第45話 対談
「なんと……! 統率された魔物に、得体のしれぬ使役者じゃと……?」
「それが事実なら、確かに脅威だね。なにせ、戦力の底が見えない」
ギルドのサブマスター、ナルディさんとギルドマスターのガルバさんが深刻な表情で私たちの話を聞く。
「ちなみに、俺らが戦り合った時は数十体だったぜ?」
「それが戦力の全てとは思えない。いや、仮にそれが全てだとしても、それ以上増えないとするのは些か楽観的に過ぎるだろうね」
確かに、考えてみればナルディさんの言う通りだ。
魔物と意志疎通、或いは洗脳して操れるとみた場合、その兵力は比喩でも誇張でもなく、いくらでもいる。
極端な話、世界中の魔物が徒党を組む可能性もゼロではない。正に悪夢だ。
「うむ。最悪を言えば……戦争規模の大事になり兼ねん。お主らに接触したことからその可能性も低いが……」
「何故です?」
「戦争か、それに準じる何かを企んでいるのなら、今存在を察知されて困るのは向こうじゃ。ただの商隊を襲うようなことはせんじゃろ。まぁ、目撃者は全て殺すつもりだったのか、或いは……既に準備を終えているのなら、話は別じゃが」
ガルバさんが目を細める。
その言いたいところはだいたい察せられる。
「――つまり、連中が事を起こす時は近い……ということですか?」
突然話に割って入った私の方を見て、ガルバさんとナルディさんが驚いた表情を浮かべる。
その、「え? いたの?」って表情をやめてくれませんかね。
「……うむ、まあそうじゃな。推測に過ぎんが」
「どちらにせよ、早急な調査が必要だね。Cランク以上の冒険者に向けてギルドクエストを発行し――」
「――ダメです!」
ナルディさんの言葉を遮る。少し、いや……かなり失礼だったけど、これは言っておくべきだ。
「……なにか、問題でも?」
表情はにこにこした良いお兄さんだけど、僅かに、魔力に怒りが滲む。
新米風情がでしゃばんじゃねぇ! って感じかな?
その威圧を受け流し、思い直してもらう様に進言する。
「Cランクではあの老人に太刀打ち出来ません。少なくともBランク、それも複数人を受注要項に入れるべきです」
ナルディさんが目を細める。私の言葉を測りかねているようだ。
あの不気味な老人が直接出てくる可能性は不明だが、実際に出てこられた時、少なくとも逃げられる可能性がある程度の冒険者じゃないとだめだ。
でないと無用な犠牲を払うことになる。下手をすれば奇襲の魔力矢で瞬殺も有り得るのだし。
「……なんの根拠があるのかな?」
「唯一、件の爺さんと接触したのがそいつだからさ」
ナルディさんの問いに、私の代わりにバラスさんが応えてくれる。
それで少しは理解した風だが、到底納得した様子はない。
「なるほど。だが、君はその老人と相対して、生還したのだろう? Cランクではそれも無理だと?」
「はい」
迷わず答える。
その結果、ナルディさんは頬をヒクつかせ、その奥ではスキンヘッドおじいさんが大きな笑い声をあげた。
「はっはっはっは! 随分活きの良いガキンチョじゃな!」
「案外、笑い事でもねぇぜ?」
「……ほぅ?」
にやりと笑みを浮かべて私を持ち上げるバラスさん。ガルバさんはそれに対して、面白そうに口元を歪め、こちらを睨む。
……なんとなく、察した。というより展開の予想がついた、かな
私はスッとセリナとミシェルの前に出る。
次の瞬間、ガルバさんから凄まじい気勢が発せられた。
「きゃっ……!」
その、殺気とも呼べる突然の威圧に、ライラさんは思わず声を上げた。
バラスさんとナルディさんは平然としている。2人の実力によるものか、もしくは慣れているのか。
そして、私も当然の様にそれを涼しい顔で受け止める。
その威圧はすぐに治まった。次いで、ガルバさんの豪快な笑い声が部屋の中に響く。
「くくっ……はっはっは! こいつは驚いた! おいバラス、このガキンチョは何者だ?」
「さぁな? 俺もクエストで同行しただけだからな。だがまぁ、只者じゃあないってとこか?」
「……それほどかい? 確かにギルドマスターの気勢に動じなかったことは驚嘆に値するけど……」
「ナルディ、嬢ちゃんの後ろを見てみな?」
バラスさんに言われて、ナルディさんは私の後ろを見る。
「……なに?」
「へっ? ライラさん、急にどうしたんです? 大丈夫ですか?」
私の後ろで(たぶん)きょとんとしてる2人。
この状況で、それは異常だろう。
「くっくっく、儂の威圧に気付いてすらおらんとは。なるほどどうして、そのガキンチョは守るモノを背負えるだけの力はあるようじゃな」
「っ……!」
ナルディさんが驚愕を浮かべる。
魔力や気配から、ガルバさんが何か仕掛けてくると察した私はセリナ達を背に庇った。私が殺気のようなあの威圧を全て受け止めたおかげで、後ろにいた2人はやり過ごすことが出来たようだ。
それは、私がガルバさんの威圧も殺気も、後ろには全く通さない程に強い力を持つことの証明に他ならない。
……ていうか、私がそうしなかったら、セリナはともかくミシェルは恐怖で泣いてたかもしれない……! もしそうなってたらガルバさんをぶん殴ってたところだ。
私が非難を込めてガルバさんを睨みつけると、それすらも心地よいとでも言う様にほくそ笑む。
「威勢も上々、久しぶりに愉快な新人が入ったもんじゃ。……ふむ、楽しませては貰ったが、そろそろ話を戻そうかの。本件の調査はギルドクエストとして発行する。受注要項はBランク以上を2人以上含んだパーティじゃ。異論はあるかの?」
「……僕はありません」
「俺もねぇぜ。嬢ちゃんはどうだ?」
「私もありません」
バラスさんの問いに頷いて応える。
「ふむ、決まりじゃな。では儂は依頼書の作成に入る。報告、ご苦労じゃったな」
その言葉を受けて、私達が退室しようしたところで、後ろから声が掛かる。
「ああ、そこのガキンチョ」
私のことか。私のことだろうねぇ。……無視してやろうか。
「……なんです?」
無視しようか本気で悩んだが、相手は仮にもギルドのトップだ、流石にそれはまずい。
嫌々ながらも振り向いて答える。表情に全力で嫌々しさを浮かべて。
「そんな顔をするでない。あれじゃ、名前を聞いておこうと思ってな」
自己紹介しただろ! という叫びが喉元まで出かかった。
「……イロハです」
「ふむ、イロハか。覚えておこう。今後の活躍を祈っておるよ」
「ありがとうございます」
簡潔にそれだけ答え、踵を返す。
すると再び後ろから、今度は小さな声が届いた。
「……己が本当に守るべきモノを、読み違えんようにな」
反射的に振り向きそうになるが、踏みとどまる。
なんとなく、声の主はそれを望んでいないように感じたのだ。
「……失礼します」
なおも背中に強い視線を感じながら、私は部屋を後にした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
日本が……恋しい……。
ていうか呑みたい遊びたいorz




