4-5 偏食-3
カードの念話設定は大森林に道を作る前に互いのメンバー同士で繋がるようにしておいた。しかし今の内容は特に他人に知られても問題がないことなので酒場の喧騒の中でそのまま話し始めた。
今のところまだ大森林に道ができたことと、それを行ったのが俺達だと広まってないのでそれほど注目もされていない。ただ元々二番地区だけを決まった活動の場にしている『偏食』は名も顔もこの地区では有名なので同席している俺達にも時折視線は向けられる。
「俺達が『偏食』に声をかけたのは先を見据えてのことだ。」
大森林で採ってきた果物をナイフで割って分けながらダーナを除いた『偏食』メンバーに話し始める。
俺が取ってきた果物は中央買取市場で大森林から持ち帰ったものとしてチェックは受けたが問題ないものとしてそのまま袋に入れて持ち込んでいる。
皮はやや硬いが中身は種がない梨のような果物でスプーンを借りて食べ始める。
「その原因は俺のせいなんだがな。『遠慮』のパーティーは土の異法士が2人、水の異法士が2人、風の異法士が1人、ポーターが1人の構成になってる。
だけど来年、土の異法士が二人抜けるかもしれない。」
「解散ではなくてか?」
酒場で借りたスプーンを果肉に差して掬いながらなので視線はみんな下向きだ。なんとなくパーティーの解散という後ろ向きの話題を避けているようにも見える。自分のパーティーではなくても気が滅入る話題ではある。
狩人パーティーの解散や結成などは若いうちは珍しいことではないが二十歳を超えて各人の源力の総量が固定されてくると固定パーティーが多くなる。
だが女性を含むパーティーはどうしても馴染みの固定パーティーで仕事をこなしていても解散することがある。
妊娠と出産の関係で狩人の職から遠ざかる上に、それを期に都市内の仕事に転職することも多いためだ。女性が風や水の異法士なら補充は容易いので新人を入れて育てることもできるが今の狩りの手法では重要な役目を追っている土の異法士が女性だったり、パーティーリーダーだったりする場合はそうもいかない。
「カイルがアマザとタミーを二人共ものにしちまったのさ。」
アッシャーが早々に果物を食べ終えて酒に手を付けながらそう言うとルウミを除く『偏食』の面々が意外そうな目をカイルに向けてくる。
ルウミは上級職員アケーシ翁の依頼を受けてその娘のダーナが無茶をしないように立ちまわってるので俺のことも聞いてるのだろう。宝石の原石を使って都市外へ発注したペンダントのこともアケーシ翁に報告してたみたいだし、ダーナに関わる人物はチェックしてるんだろうな。
心術士のような存在なら情報も集めることも容易いだろうけど一介の狩人である彼女ができることは知れてるだろうけど。
例え心術士であっても都市の仕事以外で自分の力を使うのは戒められているのでそれほど気に掛けることはない。アケーシ翁が上級職員でも都市の心術士を使って自分の身内を探るような真似はできない。
「ほぉ? 狩人のパーティー内の男女が夫婦になることは珍しいわけでもないが大体は異法士同士だ。が、ポーターの男に異法士の女が? それに二人とちゃんと結婚するってことなら一夫多妻なのか? 最近じゃ珍しいな。」
「そうだよな。それにいくらポーターの稼ぎも等分で得られるといっても妊娠しての狩人離脱ってことならどう考えたって稼ぎ手が減るだろう? その若さで渾名付きになったのは凄いが俺たちと勝負をすることになったのは酒場でアッシャーと飲んでた席の話題だったろ? ってことはその少し前に名付けられたはずだよな。その辺りからの狩りの稼ぎでもう狩人を引退するって一体どれくらい稼いだんだよ。」
グンジョーと以前眉を剃っていたアーオイが言う。
「来年いなくなるってことはもう妊娠してるのか?
いや、その兆候があるなら来年まで待って大森林に出るような真似はしないか。それに妊娠したなら次が欲しい場合は最初に妊娠してから3-4年が勝負だからな。 薬があるとはいえ確実ではないという話だしな。」
「いや妊娠どころかまだそういう関係にも及んでないんだがな? 」
その後『遠慮』『偏食』の全員から
「「「「「「「はぁ?」」」」」」」
とハモって言われた。
その後は全員から「よくそれで結婚まで話が進んでるな」から始まって「なんか病気もってんじゃないの?」などと言われ、女性のルウミからも「ヘタレっすね!」と言われた。
ええやん別に……ヘタレでも……。
ひとしきり弄られたあとに大きく咳払いしてやや強引に話題を戻す。そうしないとアマザたちが戻ってきて更に拍車がかかりそうだ。
「でな、ウチのパーティーから土の異法士が全くいなくなることを仮定してアッシャーとホーヅに足止めを使わない方法での狩りを試したこともあるんだわ。だが普通にクロヅノイノシシやオオヅノジカあたりの3級を2-3頭なら問題ないが今の猟果を維持するにはやっぱり土の異法士がいた方が短時間で数を狩れる。」
「クロヅノイノシシを1日2-3頭狩れるだけでも充分だろう? お前らの渾名に反してどんだけだよ。ってことは目ぼしい土の異法士の引き抜き、か?」
「いやそこまで焦ってるわけじゃない。そもそもアマザとタミーの件は俺と結婚するのが来年ってことは決まってるんだが今の時点じゃパーティーを抜けるかどうかは決まってないんだ。
だが結婚早々に身籠ることだってありえるからな。だからそれまでの期間に年が近くて実力がある土の異法士をチェックする目的があって面識があった『偏食』と一緒に組むことにしたわけだ。」
「そういうことか。 それにしても『遠慮』のメンバーはパーティーに存続についてどう思ってるんだ? ともすればパーティーの主力が抜けて空中分解になるかもしれないんだろ?」
グンジョーは引き続き酒を呷りつつ話を進める。その正面に座ったアッシャーが果実酒を飲みながら答える。
「足止めっていう狩りの重要な役どころがいなくなるのは辛い。だが俺たちならカイルが組んで力を貸してくれるなら土の異法士がなくても並以上には稼げるからな。
こんな早くにアマザやタミーが抜けることになるかもしれないとは思わなくてあと5年以上はこのパーティーでやっていくことなると思ってた。アマザもタミーもそれぞれの事情があったからな。
アマザがポーターで引っ張ってきたカイルが俺たちに加わったことでこうなった。だけど渾名が付けられる前に比べて儲けは雲泥の差だ。アマザとタミーが結婚退職するっていうのなら祝福して送り出すさ。」
アッシャーはそう言って杯を置いて、その手に源力を集めて都市カードを物質化する。
それを表にしてテーブル対面に座る『偏食』メンバーに差し出す。
「黒文字かよ。」
カードを覗きこんだ『偏食』メンバーは嘆息する。
数ヶ月前にカードに狩人の色でのランク表示が行われるようになった。
その内容は過去の数か月の期間の集計で都市、民間双方に買取りを出した巨獣の実績で「2級巨獣」、「3級巨鳥」、などの文字が色で分けて表示される。
その中でも黒文字で表示されているのは持ち込んだ種別の合計買取額が全体の上位10位以内にいるということだ。
その黒文字で表示されているのが「3級巨獣」「2級巨獣」「3級巨鳥」の3つだ。黒文字ではないが「2級巨鳥」「3級巨蟲」「2級巨竜」「3級巨竜」の文字色も高実績の色で書かれている。しかも「1級巨獣撃退」とまであることに口にはしないが驚愕してるのが見て取れる。
「たった数カ月で指輪を持てるかどうかだった俺たちをここまで稼がせてくれたんだ。アマザとタミーをものにしたってカイルに文句が言えるわけもないさ。」
しばしカードの内容に見入っていたがカードを返しながらグンジョーが俺を見てくる。
「これほどの猟果をもたらした原因はポーターのカイルのおかげだと?」
「そういうこと。詳細はこの時点では明かせないけどな。」
「俺たちを異法士としてのチェック対象に選んだ理由ってのは面識があっただけか?」
「それもある。
まずは最低でも指輪を貸与されるくらいの実力があること。
それに俺たちとそれほど年が離れていないこと。
そして秘密を守れると信頼が置ける人物かどうかってことだな。
『偏食』は土の異法士が4人いるし、見た目がネタくさかったけど渾名がある上に2級巨竜をメインに狩ってくるんだから実力は問題ない。
年は既に全員20才を超えてるけど逆に20歳以下で実力者は少ないから仕方がない。
20才以下ってのは条件の秘密に関することだがそれほど大きな問題じゃない。問題はその秘密を守れるかどうかで、実際に人柄が分からないと判断しようがない。だから共同での狩りを申し込んだわけさ。
それに俺は以前にダーナの父親に会ったことがあってな。
ダーナは狩人を続けたいそうだが父親としては結婚して安全な都市内にいて欲しいと言っていた。それにダーナは22だろう?子供を生まないつもりならともかく、そうじゃないなら少なくとも数年のうちには結婚なりをしておかないと年齢の問題も出てくる。
そうなったらその間に『偏食』から一時離脱するかあるいは一旦解散となるかもしれない。それならこちらと一時的に合流する手もあるか探ろうと思ってね。」
俺の説明の後、しばらく沈思黙考していた『偏食』の面々だがここまで発現してなかったノーッタが口を開く。
「結局は信頼をおける土の異法士のスカウトってことか。そっちも来年二人が抜けるかはっきりしないし、うちのリーダーも先をどう考えているか分からない以上は互いの共同の狩りを通して理解を深めるってだけじゃね?」
「そういうことだな。」
「でもま、頭の隅に置いておいてもいいっすね。私は風の異法士だからそちらには必要とされないでしょうけどアケーシ翁が何やら動いてるっすからね。今まで浮いた話がないとはいえ、ダーナも子供がいらないとは思ってないでしょ。」
アケーシ翁の名前を出したことに驚いてルウミを見たところ
「あっ、もうアケーシ翁の依頼も兼ねて無茶しないようにメンバーに入っていたことは話してあるっす。みんなダーナがどうするかには従うだろうからダーナが今のパーティーを続けるといったら合流はともかく引き抜きには応じないと思うっすよ。」
「結束が固いんだな。そうでないと固定パーティーとして続けて活動できないだろうし、女性リーダーでの狩人パーティーじゃなくなってるか。」
アマザがリーダーを務める俺たち『遠慮』もそうだが男女混合の狩人は珍しくないがリーダーが女性というのは女性だけで構成されたパーティー以外には少ない。
「ウチのリーダーは今の面子が揃うまでは色々苦労してたからな。今のメンバーが揃ってから2年だがそれまではあちこちのパーティーを転々としていたらしい。その理由はあいつが上級職員の娘だってことだな。」
「別に親の仕事は関係ないだろう?」
「だな。だがこの都市で最上位の職権は持ってる。
死ぬことが珍しくない狩人だがこちらに非がなくてもダーナに何かあった場合は報復が来るかもしれない。そう思ったそれまでのパーティーは碌に狩人の実践を積ませないままで実力不足を理由に切り離した。それに焦りを感じて自分がリーダーになって活動しようとしたが実戦経験不足の人間が指示を出せるわけもない。だから勧誘をしたところでパーティーメンバーとして定着しなかった。
その頃の俺はパーティーの気に食わない奴を殴って一人でいたところを声を掛けられてな。
今日と同じようにひらひらと髪を靡かせながら誘われたんだが、気が立ってた俺はそんな髪で大森林にでるつもりか? 遊びで外に出るならやめちまえ!って怒鳴ったわけよ。」
「そしたらその場でガキくらいに髪を短く切っちまいやがってな。呆気にとられたところに更に頭を下げて遊びのつもりはないからパーティーに入って欲しいって言われてな。それからの付き合いだがいざパーティーに入ったものの最初は酷いもんだった。狩りの指示もそうだが指輪がないから運よく3級巨獣を狩ってもその場で肉や素材を切り分けて持って帰るしかないんだが手際が悪くて匂いで巨獣がやってくるんじゃねえかとヒヤヒヤしたもんだ。」
懐かしむグンジョーに続いてアーオイ(以前は眉なしだった男)が話す。
「俺の時はその前後だったか。俺はウチで一番年が低い。2年前は固定パーティーじゃない辻パーティーを渡りながら新人同士で経験で積んでいた。
狩りを終えてパーティーが解散して次を探していた時にダーナに声を掛けられてな。
そろそろ解散を繰り返す新人ばかりのパーティーでなくて固定パーティーに入りたいと思っていたころだったからまだ狩りに出られない人数しかいないところには興味がなくて誘いは断った。
だが酒場でずっと断られても頭を下げ続けるのを見てな。同情からちょっとの間だけって思ってたらそのまま居着いちまった。」
そして以前は顔面に『偏食』とか色々書いてた男:ノーッタが話し始める。
「俺が入ったのはその後か。
2年前の時点で実力はあったグンジョーや若くて伸び代が期待できるアーオイの状況とは違って俺はパッとしないまま狩人を続けて悩んでた。
学校の卒業後に狩人養成所に通ったものの源力総量の伸びが人よりも少なかった。だからこのまま狩人を続けてやっていけるか、それとも別の道に進むべきか迷ってたな。
その時 暮らしを心配しなくてもいい女が狩人パーティーメンバーを募集してるって聞いてな。詳しく聞かないまま単に金を持ってる親がいるんならモノにすれば先の心配がないと思ってホイホイついて行ったら上級職員の娘とはな。 下手に手を出すとどういう目に合わされるか分からないからすぐに抜けようとしたんだが俺の観察眼をダーナに褒められてな。そのまま今に至る。」
「私は最後にアケーシ翁からの依頼で入ったっすね。 狩人の道を選んだ以上は自らの責任だが男ばかりのメンバーに襲われて泣かされることになるかもしれないので見張っていて欲しい。それに力不足のくせに無茶をしようとするなら避けるように誘導して欲しいってね。 別に合意の上なら報告の義務もなかったけどウチの男たちは思ったより紳士でしたねぇ。」
「上級職員の娘においそれと手を出せねえわ。」
ほかのパーティー事情とはいえ、色々あるもんだ。 それ以後も苦労を重ねたことで互いの信頼も増したんだろう。
俺が加わる前の『遠慮』のメンバーよりも長い時間活動しているんだし。
ダーナがリーダーを外れることがないならこちらとの合流も含めてないかな。
「そういえばアケーシ翁から依頼されたってことだけど、そんなに若いころから上級職員に依頼されるくらい腕が立ってたの?」
「いえ、風の異法士で女性で狩人の経験ありってことで人伝の依頼だったっすよ。」
「でも普通の新人にそんな依頼来ないでしょ?」
「アケーシ翁から依頼された時24っすよ?」
「え? 今26才?」
「『偏食』の最年長っすよ。」
意外だ。




