第13話 一件落着
「お前ら! 無事だったか!」
「イロハちゃんっ!」
何とか馬を宥めることに成功し、馬車を引いて街道まで出たところで、不意に声が掛かった。
声の方を見ると、私達を待っていてくれたのか、護衛さん、もといガリムさんがこちらに駆け寄ってくるところだった。その後ろにはメギルさん、もとい御者のおじさんもいる。
……私の中ではもうおじさんで定着しちゃったんだよ。
「ガリムさん! おじさん! 良かった、無事だったんだね!」
「そりゃあこっちのセリフだ! お前らこそよく無事で…………おい、そいつぁ……」
ガリムさんの視線が私の右手、正確には薬指のリングに注がれる。目ざといね。
「ああ、これならもう大丈夫だよ」
「大丈夫っつったって……」
「……本当に、もう大丈夫。私が保証する」
軽く構えて私を警戒するガリムさんに、セリナが声を掛ける。
ガリムさんも、一番カースドに詳しいセリナの意見は信用に足りたらしい。ぴりぴりとくる警戒を解いた。
「そう、なのか。……どういうことか、説明してくれるんだろうな?」
「んー……内緒♪」
「はぁ!? ちょ、お前ふざけんな!」
くるっ、とターンしてガリムさんから逃げるように距離を取る。セリナを連れて。
「あははっ! 私達ティラネル戻るけど、ガリムさん達はどうする?」
「あ? ああ、どうする? メギルさんよ?」
「そうですねぇ……」
おじさんは私達が引いてきた馬車とその積荷をしげしげと眺め、頷いた。
「ふむ。馬車も積荷も問題は無さそうだ。私としてはこのまま隣町まで行ってしまいたいところですね。ガリムさんはどうです?」
「俺か? そうだな……嬢ちゃんに回復魔法をかけて貰ったからか、すこぶる調子がいいし、構わないぜ」
行先は決まったようだ。
あんなことがあっても仕事を遂行しようとするおじさん。商魂逞しいと言うか、真面目と言うか。
ああ、ちなみに、ミシェルに頼まれた荷物はこっそり隣町の店主さん宛ての手紙と一緒に馬車の中に入れてある。
「ミシェルには私から伝えておくよ」
「ああ、お願いするよ。さて、行きますかガリムさん。町に着いたら約束通り、1杯奢りますよ」
「ん、ああ。そりゃあありがてぇ」
ナイスおじさん!
おじさんに背を押されて、ガリムさんから私への追及は流れた。思い出す前にさっさと行っちゃって。
「じゃ、道中気を付けてね」
「……次は魔物に襲われないように」
馬車に乗り込んだ2人に声を掛ける。
セリナの言葉に苦笑いしながらおじさんはこちらへ振り向いた。
「ははは……気を付けるよ」
「おうお前ら、ありがとよ! けどお前らこそ、無茶すんじゃねぇぞ!」
おじさんが馬の手綱を握れば、馬車が動き出した。
馬車上から手を振る2人に、こちらも手を振り返す。
「じゃあね、イロハちゃん! ありがとう!」
「今度ゆっくり説明してもらうからな!」
残念、忘れてなかったか。
お酒呑んできれいさっぱり忘れてくれないかなぁ、と思いつつ、馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。
「……よし! これで一件落着! さ、私達も行こうか」
「……ティラネル?」
セリナが確認するように首を傾げる。なんだろう、体格が小さいからか、仕草がいちいち可愛く思える。
「うん、そう。私が今お世話になってる町。いいところだよ♪」
これは本音。アリアスさんのご飯は美味しいし、治安は良いし、静かで良い雰囲気だし、町民のみんなは優しいし、アリアスさんのご飯は美味しいし。
あの町は最初の町だとかそう言う補正抜きで、良いところだと思う。
「……それは楽しみ。……だけどその前に」
セリナは私に視線を向ける。言わずとも伝わる。「さあ、説明を」と。
「ま、町に着いてからゆっくりでいいじゃない?」
「……そうやってどんどん後回しにして誤魔化す作戦」
「うぐっ……」
図星です、すいません……。
「……今なら周りに誰もいない。加えて、ティラネルに着くまで約2時間。ただ歩くだけじゃ暇」
次々にこちらの退路を塞がれる。「交渉事とか向いてるんじゃない?」と言えば「話を逸らさないで」と一蹴された。手ごわい……。
これは、観念するしかないかな……。
「……わかった、話すよ」
ため息を吐きながらそう言えば、セリナは勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
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