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あっちとこっち  作者: rurihari
1 狩人
9/142

1-9 買取後

 赤髪亭の夜の営業前の夕方、空腹を満たして突っ伏したはずだが気がつくとベッドの上だった。


 転寝うたたねに近い寝入りだったけど 夜になっての就寝以外でも日本こっちに入れ替わるのか。

時間は普通に朝だな。すると次にあっちでマリアさんかアンジェに食堂で起こされてもう一度夜に寝た場合は日本こっちには来ずに翌日に持ち越しになるんだろうか?そうでないと日本こっち年輪都市あっちで過ごす時間に差が出るよな・・・まあ差が出ることがおかしいのかどうかすら俺にはわからないけど、なんてことを柔らかい枕に寝返りを打ちながら考える。次に年輪都市あっちで目覚めるのは当然食堂の机の上だと思うけどできればマリアさんに優しく肩を揺り動かして起こして欲しい。夜の食堂の営業時間になって椅子をアンジェに蹴り飛ばして起こされそうな気がぷんぷんするな。

 始業式も終えて今日から普通の一日だ。普通に学校に行って授業を受けて、今日はバイトか。日本こっちの日常じゃ普通経験しないよなあ。動物を殺すなんて。

 そして思い出すのが興奮して怒りをこちらに向けるハガネイノシシ、その顔を正面から見て刺又を押し付けたこと、その首が上下逆に反転した瞬間に如意棍から感じた骨が折れる衝撃。音が聞こえた気もしたけど興奮していた僕には如意棍から伝わった首の骨を折る衝撃だけが印象に残ってる。命を奪うって意味じゃ蚊を両手ではたいたり、Gをぶっ叩いたりするのと変わらないはずだが、動物を自分の手で殺したってのは中々来るものがる。いくら年輪都市あっちの僕とはいえ、日本こっちのままの僕なら到底無理だったろう。


 さてぼちぼち起きてカフェオレでも飲んで気分を入れ替えよう。年輪都市あっちの匂いがこっちにも移るわけも無いが寝落ち前に、アンジェから獣臭いから近寄るなと言われたのは僕としては結構ショックだった。

あっちのカイルの時はそれほど気にかけなかったけど年下の女の子から「臭い」ってのはキツイね。

今日は朝からシャワー浴びて学校に行くことにしよう。4月始めだから寒いけど。


-*-


 今日の狩りはちょっと危なかった。自分も含めてメンバーの死傷も覚悟した。


 14才の学校卒業時、都市の祝福を受け土の異法士となった。都市の中では有用な異法なので安全な仕事に就くことが出来るがそれは年を取ってからでも出来る。家族が母一人、妹が一人で少しでも金を稼ぎたかったこともあり、ウチは狩人を目指すことにした。

 その後、狩人の育成を目的とした見習いばかりを集めて大森林に出ることを目的にした狩人育成施設(職業訓練所みたいなもの)にて自由研修期間の2年を費やし、そこから新人でもOKな中堅パーティーや新人ばかりのパーティーに入って狩人を続けること2年ほど。18歳になって自分でパーティーを立ち上げた。何をメインに活動するかの狩人にもよるがそれでも二十歳未満でパーティーリーダーになることは少ない方だろう。 

 優秀な風の異法士ニミヤがパーティーに入ってくれたおかげで大森林に深入りすることなく、新人らしい浅い場所で売れる巨獣をボウズ少なめに狩ることができている。出来れば一攫千金になる他都市からの調達依頼が張り出されるような巨獣が狩りたいが自分たちの力は弁えているつもりだ。地道に稼ぎつつ、余った時間は異法の修練を行なって源力の総量と異法の熟達を目指す。個人の体に源力が満ちる総量が増すのはほぼ20歳まで、それまでは地力をつけるのが異法士としてのセオリーだ。


 目先の目標としている指輪リングの貸し出し条件は前月の狩りの合計買取金額が所定の買取料金を上回った日が21日以上あることだ。食肉となる狩り易い巨獣をターゲットに続けて今月で14日目を過ぎ、獲物が取り所定の買取金額を上回ったのが10回。このペースで行くとぎりぎりといったところか。都市の買取課までの歪門が開ける指輪があれば源力のギリギリまでを使って狩りを行なっても危険が少なく都市に帰ることが出来る。そのため1頭めを仕留めた血の臭いを巻くことで2頭を誘い、一度の狩りで複数頭狩ることが出来るだろう。源力が尽きるまで使うことで総量も上がるはずだから一石二鳥だ。


 指輪の貸し出しが可能になるまではと安全を考え、地道に1日1頭狩っては都市に帰っていたのだが問題が起きた。

狩りの時ニミヤの風の異法で血の匂いは散らすことはできるが叫び声は消せないため、断末魔を聞いて死肉を食らう目的でほかの巨獣やってきてしまい、ついでに仕留めようにも源力の残りの心もとなさで倒した獲物を置いたまま退却することとなった。そのためウチのパーティーもポーターが必要なのではとの意見が出た。


 実のところ都市に近い奥へ100メイトだけの探索と獲物の誘いにすれば、ポーターがいなくてもやっていけただろう。だがずっと森の入り口近くでやってると異法士以外の一般者が特殊技能(罠)で狩りをしている地域とぶつかるとこもあるし、毎年狩人の新人パーティーは次々に出てくるのでいずれは新しい狩場を目指してより奥に向かうことになるだるからこれも狩人として成長していく課程だとも思う。

 うちらの異法の力は二十歳未満ばかりのひよっことはいえ、新参PTの中じゃ強いといえる。それでもまだまだボウガン以外の攻撃面ではホーヅやアッシャーの水流剣に頼るしかなく、それを使用、維持するための源力や能力の安定には大きな信頼はおけない。

 ボウガンを攻撃のメインにして狩るのは容易い巨獣だけで それが通じない巨獣を相手に出来るのが一人前の狩人パーティーだろう。ただどうやって狩るのかなどの方法や連携はそのパーティー内で秘匿にされてることが多い。金になる獲物が生息している場所もそうだが狩る方法っていうのもそのパーティーの財産なのだろう。パーティーを構成する異法士の種類や数もそれぞれに異なってるのだし。

 近づく巨獣を殲滅することを目的にした都市防衛所属の異法士とは違い、売り物になるように仕留める必要があるので狩る方法というのはいつも考えておく必要があるだろう。


 今月も残り半分となりポーターを入れるならなるべく早い方がいいと中央まで出張って依頼を出しにきた。

こういった依頼にすぐに応募してくるのは年配で食い詰めたものが多い。まともに獲物を運んでくれれば特に年齢は拘らないのですぐに応募者からの念話が入るだろうと、しばし素材調達依頼などの内容を物色して回ってきたらウチの募集に見入ってるやつがいた。うちらと同じくらいの年だろうか?その年齢で募集を見ているということは狩人修行中の異法士だろうか?まあそれならそれで戦力が増えるから問題はないが。

 振り返った男はやはり若い、カイルと名乗った彼によると異法士でもない、全くの一般人で狩りも未経験。つまりまるっきりの素人だった。

 

 一般人は狩人になることが少ないため大森林に赴くものは少ない、そのため大森林の怖さを知らないおバカさんなのかとも思ったが考えれば年はうちらと変わらないくらい。本来ならもう自由研修期間を終えて定職についてるはずだがこうして募集にきているんだからいろいろあるのだろう。初対面から詮索するような真似はしない。今欲しいのはポーターであり、出来ればパニックになって荷物を放り出して逃げない奴。パニック起こして大森林で一人で逃げたところで巨獣はそういう奴を狙ってくるわけだから生きて帰れるかはわからない。できればこのカイルと名乗った男は巨獣を前にして冷静でいられることを期待してテストをしてみる。


 2メイト程度の食肉巨獣なら一人で背負えるか背負えないかぎりぎりの重さとなるだろう。周りに巨獣がいないなら足を落としてそれらは他のメンバーに持たせてもいい。

 狩りの帰りの異法の訓練後に来たので 金属製の手甲、金属板を前に挟んだ脛当て兼ブーツ、胸当てをつけているウチを背負ってどれくらい動けるのかテストしてみた。好みの男だったのでがっつり抱きついて見たのだが他に仕事をしてきたのかちょっと汗臭かったなぁ。ま、外見が好みだからといっても自分の狩りに関わるので甘く判断するつもりはない。


テストの結果は力に関しては何も問題なし。


背負って走るように指定した場所までは500メイトほどで、実際には全く休まずにそれだけの距離を歩けるなら荷を背負って休み休みで森を歩けるだろうと思っていた。ところがウチが言ったとおりペースは遅いが走っていた。さすがにウチが抱きついている分、安定は悪いのだが半分近くまで走っても歩きに変わる気配が無い。なのでこれ以上の余力を残しているのだろうと発破をかけてみた。するとそこからはウチの体重に振られていたのが嘘のようにまるで背負っていないかのような安定と速度で駆けていた。

 内心では驚いていたがこれだけの力があれば一人で問題なく獲物を背負えるだろう。初心者だから巨獣を前にパニックを起こすことがあっても守ってやればいいか。ウチはカイルをポーターとして入れることに決めた。


 その夜にパーティーメンバーにポーターがすぐに見つかったことを連絡したが実際に荷を背負わせていないとアッシャーは不満げだった。しかし翌日の朝にカイルの力を見せられて文句はなさそうだ。ニミヤは相変わらず自分の異法で買取課や詰所の女性職員のスカートを靡かせては悦に入ってるようだ。この男にもポーターについては連絡したのだが特に関心は無いのかいつもと変わらない。年齢からすると風の異法士としてはかなりのもので、正直何故ウチのような駆け出しばかりを集めたパーティーにいるのかよくわからない。おそらく一般パーティーでも普通にやっていけると思う。


 リーダーが決めたのならということで異論がないタミーとホーヅが合流し、準備を整えたところでホーヅが得た昨日買取課に持込された狩人からの情報で現場に向かう。

いつものパターンで巨獣を狩ったのだがどうやらクロヅノイノシシとは似ているが別の種だったようで成獣だと思って狩ったら実は幼獣、ちょっと手に余る親がお出ましになった。折角狩った巨獣だが大森林の外に出るにはこいつに離れてもらわなければならないのでカイルに幼獣を落としてもらったのだが怒りは治めてくれそうにない。手詰まりで待ちの一手になるかと思ったが別の提案をしてきたのは素人のカイルだった。それも逃げるための策でなく狩るための提案だったことに驚いた。


力が強いってことは分かっていたがまさかあんな巨獣の首を圧し折って倒すとは・・・・・・


 巨獣に対する時に武器を使うこともあるが人間で武器使用対異法使用で戦うとまず持久戦で無い限りは異法側が勝つため、巨獣と戦うにも異法で対するのが当たり前で源力の維持や安全のためにボウガンがメインとなってはいるがまさかあんな殺し方をする奴がいるとは思わなかった。


 持って帰るにはかなりの苦労はしたがその甲斐はあった。一般的に数も多く、狩りやすい食肉巨獣だと一頭の買取金額を5人で割ると1人3000ピプくらいの儲けになる。一般募集の城壁修理の給金が600~700ピプであることを考えれば十分なのだが、初めて狩ったこのハガネイノシシとやらはなんと親子2頭で24万ピプという買取値が付いた。6人で割っても一人4万ピプだ。予想以上の収入に命の危険があったことを忘れて全員喜んでいたのだが空腹が昼ごはんも食べずにいたままだったことを思い出させる。

 とりあえず身を綺麗にしてからいつもの狩人の溜まり場となっている飲み屋で今日の成果を祝うことにしたのだがカイルの姿がいつの間にか消えていた。あとで念話を入れればいいか。

 明日も出る予定だから遅くまでは飲めないが今日の功労者のカイルには全員から酒が勧められるだろう。

 一人増えればその分分け前は減ることは覚悟していたがカイルが一人で背負って帰れるなら、うまくいけば1日2体狩ることも難しくないだろし、来月から指輪の借り出しはまず大丈夫じゃないだろうか?

 懸念材料も減ったし今日の稼ぎも上々!装備を詰め所に預けて代わりに預けていた着替えを受け取ってタミーと一緒にひとっぷろ浴びたら、いざゆかん!肉と酒のるつぼへ! 



年輪都市があるミトラ世界でも一週間は7日 一年は365日ってことで。 


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