第52話 呪装具……?
「へぇ……意外とおいしい……」
「だろぉ? ほら、そこのちんまいのも1本どうだ?」
「……もらう。でも、次ちんまいって言ったら燃やす」
横でちんまいのが不穏なことを言っているのは置いておいて。
私達は今、自由市で適当に食べ歩いているところ。そして今、手に取っているのはオーク肉の腸詰め。要はフランクフルトのオークVer。
魔物の肉なんて! と、最初は懐疑的だった私だけど、ミシェルから、今までのアリアスさんのご飯でも魔物の肉は使ってたという衝撃の事実を打ち明けられた。
その事実に私は半ば茫然としつつ、ならば確かめてやろうと目の前にあった見た目はフランクでフルトなそれに手を伸ばし、今に至る。
「おのれオークめ……生意気な」
罪なきオークに毒を吐きつつ、それをじっくりと味わう。と言っても、味や触感、風味の全てが日本のフルトでフランクなそれであった。
「いや嬢ちゃん……今時、魔物肉も食べたこと無いとかどんな秘境で暮らしてたんだよ……」
屋台のおじさんがそう呆れたように突っ込む。
仕方ないじゃん。こちとら14年間洞窟暮らしだったんだから。そもそも食事すらしてないし。まぁそれはさておき……
「ほら、アリアも食べなよ」
後ろで涎を垂らしてるプリンセスに向けてフルトを差し出す。それを見てアリアは申し訳なさそうに手で制した。
「い、いえ、わたくしは今持ち合わせが……」
「いや知ってるけど?」
そりゃ身一つで飛び出して来たのは知ってるし。
アリアは何気なく告げた私の言葉を測りかねるように首を傾げる。
もしかして、奢るとか奢られるとかの発想がないのだろうか。まぁ、今までお城に引き籠ってたって話だし、金銭的なやり取りすらなかったのかもしれない。
それならそれで、お金を払わずに食べ荒らしてひと騒動、みたいなテンプレをかましそうなものだけど。
アリアの場合は逆に、真面目な性格からか、お城以外ではお金を払わないと何も貰えないと思い込んでるような感じがする。
「あー……お金は私が払うよ。気にしないで」
「ですが……それではあなたに対しての対価が……」
ふむ、これは重症だ。ていうかめんどくさい。
「ああもう! いいから! この世には無償の施しってのがあるの! どうしても納得できないなら自分で稼げるようになってから返して」
そう言って、もう一度フランクフルトもどきをアリアに突きだす。次はないぞと言う様に力強く。
「う……はい。ありがとうございます、イロハさん。このご恩、お城に帰りましたら必ずお返しいたしますわ」
「重いわ!」
もっと軽く受け取ってくれるといいのだけれど。まぁそこらへんの価値観はおいおい教えて差し上げましょうか、この世間知らずの王女様に。
「……どうでもいいけどよぉ、うちの前で騒ぐのやめてくれんかねぇ?」
「「「「すいませんでした(わ)っ!」」」」
ささっとお金を払って私達は急いでその場を後にした。しれっとアリアが“お城に帰ったら”とか言ってたし、怪しまれる前に退散しよう。
そんなこんなでお腹を満たした私達は、アリアの気晴らしも兼ねて適当に自由市を見て回る。
「これとかセリナに似合うんじゃない?」
言って私は屋台に並ぶ髪飾りの一つを指差す。
そこにはデフォルメされた熊の絵が描かれていた。やる気なさげにだらっとへたれたそれは、まさにリラッ○マ。隙あらばダレているセリナにはぴったりだと思うのだけど。
ミシェルもそれに同意したようで笑いを堪えながらセリナに提案する。
「ぷふっ……いいじゃない。セリナ、買ってあげましょうか?」
「……趣味が悪い。そんなのより、こっちのがかっこいい」
リラ○クマを一刀両断して代わりにセリナが指差した先には……
「ド、ドクロ……?」
そう、それは大航海時代を生きる人達が掲げるような、人間の頭蓋骨の後ろで骨が交差したあのマークが描かれた髪飾りだ。
どう考えても女子が選ぶ物ではない。あれは厨学2年生ぐらいの男子が好むものだ。
しかも妙にリアルな絵で描かれており、心なしか黒いオーラを発しているように見える。……ていうか呪装具じゃないのかコレ。
「……あの精巧で緻密な絵に、人間の骨を題材にしたセンス。後ろの骨も良いアクセントになってる。きっとあれを造った人は最高レベルの技師」
えええええ……マジかよこの娘……。
私とミシェルとアリア、そして屋台のおじさんが信じられないものを視る様な眼でセリナを見る。……いやなんで売ってる側のおじさんまでそんな反応なの。
「……決めた。あれを買う」
「ま、まぁいいのではないですか? 個人の趣味ですから他人が口を出すことでは……」
「いやダメ! 何がダメかは解かんないけどとにかくダメな気がする!」
セリナとアリアの言葉を全力で否定する。隣のミシェルもこくこくと頷いていた。
いや個人の趣味云々に関しては同意見だけど、あれは違う。なんか違う。正直、呪いに魅せられてるようにしか見えない。
「む。そんなこと無い。あれは間違いなく至高の一品。持ってれば持ち主は永遠の富と名声を得られ――」
「ほら明らかに正気じゃないもの! ミシェル! そっち持って!」
「え、ええ!」
なんか虚空を見つめて呟いてるセリナの右腕を引っ掴み、ミシェルに指示する。それで察してくれたミシェルが反対側の腕を引っ掴み、セリナが無理やり厨二……宙に浮かされた。
「アリアも行くよ! それとおじさん、それ捨てといた方がいいよ!」
屋台のおじさんに一応そう言い残し、私達はセリナを無理やり屋台から離れさせ、そのまま広場の休憩スペースへと移動させた。
それで何とかセリナは正気を取り戻したけど、リ○ックマのくだり以降の記憶が無かった。……まぁそれは幸いだったかもしれない。
後から聞いた話だが、後日、あの屋台は原因不明の出火で燃え尽きたらしい。店主のおじさんは無事だったけど、屋台の商品は燃え尽き、唯一残っていたのがあのドクロだとか……。
おじさんが私の忠告を聞かなかったのか、或いは聞いた結果なのか。
そこで私は考えることをやめた。触らぬ髪飾りに祟りなし。……全然うまくないね。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
なんか最近迷走してる感。……今更か。




