第54話 手合せ
「よし、それじゃあ始めよっか!」
「……本当にいいんですの?」
ここはギルドで一般解放されている訓練所。と言っても、ほとんどただの広場だけど。
ただ、自由に剣を振り回せる、王都内で数少ない場所である。
周囲では似たような考えの冒険者達が訓練に励んでいた。
「遠慮なんていらないよ」
にやにやと笑みを浮かべながら剣を腰に差したまま、言って見せる。
相対するアリアは舐められているとでも思ったのか、少しばかり眼を細くする。
「……わかりましたわ。怪我しても知らないですわよ」
訓練所の隅っこで、私とアリアが相対し、そのすぐ近くで見守るようにミシェルとセリナが観戦している。
これは試験……なんて大仰なものでは無いが、アリアの実力を見る為の手合せである。
昨日、アリアは冒険者になりたいと言った。
一晩寝れば落ち着くかと思い、昨日はあのまま宿で休ませたが、一晩開けてもアリアの意志が揺らぐことは無かった。
いくら止めても冒険者になると言って憚らなかったため、致し方なく、こうしてそれだけの力があるのか見ることにしたのだ。
正面でアリアが剣を構える。
何の変哲もない正眼の構えだが、隙がない。なかなかどうして、ただの王女様ではないようだ。
「――おいで?」
素手のまま構えを取り、アリアを促す。私が素手なのには理由がある。これは、私の訓練でもあるのだ。
私がこっちの世界に来てからというもの、合気道の稽古は全くできていない。いやまぁ当然だけど。
魔物相手に戦ってる時は攻撃をいなしたり、相手の動きを読んだりと、合気道で得た技術を使ってはいるけどね。その技術や勘を忘れない為には、たまには人を相手にしないとね。
「行きますわっ!」
言いながら、アリアは距離を詰めてくる。そしてそのまま袈裟掛けに斬りかかった。
気合も勢いも乗っていないそれを、私はあっさりと避ける。まぁ、素手の相手にそう本気では斬りかかれないか。
「アリア、もっと本気でいいんだよ? 私はいざとなったら魔法で防げるし、回復魔法もあるから気にしないで」
「――っ! ……後悔なさらないでくださいね」
アリアから発せられる気勢がほんの少し増す。
まだまだ本気という感じはしないけど、まぁ14年ぶりの稽古にはちょうどいいかもしれない。
アリアは振り下ろした剣をそのまま切り上げる。次は右薙ぎ、さらにその次は逆袈裟に切り込んだりと、怒涛の連続攻撃を見せる。
対する私はその軌道を読み、時にアリアの持ち手に手を添えて軌道を変え、全てを避けていく。
本来はそこでアリアの力を利用して投げ技に持っていったり、関節をとったりするんだけどね。そこまでやると、本来の目的を果たせないから自重中。
こうしてみて解かる。私の勘はそう鈍ってはいない。今は古龍としての身体能力も背を押している。これだけの連続攻撃を受けてもまだ余裕があるほどだ。
「ふぅん? 剣術を習って6年ぐらいだったっけ?」
剣戟を避けながらアリアに問いかける。多分、アリアもまだそれに返すくらいの余裕はあるだろうから。
「ええ。お兄様に憧れて、宮廷の騎士訓練に混ぜて貰っていましたわ。……今思えば、最初の数年は騎士達の邪魔しかしていなかったですけど……それでも、ここ数年は騎士隊長達とも渡りあえるようになったという自負もありますのよ」
今は16歳らしいから、10歳のころから騎士の訓練に混ざっていたということになる。
……それは当時の騎士さん達、困惑しただろうなぁ。それでも追い出されなかったのはアリアが王女様だからか、アリアに才能でも見出したのか。まぁ考えても知る由はない。
ただ、これだけ動いてもアリアは息一つ乱れていない。少なくとも、アリアに高い才能があるのは確かなようだ。この年齢で騎士隊長クラスと渡り合えるのも、その証明となるだろう。
「意外とアグレッシブだね。人見知りって設定はどこいったのさ?」
「設定って言わないでくださいましッ! あの頃は…………お兄様の後を追いかけるのに、無我夢中でしたから……」
アリアの剣戟が止まる。おそらく兄のことを思い出したのだろう。
信じていた兄が父親を殺した。そしてその現場を目撃したこの娘の心境は、私には推し量れない。けど、どうすべきは解かる。
「――本人に直接聞きなよ」
「……え?」
私の言葉に、アリアは私の眼を見る。答えを求めるように。
「ずっと信じてたお兄さんなんでしょ? なら、何があったのか直接聞こう。いつか、自分の力で、お兄さんのところに行けるようになって……ね」
今すぐに国に戻れ、とは言わない。私達が連れて行く、とも言わない。
アリアが兄のことをどう思ってるにせよ、事実として国王を殺害したのだ。どういう経緯であれ、そこに何らかの陰謀や思惑が巡っているのは間違いない。
信じていた家族に裏切られる。友達をそんな目に遭わせたくない。だから、やっぱり状況を把握する時間と……覚悟する時間は必要だと私は思う。
「――そう、ですわね……」
私の言葉を受け取ったアリアがそう呟く。その口元には僅かに笑みが浮かんでいた。
そして、それを実現させる為に、実現出来るだけの力を示す為に、アリアは再び剣を構える。
それに対して私も再び構えを取りながら、ふと疑問に思ったことを口にした。
「ところでさ。それだけの実力があって、どうしてあの時、されるがままだったの?」
「あの時って……ああ、悪漢に襲われた時ですの? 剣術の師匠から、訓練以外で無暗に人に剣を向けてはならないと言われていましたので……」
……この娘、ほんとにあのキレッキレな軍事国家の王女様なのだろうか。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
諸事情で病院に行ってたから、待ち時間で執筆時間が取れました。
とはいえ絶対的に時間は足りていない…




