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死神だった俺、暗黒魔法の転生者として平和な時代で再び戦いに巻き込まれる  作者: バッチョ
魔導大会四日目

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押された背中

 その後、逃げ出した彼女を追いかける形で会場へ向かった。

 到着した頃にはライオスたちの第三試合が始まっており、俺は軽食を食べながらライザやテイバンの戦いを見届けた。


「第三回戦の試合はテイバン選手の勝利です!」


『相手の意識を逸らしてからの氷柱(アイスピュラー)で準決勝まで駒を進めるテイバン選手!』


『ライオス選手、ライザ選手、テイバン選手と優勝候補が続々と準決勝の舞台まで勝ち上がっていますね』


「いよいよ試合だな」

「無理はしないでね……」

「行ってらっしゃい、お兄ちゃんっ!」


「ああ、行って来るよ」


 フィールドの改修が始まると俺はゆっくりと席を立つ。


「頑張れよアルム、お前なら絶対勝てるっ!」

「ベレスの野郎なんかぶっ飛ばせェ!」

「俺はお前が凄い奴だって信じてたぞ!」


 エンドリアス学園の生徒だけでなく、会場のあちこちから声援が聞こえた。


「勝てよアルム」

「頑張ってねアルム君」

「アルム君なら絶対勝てます!」


 ライザが、スベンが、マリアが手を前に出してハイタッチを求める。

 俺は階段を上りながら彼らの手の平と重ねた。


「普段通りに戦えば貴方が負けることはありません」

「アルム君、ご武運を」


 タリオナとカルティアは落ち着いた様子で俺を見送る。


「アルム、今日までの成績はお前らしくない半端な順位ばかりだ」


「誰のせいだと思ってんのさ」


「最後の競技くらいは一位を獲ってみせろよ」


 目の前に立つセロブロは拳を突き出す。


「……当たり前だ」


 突き出された拳を合わせると彼は道を明け渡し、俺はフィールド入口に向かった。


 喧騒と熱狂が入り混じる観客席と違い、会場の廊下は驚くほど静かで戦いの場に向かう選手たちを勇める時間を与えようとしている気がした。


 しかし廊下の奥から淡々とした足取りで歩く靴音が響いてくる。


「テイバン先輩、準決勝進出おめでとうございます」


「……後輩に励ましの言葉でも考えていたがその必要は無さそうだな」


 灰色の瞳で見つめるテイバンは遠回しに気負っていない事を伝える。


「そうですね。何かが違えばその言葉を欲していたかもしれませんが今は必要ありません」


 気分は晴れやか、そして静かな闘志、こんな状態で戦いに臨めるなんて第一試合を終えた時の俺には想像も出来なかった。


「これからの試合はテイバン先輩にとってとても大事ですから目を離さないで下さいね」


「勿論そのつもりだが?」


「その様子だと分かっていませんね。今日の試合で俺は出し惜しみなく隠し玉を使うと思います。だから明日の『俺との戦い』のため、そして勝った俺を参考に来年のベレスとの戦いのために、という意味です」


「……ふっ、なるほどな! 分かった、お前たちの戦いはじっくり見させて貰おう! 明日の、そして来年のためになっ!」


 テイバンは握手を求め、俺たちは強く握手を交わした。


「俺との話に花を咲かせるよりも早く入り口に行ってやれ。お前の《《婚約者》》が待っていたぞ」


「……! ありがとうございます!」


 俺は特に否定せずにその場から駆け出す。


 会場に着いた後もラビスの姿を発見できず、避けられているだけと思いつつも心配ではあった。


「ラビスっ!」


「アルム……」


 入り口付近の石柱に寄り掛かる彼女と二時間ぶりに再会を果たす。


「ごめん、逃げ出したのにどんな顔で会えばいいか分からなくて……」


「まあ俺も分からなかったからお互い様だ。でもこうして会いに来てくれたんだから謝る事はねェよ」


 正直、告白に対する返事を聞いて欲しいけど今は彼女に戦いを見送って貰えるだけで十分だ。


「…………」


「……なんか応援とか励ましの言葉は無いのか?」


 そんな大層な文言は期待しないが、何かしら彼女の口から聞かせてもらいたい。


「うーん。頑張れとか絶対勝てるとか考えてたんだけど、学園のみんなから言われてると思うと個性(オリジナリティ)が無いなと思って……」


「妙なところに気を遣うな、お前の口から言って貰えたらなんでも良いよ」


「……分かった! じゃあ言います」


「はい」


 敬語を使い出す彼女に合わせて俺は姿勢を正す。


「楽しんできてね、アルム!」


「……楽しむ?」


 穏やかな彼女から意外な言葉に思わず聞き返した。


「うん、ベレスさんみたいに凄く強い人と戦う機会なんて多くないと思う。だから昨日の件とか抱え込んでいる悩みとか一旦忘れて悔いのないように戦って欲しい、的な意味を込めたんだ」 


『――――楽しい思い出になってほしい』


 彼女の言葉が脳裏に過ぎる。


 自分を苦しめた相手を恨むわけでも敗北を知らしめてほしいわけでも無い。


 彼女にとってこの試合は俺だけを想っていたんだ……。


「アルム選手、フィールドの補修が終わりましたので入場を願いします」


「私もマインちゃんたち一緒に応援してるから――――」


 俺は監督者の呼びかけを無視して彼女を、想い人の両肩を掴み自身に抱き寄せる。


「ありがとうラビス! 俺はきみが大好きだァ!」


「……はっ⁉ あ、アルム……!」


 身体の前側が密着し、遅れ気味に反応する彼女は小刻みに震わせる。

 徐々に体温が上がっているのか彼女の熱がじんわりと感じられた。


「あ、アルム選手! 失礼ですが入場を……」


「すぐ行きます! じゃラビス、行ってきます!」


 気まずそうに監督者から呼び掛けられ、俺は入口へ走って行く。


「行ってらっしゃい……」


 彼女はおぼつかない足取りで観客席へ通じる道へ進んで歩き始めた。


 感極まって思わず言ってしまったがあれは告白の返事じゃない。

 独り言をたまたま聞かれただけ、言わば心の内を明かした独白。


「本当の返事は、この戦いが終わったあとだ!」


 俺は更地に(なら)されたフィールドに足を踏み入れた。

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