第10話 小さな太陽
「ゴアアッ!」
トロールの咆哮。私は恐れることなくそれに真っ向から突っ込んだ。
「ガアッ!」
さっきの繰り返し。トロールが私めがけて真っ直ぐに棍棒を振り下ろし、そして私はそれを避ける。
今度は紙一重で避けるなんて馬鹿なことはしない。魔法で強化された身体能力をフルに活かし、瞬時にトロールの側面まで回り込んだ。
「ゴアアアッ!」
だがトロールも黙ってはいない。空いた左の手のひらを、私に叩きつける。
それをバックステップで回避する。ただ手のひらを叩きつけただけとは思えない衝撃が地面を抉った。
本当にとんでもないパワーだ。だけど、それだけ。
「せりゃあああっ!」
振り下ろされた左腕に飛び乗り、瞬時に駆け上がる。そうすれば、すぐそこに目を剥くトロールの顔がある。
「旋風衝脚! ストームファングッ!」
先ほどオークを吹き飛ばした、嵐を纏った旋風脚。それを、トロールの顔面に叩き込んだ。
「ゴアアッ!?」
頭部に受けた爆発のような衝撃に、堪らずトロールは仰け反った。
(それだけっ!?)
オークや他の魔物を巻き込んで、軽々と視界の彼方まで吹き飛ばすほどの威力なのは先ほど証明した。だが、目の前の怪物はそれを受けても仰け反るにとどめた。
(正直頭部を吹き飛ばすつもりだったんだけど……。パワーが、首の筋力が異常だ。もしかして、カースドの効力って……)
「ガアッ!」
仰け反った状態から直ぐに体勢を立て直し、紅い瞳が私を睨めつける。
「――くっ!」
側面から、私を捕えようとトロールの右手が迫る。咄嗟にそれを避ける為に、空中へと身を躍らせた。
「――!」
ニタ、とトロールが醜く顔を歪め、左腕を引いた。今、私は空中にいて、それを回避することは出来ない。……とでも思ったのだろう。
「ゴアッ! ――!?」
突き出した左腕を、私は空中を蹴って回避した。捉えたと確信した攻撃を避けられ、トロールの顔に疑問符が浮かぶ。
そんなトロールを尻目に、私はその左腕に着地した。
「ごめんね、貰うよ」
言いながら、力任せに剣を振る。それはトロールの強靭な筋肉をあっさりと切り裂き、トロールの左腕を切断した。
「ゴアアアアアアアアッ!?」
今度は咆哮でなく、悲鳴。痛みへの、己が理解を超える事態への、悲鳴だ。
落下する左腕と共に地面に降り立った私は、トロールから距離を取る。後ろに感じる魔力からして、もうそろそろだ。
「……太陽よ、炎の権化よ。我が魔力を食らいて、その御手の一端をこの地上に顕現せよ。ソル・イーダム!!」
私がトロールから距離を取ったことを確認したセリナは、溢れる魔力を全て解き放ち、紅い光の球を生成した。
セリナの最大魔法。太陽の化身。それも納得できるほどの圧倒的な魔力を秘めた魔法だ。
「すごい……」
素直に、そう思う。
まさに小さな太陽とも呼ぶべき恒星がセリナの掲げた杖の上に生まれ、周囲を明るく照らす。
「……これで、終わり」
呟き、杖を振りかざす。それに引っ張られたように、恒星がトロールに向かって落ちた。
「グ……ゴガアアアッ!!」
トロールが雄叫びを上げながら身を守るように、その太陽を止めようと残った右腕を突き出す。だが、それは何の意味も成さない。
突き出した右腕が、太陽に触れた傍から蒸発する。
(まずいっ……!)
私は咄嗟に、魔法を使った。
「ガアアアァアアァアッ!!」
信じられない、そんな感情を乗せた断末魔をあげながら、トロールは恒星の光の中に消えた。
同時に、炸裂する爆発音と、周囲を巻き込む烈風。私は咄嗟にセリナの傍へと跳び、周囲に光の壁を構築した。
やがて余波と音が収まった時、視界の先にはつい先ほどまではなかったクレーターが出来上がり、トロールの姿はどこにもなかった。
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