備に取り掛かっていた。


「俺たち事務職員は今日も昼休憩はなしかよ」


「腹減ったなぁ……」


「現場の監督者は羨ましいぜ」


「仕方ないだろ、向こうはフィールドの補修だけで選手たちと同じタイミングで休めるんだから」


「だからって俺たち一般職の扱い雑過ぎだろ……」


「はぁ……大会職員って夢のない職業だな」


「そりゃあ主役は学園の選手だしっ」 


「喋っている暇があるなら手を動かせっ! 明日の表彰式の準備もあるんだからな!」


「「「す、すみませんッ!」」」


 大会連盟の職員たちは不満を漏らすと女上司の怒鳴り声が事務室に響き渡った。


「うげぇ、何であんな怒ってるわけ? いつもはもう少し穏やかだったじゃん」


「まあそう言うな。実は今日の一対一(ワオン・デュエル)で息子さんが出たけど、酷い火傷を負わされたらしくてさ……」


「あぁ! 自慢の息子だって言ってたな、確かガンド君だっけ。相手はだれよ?」


「エンドリアス学園のアルム=ライタードだよ。故意で配置したわけじゃないけどそのせいで自分の子供が初戦敗退、しかも優勝候補とマッチアップとか流石に辛いわ……」


「上が配置に口出ししてこなければ、違う結果になっていたかもしれないしな」


 今日の早朝、各校の出場選手が確定しランダムに配置をしようとしたのだが、大会連盟の会長がアルムの配置を変えるよう指示したのだった。


 誰がそのように会長に命令を下したのか、その真相はただの事務員に知る術はない。


「武器の使用申請をさせてくれないか?」


 受付カウンターから青年の声が聞こえた。


「第三試合から申請なんて珍しいな」


「俺が行って来るよ」


 手に持っていた書類を机に置いて受付まで急ぎ足で向かう。


「お待たせしました。申請届は私が記入するので在籍する学園とお名前を教えて下さい」


「ベルモンド学園所属、ベレス=ダーヴィネータだ」


「はい。ベルモンド学園所属、ベレス=ダーヴィネェ……え?」


「……なんだ? 早く書けよ」


 すらすらと綴っていた筆が止まり、職員の彼は目の前の学生を見上げた。

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