第38話 不穏な気配
「ひーまーだーなー……」
最後尾の馬車の上、幌上に寝っ転がりながら青空に向けて呟く。
誤算だった。馬車の旅の方が楽だろうと思っていた。
いや、それは正しい。こういう護衛で実際に何かトラブルが起こる事の方が稀だ。ただ馬車に揺られているだけで目的地に着くと考えたら楽なのは間違いない。
問題は、話し相手がいないこと。
一応御者さんはいるが、あまり話すのが好きではなさそうで、会話が続かない。
ティラネルの町を出て早数日、私は暇を持て余していた。
ミシェルやセリナのところに遊びに行きたいが、流石に護衛を疎かにする訳にはいかないだろう。
「ちょー暇だなー……」
その呟きを拾う者はいない。ただただ青い空に溶けて消えた。
その時だった。
「――っ!」
耳に僅かに届く、草木を掻き分ける音。音の出所は街道のすぐ横に広がる森だ。
(来た来たっ……! 暇潰しさんいらっしゃ~いってね。……この統率された動き、盗賊かな?)
人よりも感覚が鋭敏な私にも微かにしか聞こえないほどの足音。そして規則正しく並んだ複数の音源。
間違いなく、敵は統率された集団だ。
馬車隊の前方を見る。黒鬼の2人も気付いてはいなさそうだ。
――ピュイィィイ~~~
馬車隊全員に聞こえるように、指笛を吹く。事前に取り決めておいた、敵襲の合図だ。
前方の馬車から即座に黒鬼の2人が顔を出す。流石というか、すぐに森から漂う異様な雰囲気に気付いたらしく、馬車隊の指揮を執る。
「森から距離を取って馬車を停めろ! 急げ!」
馬車の御者さんが慌てて指示通りに街道を外れ、森から距離を取る。これで、護衛が突破されない限り、馬車に直接手を出されることはない。
そして3台の馬車が停まり、護衛組が馬車から降りる。
「よく分かったな、嬢ちゃん」
「まぁ耳はいい方だからね」
軽口を言い合いながら、視線は森から逸らさない。
向こうもこちらを窺っている。でも、ばれたのが予想外だからか、出てこようとはしない。
「……妙ね」
「ああ」
黒鬼の2人が囁き合う。
「どういうこと?」
「ああ、森に隠れてこっちを窺ってるあたり、おそらく盗賊だろう。だが、盗賊なら不要な戦闘は避けるはず。奇襲ならまだしも、これだけ正面切って待ち構えてるんだ。普通ならさっさと逃げるはずだ」
「それに、感じる視線が……なんだか気味が悪いわ。品定めしているような……」
「……気持ち悪い」
概ねみんなの意見は一致しているらしい。
確かに言われて見ると不審な点が多い。警戒はしておくべきだろう。
「セリナ。馬車の方任せていい?」
「……分かった」
いつもなら私も戦うとか言って反論しそうなものだけど、状況が状況だからか、あっさりと従ってくれた。
セリナはあれでCランク。実力は確かだ。馬車の守りは充分だろう。
「まぁ、こっちから出てみるか」
バラスさんは軽く言って前に出る。不用意なそれは油断か、自信か。
「大丈夫よ。ああ見えて彼、実力は確かだから。いや、それは見た目通りかしらね」
ライラさんはそう言ってけらけらと笑う。まぁ、確かに文字通り鬼のような風貌だしね。
軽く笑みを浮かべながら、ライラさんと私はバラスさんに追従して森へと近づく。
さて、鬼が出るか、蛇が出るか。……鬼はこっちにもいるけどね。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
新しい小説ネタを思いつくと、それについての妄想が止まらなくなる今日この頃。
仕事にも手が付きませんw




