第57話 チームワーク?
お待たせしました!
(――そんな莫迦な……)
私は膝をつき、敗者と成っていた。
日本で勉学を学んだ私なら、この文明レベルの問題など容易だと、そう思っていた。
いや、ある意味でそれは正しかったと思う。数学に関しては、小・中学生レベルの知識とその応用で対応できたし。
しかし、そこには伏兵が存在していた。
“問1.ドラグ鉱石の粉末の性質を答えよ”
(……ドラグ鉱石って何ッ?! モ○ハン?!)
盲点だった。
理学。日本でいうところの理科や化学の分野。
私や人間がこうして生活している以上、この世界を構成する元素やその他の物質は日本と同じか、限りなく近いものだと思っていた。それに起因する問題ならば、答えらえないことは無いだろうと。
おそらく、それは正しいのだろう。けれどこの世界では、知識として、文明として、元素とか分子とか、その域にまで達してはいないようだ。
つまりこの世界の人々にとって、水はH2Oでは無くただの“水”であるし、ドラグ鉱石とやらも炭素やケイ素、その他の集合体ではなく、“ドラグ鉱石”という物質でしかないのだ。
まぁ要は、この世界の物質に対しての知識がないとお話にならない、ということ。
流石に、これは手詰まりだ。
「……ねぇ、イロハお姉ちゃん、大丈夫?」
崩れ落ちた私に声を掛けてくれたのはニーナちゃん。件の学園に入学しようとしている娘、つまりは私が勉強を教えている相手だ。
まだ幼く、日本で言うと小学校高学年くらいだろうか。こんなに小っちゃくて可愛くても、超有名学園に入学しようとしているれっきとした貴族令嬢である。
最初は私達に疑問の目を向けていたニーナちゃんとその親御さん。まぁ私は中身はともかく、見た目はニーナちゃんとほぼ変わらないくらいだし。私が勉強を教えると言われて訝しがるのも当然。
でも、数学の分野で深い知識|(日本では高校レベルの知識だけど)を披露したからか、今は信用してくれていた。その信用を裏切りたくはない……のだけれど……。
「う、うん。大丈夫だよ……」
「そう? じゃあ続きお願いね?」
ハイすいません、無理です解かりません。
…………などと言えるはずも無く、虚勢を張りつつ頭を抱える。
(落ち着け……私なら出来る。日本の教育レベルの高さの見せ所だ……!)
目を瞑って頭をフル回転させる。そう、きっと答えを見つけることは不可能ではないはず。
まずはドラグ鉱石とやらがなんなのかを知らないといけない。きっとヒントはすぐ傍に………………ある訳がなかった。
(――うん、無理)
頭をフル回転させた結果、導き出された答えは不可能だった。うん、まあ……知ってた。
諦めて頭を切り替える。これ以上考えても何にもならない。
(……仕方ないか。ニーナちゃんには申し訳ないけど、これ以上時間を無駄にして迷惑を掛けるのはもっとよくないし)
自信満々にこの依頼に挑んだ数時間前の自分を殴りつけてやりたい衝動に駆られつつ、ニーナちゃんに向き直る。
「あの、ごめんねニーナちゃん。実は――」
「……発火」
私が諦めの言葉を口にしようとすると、いつの間にか後ろにいたセリナが割って入る。さっきまでアリアと一緒に居間で親御さんの話し相手になってたはずだけど……。
いや、それより今、なんと言ったのか。
「……ドラグ鉱石の粉末は発火の性質がある。魔法薬の原料に使われる。一般的にもよく使われるから、覚えておくといい」
「へぇー。ママが料理の時に火を起こすのに使ってるのってそれかな?」
「……多分そう。でも使い方を間違えるとすごく危険だから、勝手に触らないように」
「はーい!」
ニーナちゃんは元気の良い返事を返し、目の前の問題集にささっと書き込んでいく。
私はといえば、安堵と驚きでポカンとしていた。
「……詳しいんだね、セリナ」
「……師匠から魔法に関することはだいたい教えられたから。魔法薬もその範疇」
なるほど。こと魔法に関して、セリナは正真正銘のスペシャリストらしい。頼もしいね、色んな意味で。
「ところで、どうして勉強部屋に?」
「……そろそろイロハがドジる頃合いかと思って」
「酷いっ!」
けど言い訳できない! そしてありがとう!
なんか釈然とはしないけど、これはチャンスかもしれない。
「ねぇ、セリナ……?」
「……別にかまわない」
「まだ何も言ってないけど……」
セリナに応援を頼もうとするが、頼む前に了承されてしまった。
「……魔法薬の配合や性質を理解するために、理学は大体修めた。この程度なら問題ない」
おおう。セリナがかつてないくらい頼りになる。見た目幼いくせに。
これは、手伝ってくれるってことでいいんだよね?
「……イロハは詰めが甘いのも知ってるし、これくらいは予想の範囲内」
「くそぅ。言い返せないのが悔しい」
「……ちなみに歴史の科目は?」
「…………」
セリナからの視線が痛い。
いやこの世界の歴史なんて知ってる訳ないじゃないですか。最初の自信は何だったのかって? ……正直すまんかった。
「……まあそうだろうと思って助っ人呼んどいた」
「助っ人?」
「わたくしの助けが必要なようですわね!」
思い切り扉を開け、バァーンと効果音が後ろに見えそうなくらい派手な登場の仕方をするプリンセス。いったい何年前のマンガだろうか。
「「…………」」
「無反応はやめてくださいましッ!」
ああうん、助っ人ね。大丈夫、決してバカっぽいとか、本当に役に立つのか、とか思ってないよ。
アリアに話を聞くと、どうやら歴史には詳しいらしい。王女として外交に必要になるからと、およそ大国と呼べる国の歴史は大体網羅させられたそうだ。
とりあえず今はガルシャークの教育方針に感謝である。
それからしばらく勉強タイムは続く。
「――そしてアルフィスタは国家としての体裁を整え、世界6大国に数えられるまでになったのですわ」
セリナのサポートでニーナちゃんが理学の問題集を片付けた後、今度はアリアが歴史を教えていた。
ニーナちゃんはアリアの説明を聞きながらせっせとメモに書き込んでいく。
そんな2人を眺めながら、隣のセリナに小声で問いかける。
「ねぇ、“アルフィスタ”って?」
「……この国の名前。すごく、今更」
セリナから呆れの言葉を頂いたけどそれは置いておいて……。
(そっか、この国“アルフィスタ”って言うんだ。……この国に来て1ヶ月以上経ってるのに、ほんと今更だなぁ)
「……ちなみに、この王都の名前は“クアラム”」
「はい、覚えておきます……」
ここは素直に頷いておく。私もニーナちゃんに混ざって歴史教えて貰おうかな……。
「数学は私が教えて、セリナが理学、アリアが歴史か……。結果的にはチームワークでクエスト完遂かな」
「……良いこと言ったような空気を出して誤魔化す作戦?」
「調子に乗ってすいませんでしたぁッ!」
……まぁ問題は多々あったけど、数日掛けて家庭教師クエストは完了。ニーナちゃんと親御さんに感謝され、当面の金銭を獲得したのでした。
そして、明日からはいよいよ闘技大会だよ!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
さて、まずは更新が遅れたことへの謝罪を。申し訳ありませんでしたm(__)m
未だ筆者はタイに囚われておりますが、ようやく自分の時間をある程度は取れるようになりました。
これで少しは更新頻度も戻せると思います。毎日はまだ厳しいですが。
1,2週間で帰国もできると思いますので、それまではちまちま更新してきます。




