第8話
チーム対抗 組手試合 トーナメント開始!
チーム対抗の組手試合が始まった。
50チームのトーナメント戦。
僕たち第40班は後半の20試合目だ。
後半になるほどチーム内の作戦も立てやすく、相手チームを倒すのが困難になり長期戦となりやすい。
僕も初めてのチーム戦に戸惑っていた。
「純くん、君はチーム内で何が行われるのか聞いておくだけでいい。内容を知った上で組手を行うのと、知らないまま組手を行うのは天と地の差だ」
「はい!」
他のチーム内試合を偵察しに行っていた先輩方からの情報を頼りに、相手チームの代表者の弱点を洗い出し、僕はそれに向けた組手の稽古を始めた。
もちろん耳は作戦の内容を聞いている状態でだ。
「では1回戦の作戦を立てる。今回指揮をとるのは4人。純くんを抜いて29人を4チームに分ける。各自、自分の番号を覚えているな? 番号でチーム分けを発表するからしっかり覚えろよ」
卓さんが全員をまとめて指示を出し始めた。
チーム分けはこうだ。
相手チームが我がチームに潜入してきた時、敵スパイを見つけ出す
【捜索班】02番をリーダーに15、22、24、25の合わせて5人。
敵チームに潜入して敵の作戦や狙い所を伝達する
【潜入班】29番をリーダーに05、08、11、12、14、17、18、20、21、26、27、30の合わせて13人。
潜入班からの暗号解読と作戦を立てる
【解読班】04番をリーダーに、01、03、06、07、09、10、13、16、23の合わせて10人。
そして、全ての班をまとめて指示を出す
【総指揮】19番。
稽古が終わった僕は一斉にチームに分かれるみんなを総指揮の19番、卓さんと共に眺めていた。
「卓さん、総指揮を取るんですね」
「ま、4年も居ると自然と上に立つ立場になってしまうんだ。俺も初めてだから少し怖いけどね。純くんが早々に相手を倒してくれたらこんな怖さも一瞬で終わるんだけどな」
「そ、そんな。逆にすぐ負けないように堪えるのに必死になってるかもしれないですよ」
「あはは、大丈夫大丈夫」
笑いながら僕の不安を取り除いてくれた。
しかし、卓さんは真剣な顔をして「この合宿参加者の中で君が1番強いんじゃないかと思っている」と言って来た。
僕が? なぜ?
その疑問もすぐ答えてくれた。
スパイに必要な要素が全て人より優れている。
生まれ持ったものだから気付いていないのは仕方ない。
だから気付いていない今は未熟で経験者達に敵わない部分も多々あるだろう。
しかし、自分の能力を全て使いこなせるようになったら最強のスパイになるだろうね。と。
そして、君は既にその能力を使いこなし始めているとまで言って来た。
「買いかぶりすぎですよ。僕はまだ1年生です。最強だなんてとんでもない」
卓さんは少し驚いた様子だったが、やはり真剣な目で「俺は君を敵に回したくない」と直接言ってきた。
今後色々選択を迫られる時が来るだろうが、国の命令に従うのが最良の選択だと。
国が最も正しいということか?
本当にそうであるかは疑問が残るが、今は否定する要素もない。
「今は俺が敵を倒す為に指揮する最高責任者だ。手始めに僕の作戦を的確にこなせ」
確かにその通りだ。
今は卓さんの指示を的確にこなす。
それが僕の役目だ。
そして卓さんは僕に組手試合で行う作戦を教えてくれた。
まず、僕の得意な懐に入る技は多分成功確立0%に近い。
だったら最も苦手な技で勝負に出るしかない。
苦手な技。もちろん力技だ。
体格が全く違う相手に力技で勝負する馬鹿は居ない。
しかし、そう高をくくっている相手を欺くにはその力技で挑むしかない。
そこで、相手が苦手とする押さえ込みで勝ちに行くことにした。
「純くん。押さえ込みは何も力だけで押さえている訳じゃない。これ以上言わなくてももう分かってるね?」
「はい」
こうして作戦を立てている間に僕の番が来た。
「第20試合を行う。代表者はフィールドへ」
「よろしくお願いします」
「よろしく、小1くん」
相手は僕を研究してきたはずだ。
気を引き締めて目の前の敵を倒す。
今はそれだけだ。
「それでは、始め!」
僕と相手は様子を伺いながら間を詰める。
外野がソワソワと動き出したのが分かった。
しかし僕は目の前の相手を倒すことに集中すればいい。
すると、目に砂が入ってきた。
一瞬相手から目を逸らした隙に背後を取られ、首を絞められた。
どんどん首が絞められていく。
多分今までの試合を偵察されていたんだろう。全く抜ける隙が無かった。
ここまでかと思い意識が遠のく中、相手が油断したのが体に伝わってきた。
――――今だ!
僕は相手の腕の中からすり抜けで距離を取った。
「おっと、落ちたと思って油断してしまったね。さすがすり抜けるスペシャリストだ」
「ハア、ハア、ハア」
「声も出せないか。じゃあ畳み掛けるよ」
そう言って休む間もなく次の攻撃を仕掛けてきた。
卓さんの作戦で行けば、相手を動けない状態にしてからゆっくり首を絞めていけば勝ちだ。
動けない状態にするにはもちろん力で勝てばいいんだけど、今の状態ではそんな体力はない。
だったら関節技を決めればいい。
後ろに回り込めばこっちのものだ。
しっかり相手の攻撃を見極めて隙を突いて懐に入るフリをした。
相手はもちろん僕が得意とする懐に入ってくると警戒してきた。
その隙を見て背後を取って手足全てを使って関節技を決めた。
相手は抜けようともがいている。
押さえていられる時間も長くないと判断した僕はそのまま落としに入った。
すると再び砂が舞い上がって気を取られそうになったが、その頃には相手は既に落ちていた。
「そこまで!」
僕は勝ったのだ。
後から聞くと最初と最後に起こった砂は相手チームの作戦だった。
試合慣れしていない僕は、こういった見え見えの妨害に気を取られやすいと判断されていた。
そしてまんまと引っかかった。
最初の妨害で相手の作戦に気付いた卓さんが相手の作戦妨害に乗り出していたため、途中は全く何事もなかったようだ。
最後に振り切られて再び妨害されたが、時既に遅し。
僕が勝った後だった。
「お疲れ様」
「ありがとうございました」
「さて、勝ち続けて行くとこれがあと5試合続く」
「5試合…」
「さらに今日中に順位を付ける為、決勝は夜だ。日が落ちるとスパイ行為は活発になる。勝ち進むほど勝利は困難になる。心してかかるんだぞ」
「分かりました」
初戦を何とか突破した僕はこの先の試合に不安を抱えていたが、それも2回戦が終わる頃にはなくなっていた。
チームの援護もあって僕は圧勝した。
戦いを観戦している他チームからは優勝候補として僕たちのチームが名を上げていた。
しかし、エリートチームと呼ばれる存在がまだ控えていた。
エリートチームとは、今までの合宿で成績優秀者だった者たちを集めたチームだ。
既に任務についている人も居るらしいが、人数合わせのために合宿に参加しているそうだ。
そんなチームが存在するのはもちろん合宿での技術向上の為。
僕達は運良く決勝までそのチームと当たらず勝ち進んでいた。
遂に決勝まで勝ち進み、エリートチームとの対戦だ。
「エリートチーム……」
「あはは、エリートチームね。確かにそう呼ばれているが、今年は残念ながらエリートではない。正真正銘のプロチームだ」
僕は耳を疑った。
今年のエリートチームは全員任務をこなしているプロだと言うのだ。
僕達小1が入ってくるというから本来エリートチームに入る予定だったものを僕のチームに集めたそうだ。
元々才能を持った子には、まだまだ力が足りないという絶望を味わってもらわないと成長しないからプロ相手に戦わせるように仕組まれていたのだ。
「しかし、それも失敗だったようだね」
僕がここに立っているということは、例年基準で選ばれたエリートさえも僕たちに力が及ばなかったということだ。
しかも、チーム内決勝は小1同士だったということは、例年基準で言えば僕たちはトップクラスということだ。
「この決勝で君にスパイの世界の厳しさを教えなければいけないのが私の役目だ。手加減はしないから覚悟してかかって来い」
この合宿の新たな真実を知り、プロとして任務を行う人と戦う決勝が始まった。




