第40話 漆黒の矢
「風の牙よ、敵の臓物を喰い破りなさい! タービュランスクリーク!」
「氷結嵐雨! シュトルムヘイル!」
「「「ギギャアアアアアッ!!」」」
風で出来た刃がまるでマシンガンの様に森に叩き込まれ、敵の上空に生まれた氷柱が、敵を串刺しにせんと降り注いだ。
そして森から聞こえるのは阿鼻叫喚の渦。
「おっかねぇ……」
「あら? なんなら貴方にもお見舞いしてあげましょうか?」
ふふふ、と黒い笑顔を浮かべながらライラさんが言う。バラスさんは怯えたようにふるふると首を振るばかりだ。
……なるほどパーティ名の由来が分かったよ。要は2人とも“鬼”なんだね。バラスさんは外見が、そしてライラさんが――
「イロハちゃん?」
「ひゃいっ!?」
うおお、今ゾクッてしたよ? これは逆らっちゃいけないやつだ。
「まだ隠れてるみたいだから、もう1発行くわよ。大丈夫?」
「は、はい。じゃあもういち――」
瞬間、魔力の波動を感じ取る。場所は森の向こう。
その魔力は桁違いで、ともすれは私より――
反射的に森へと視線を投げると、森の奥からライラさんに向けて、黒い何かが飛来した。
(疾い――)
ライラさんを避けさせる時間も、声を掛ける時間さえない。
速すぎて視認するのも難しいそれには、とてつもない魔力を感じる。多分、普通の人がまともに受けたらひとたまりも無い。
ライラさんの前に出る。そして構築する魔力の壁。無詠唱だが仕方がない。緊急事態だ。
だが、それも無駄に終わる。
――パリンッ……
(――ッ!!)
あまりにもあっけない音を立て、ガラスの様に壁が割れる。つまりはそれだけの威力があると言う事。
私は咄嗟に腕を交差させ、それを受け止めた。
――バチィッ!!
「っきゃあ!?」
それを受けた瞬間、黒い稲妻を発し、それに驚いたライラさんが声を上げた。
だが、それだけでは終わらない。
――ズババババババ
「ぐ……うっ……!」
さらに雷鳴を轟かせながら、私を貫こうと圧力を増す。
それは漆黒の矢、魔力の矢だった。私が使う光の矢と同じ。対の、魔力。
そしてそれに込められている魔力は私のそれ以上だ。
だが、易々と圧し負けるつもりは無い。
矢を受けた箇所、腕を交差させたその1点に、魔力を集約させ、それを受け止めていた。
私の銀の魔力と、漆黒の魔力が鬩ぎ合う。
共に相反した色の魔力光と稲妻を放ち、相殺し合う。
――パシュッ……
やがて、それらは空気の抜けるような音と同時に弾け、何事も無かったかのように姿を消した。
「――はあっ……はぁ……」
「イロハちゃん! 大丈夫!?」
「くそっ! なんだ今のはッ! おい嬢ちゃん、しっかりしろ!」
何とか耐えきったが、疲労でその場に膝をついた。
直ぐにライラさんが心配して駆け寄ってくる。バラスさんは私の盾になるような位置で、声を掛けながら周囲を警戒してくれた。
ありがたい。けど、ダメだ。
あれは私以外に抑えられない。私じゃないと……守れない。
「大丈夫です……。2人とも、ここは、お任せします……!」
「なっ!? おい!」
それだけ2人に告げ、返事も聞かずに飛び出す。
隙を見せれば見せるだけ、あの2人が……否、セリナやミシェル、全員が危険に晒される。
今すべきことは、一刻も早く術者を捕えること。
そして、矢が放たれた方向、森の、魔物達を越えた奥へ向けて全速力で駆ける。
「ガァア!」
途中、オークが襲いかかる。だけど、相手をしてあげる時間はない。
――ザンッ……
「ガ――?」
すれ違いざまに、一瞬で、剣線も反応も残さずにオークを切り裂く。
オークの上半身は地面に落ち、困惑した表情のまま果てた。
「……イロハッ!?」
「イロハーッ!!」
異変を察知して馬車から出てきたのか、背中にセリナとミシェルの声が届く。
(ちょっと待っててね。直ぐに、終わらせてくるから……)
内心でそれだけ呟き、私は森の中へと突っ込んだ。
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