第11話 呪装具の成り立ち
「はぁっ……はぁ……」
「大丈夫? セリナ?」
肩で息をするセリナを支える。やはりと言うか当然と言うか、さきほどの魔法でかなり消耗したようだ。
「……うん、大丈夫。でも攻撃の余波まで考えてなかった……これ、イロハでしょ? ありがとう」
私とセリナの周囲に展開した魔力の壁を指して呟く。
確かに私の魔法だが、お礼を言われるほどの事じゃない。
「ううん、いいよ。それより、凄い魔法だね。全部吹き飛んじゃった…‥」
見れば、あるのは巨大なクレーター。トロールはもちろん、その周囲の木々もほとんど吹き飛んでしまった。
見た目からは想像できないけど、もしかしてセリナって大魔導士?
「……こんなの、あの人の見よう見真似でしかない。あの人なら、ここら一帯は吹き飛ばす」
「それはそれで迷惑なのだけど……」
見てはみたいが。
セリナの言う“あの人”が誰なのかは知らないが、随分と卓越した魔術師なのだろう。いつか会ってみたいような気もする。けれど、その人について聞くのはまた今度だ。
何とか1人で立てるまでに持ち直したセリナを連れ、クレーターの傍へとやってくる。
「当然だけど、トロールは跡形も残ってないね」
いくら見回しても、肉片すら残っていない。本当にとんでもない威力だ。
だが、範囲内のほとんどを消し飛ばしたクレーターの中央に1つ、光を放つものがあった。
「……あれは……嘘、なんで……!」
光る球体に包まれた、千切れた鎖と、リング。あの、トロールを暴走させていた呪装具だ。
カースドを守るように包んでいた光は、ふっとその姿を消す。その場に留める力を失った鎖とリングは、チャリ、という小さな音と共にクレーターに転がった。
セリナは私に視線を向ける。その光に見覚えがあったのだろう。なにせついさっきまで自分を守っていた代物だ。
説明を要求する、とセリナは目で語っていた。
「……ちょっと、アレに用があってね」
それだけ言って、セリナをおいてクレーターを降っていく。目的はもちろん、あのリングだ。
「……イロハ?」
まさか、という思いがこもった声が後ろから届く。そう、そのまさかだ。
「イロハ、だめ……! 呪いに侵蝕される……!」
カースドの傍に降り立った私を見て、疑念を確信に変えたセリナが声を荒げた。
「大丈夫だから、そこで待ってて」
そう、笑みを浮かべながら言ったけど、セリナが納得出来た様子はない。まぁ、当然か。
足元のリングを眺める。近くで見ると、その特異さがよく分かった。
「なんて淀んだ魔力……。――そっか、死に際の魔力が、魔道具に使われている魔石に宿るんだね」
この世界には魔石と呼ばれる、魔力との融和性が高い鉱石が存在している。
その魔石に特殊な方法で魔力を流し込むことにより、様々な効果を宿すことが出来るのだ。そして、その魔石を組み込んだ物が、魔道具である。
目の前に転がるカースドも、元は魔石の組み込まれた魔道具。その魔石に、持ち主の深い感情が乗った魔力が宿り、カースドとして生まれ変わるのだろう。
「死に際で、魔力に乗るほどの感情なんて、そりゃあ良いものじゃあないよね……」
私には理解かる、感じる。このリングの前の持ち主の感情が、想いの強さが。リングから発せられる魔力に乗って、私に伝わる。
それは憎しみ、悲しみ、絶望。そんな真っ黒な感情に塗りつぶされた、淀んだ魔力。それが、持つ者を狂わせ、溢れた感情を吐き出す道具にしてしまうのだ。
私が気になったのは、その迸るほどの淀んだ魔力……ではなく、その奥にほんの僅かに感じる感情の残滓。
「そう……貴方も、苦しんでるんだね」
「――イロハッ……!」
後ろから聞こえるセリナの心配そうな声を敢えて無視し、私はリングに触れた。
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