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あっちとこっち  作者: rurihari
3 売り物
78/142

3-20 一新

 中央地区に店を構える鍛冶兼道具屋マヤの店員のカシナータは店番をしていたがそろそろ店仕舞いをする時間となり、店の表を片づけていた。

しかし彼に届いた念話で残業が確定する。


『こんな時間から済まないカシナータ。材料費に出張費も出すからこれから言うものを用意して赤髪亭に来て欲しい。場所は……』


 まずは名乗ってから用件を言えと心の中で毒づいてからメモを取る。なにやらデカい素材もいるようだから店の台車を押して向かう。大八車やリアカーのようなタイプも存在するが鍛冶を行うために鉱石なども扱うので倉庫内での材料の積み出しや移動を楽にするために三方に枠が付けられたいわゆるカゴ台車を持ち出して店を出る。ちなみに年輪都市の道は都市所属の異法士により整備されているので台車のゴマが道に詰まったりすることもない。


 どれくらいかかるか分からないので同僚に後を頼んでカイルに頼まれた素材を買うために寄り道をしていく。折角仕事を終えて風呂で体をほぐしてから飯と酒にありつくまであとちょっとだったのでやや不機嫌になりそうなものだが依頼がカイルだったので出張は受けた。


 あいつからの仕事は変わってるから面白い。


 結局あいつからの依頼物のフライヤーとやらや店先で作った変わった皿や先日納入した器具がどうやって使われてるか分からないままだからな。

一度実際に使ってるところを見てみたい。

それにそれらが広まれば手がけた俺たちにもいい目が見られるかもしれないからな。

興味で関わるのもいいし、仕事としては恩を売っておくのもいい。


 やたらに爽快感のあるミントのようなガムを噛みながらカシナータは夕暮れが近くなった道をやたらに重くなったカゴ台車を押して進む。



-*-


「ええーっと? ここに鍋板を二つほど? フライヤーは金属製だから無事だったから問題なしで前と同じ場所で、」


「奥と手前に鍋板を並べるよりもこっちに置いた方がいいんじゃないの?その方が奥に入った人にも鍋が取れるし。」


 俺はアンジェ、マリアさんとで厨房の調理器具だった鍋板の配置を新しくするのでどうするか相談中だ。

コーリンは自室の片づけで終わったら俺の部屋も片してくれるそうなのでお任せだ。

アマザとタミーは当初厨房の片づけのあと部屋の片づけも手伝うと言ってくれたが


「散乱するほどのモノはこの人の部屋にはありませんよ?」


 とのコーリンの意見でこのままいても作業の邪魔になるだろうと帰ることにしたらしい。

ちなみにアマザもタミーもメンバーと一緒に俺の部屋には来たことがあるのでモノがないのは知っている。その時には土袋に入れた原石を置いてたのでまだモノがあった方ではあるのだが。

手が必要なら念話で呼んで欲しいと言われたがあとは専門家に任せる方がいいだろう。


 とりあえず今日は氷の販売はしておくべきかと思ってカシナータが来る前にアンジェに氷を作り置きしてもらう。シンクの中や地下から持ってきた使ってなかった金属製のたらいに山のように氷を入れてコーリンと共に昨日の話を聞いてより多く詰め掛けてきた客を捌く。

いくら安価といっても冷水よりは氷の方を高めにしてるので売れば売るほど儲かる。なんせ元手が掛かってないものな。

だがカシナータにアンジェの冷却異法を見せない方がいいだろうから今日は作り置きした氷だけを売ることにする。


「大盛況だな。こんな状況で俺の仕事があるとは思えんが?」


 そういって灰白色のデカイ立方体とその上にいくつかの金属と食器を積んでカシナータが到着した。


-*-


「ふぅ! いや嬢ちゃんに奥さん! こいつぁうまいね。 味がない水がこうも美味いと思えたのは初めてだよ。」


 汗をかきながらカゴ台車を押してやってきたカシナータを冷水で労うとその冷たさをうまいと表現した。味はないし、冷えれば冷えるほど人の舌は味を感じないものらしいけどな。


「しかし鍋板の一新か、既製品ではダメだったのか? 俺としちゃ出張料も出るんだから文句はないがな。」


「ちょっと変わったことを組み込みたいからな。土の異法士なら出来るとはいっても狩人と技術者じゃ細やかさが違う。」


「それりゃそうだ。俺たちゃそれで食ってるからな。だがお前に言われた通り建材のコレを買ってきたけどこれで鍋板つくるのか?俺は鍛冶以外で金属道具以外も扱うことがあるが聞いたことがないぞ?」


「ああ、それでいい。それの方が保温がいや、加熱器具に保温は必要ないか。それよりも源力を貯め易い構造をしてるはずでな。」


「建材がか?」


「ああ、実際に別のことで試したことがある。だがそれだけでなくて鍋の設置面に銅板をだな……」


「それは分かるが熱伝導がいいってことは外へのロスも……」


 厨房に入って新しい鍋板を作るために大きさ以外に形状や素材に関してカシナータと意見を交わす。


 マリアはカイルに一任しているので関せず、アンジェはようやく自室に戻って片づけをしている。



「だが鍋板の形状はここで作れるが異法士と工術士のあてはあるのか? 火の異法を定着させないと意味がないぞ?」


「問題ない、知り合いの工術士の爺さんがいるし火の異法はさっきの赤髪のが使える。」


 実際にアンジェの異法を工術で付加するのは俺だがその事を広める必要もない。ここはオウノ爺さんにしておく。


「この店は「赤髪」亭だったな。名前の通りの見事な赤髪してたな。そういやお前もずいぶん変わってる。依頼内容もそうだが厨房器具を依頼してきたり狩人と一緒に防具を作りに来たりわけがわからんぞ?」


「ま、いいんじゃないの? 金払いがいい客をつかんでると思えば。」


「そうだな。 じゃさっきの案でいいなら取りかかるぞ?」


「頼む。」


 そういって店先に置いてある台車に向かう。

まだ開いていた大工の店から調達したあちらでいう珪藻土のような素材でこちらでは異法で強化したらそのまま壁として建材にしている。

源力補充装具の素材として使ったものでそれが壁に使えるように厚さをそろえて平たくしたものが重ねて積まれている。

その一枚を引っ張り出して厨房へ、車のCMで手で撫でて金属を車体フレームに変えていくのがあったがまさしくあんな感じだ。

カシナータは土の異法を建材に通すと撫でるだけで形を変え、余分な部分がカットされていく。

あっという間にキッチンスペースにジャストフィットすような大きさに変形し、一応持ち運びが出来るように厚みをやや薄めに調節してもらう。


「で、あとはよく使う鍋に合わせて底を覆うように調整すればいいのか?」


「ああ、そのほうが暖める効率がいいからな。もちろん違う鍋を使うことも考えて普通の平たい鍋板も作ってくれ。」


最初は鍋にあたる部分に熱伝導率がいいと聞いた銅を当てようと思ったのだが過去に考えた人はいるらしく、結局効率は返って悪くなったんだそうだ。

なお鉄や銅と呼称していても日本あっちの言葉に近いのが頭で変換されるだけで同じ物質なのかは定かではない。人間だって違うんだから物質だって性質は似ていても全く同じものじゃないだろうと思っている。


 カシナータはさすがプロで指示を出して意図が読めると仕事が早い。今までの発注は彼には未知のものだったから時間も掛かっていたけどこういった作業ならすぐだな。今日中にも作業は終わりそうだ。だがその前に、


「それからコイツを埋め込むか挟む込むかできるようにして欲しいんだ。」


 アマザ謹製の珠を取り出す。


「上に穴を開けて落とし込むようにするか?それには穴が開いてるから紐をつければ引っ張り出せるだろ。切れたら板を逆さにすれば済む。」


「それで頼むよ。」


 赤髪亭のような狩人が帰りに集う酒場ほど大きな店でなくても鍋板は多く設置されている。

工術士による異法定着が行われるとその器具に源力が溜まるようになる。鍋板の場合はその源力を消費して火の異法が発現するわけだが炒め物のような短期の使用ならともかく長期に発動させる煮込み料理などをすると蓄えられた源力を使い切ってしまい、翌日まで使えないためだ。

自身が火の異法を使えるため鍋板が要らないアンジェがいてもこの状態なのだ。改善できるならしておきたい。

 以前『遠慮』のメンバーに協力してもらって石を集めた時がヒントになった。

買取課から貸し出される歪門作成機能を持った指輪リングは源力がなくなったも俺の源力を補充すれば使用できた。それなら同じように俺がプールした源力補充装具を装填して源力を消費するような流れをつけてやればいい。俺が源力を込めた珠には勝手に源力が満ちることがない代わりに俺がいればいつでも補充が可能でしかも珠は補充ができる。俺がいなくて珠にプールした源力が尽きても普通に使えばいい。これなら長時間使用しても尽きることはないだろう。


さっさとマリアさんに指定された場所に鍋板を作り終えたカシナータはカゴ台車に乗せていた食器を持ってくる。


「うちは鍛冶が主だからな。ちょっと重いがこういった皿でもいいが使うか?」


 すぐに用意できる皿があればついでに持ってきて欲しいと頼んで持ってきてれたのがそれらしい。


「ふうん、ステンレスに似てるな。 そういや金沢カレーってステンレス皿に盛るんだったな。ちょうどいいカレーに使うか。それと箱を作って欲しい。大小いくつかの箱で蓋は手前に上から落としこむタイプで。」


 こちらでも磁石はあるので日本あっちにある冷蔵庫のような引き戸に出来るのだが蓋と本体の間に使うゴム素材のような緩衝材が硬い。なのでふつうに上から蓋を差し込むスライドタイプのものを作ってもらう。

他の都市にはああいった素材もあるかもしれないがないものは仕方がない。


 蓋部分は着脱するので異法を定着させないが素材からして閉めることで保冷・保温は期待できるだろう。

大き目の箱はアンジェが学校に行ってる時に店で出す氷の保存用で小さいのは急速冷凍用、これは試作だから実際に使えるものになるかどうかは不明。


 スライドタイプの蓋は本体の溝や蓋の直線具合が目測で行うのは難しいと思うのだがそこはプロらしく一気に作り上げた。定規などを当てて調整することすらせず行なっていた。職人ってすごいな。


 そうして次はいよいよ地下の大仕事に取り掛かる。


 カシナータと2人で残りの建材土を担いで降りる。

地下の倉庫は荒らされたといってもそれほど荷物を雑多に詰め込んでいたわけでもないし、使わないでしまっていた食器は今は厨房だ。あとは棚の置き方を帰れば十分なスペースが確保できる。


「まずはすのこだな。」


ここに作るのは冷蔵庫だ。普通の家でも地下は温度が低いので食料の貯蔵に使ってはいるが肉類は長くは持たない。鮮度が落ちやすい野菜も同様だ。

問屋からの納入が改善されないことも見越して1回の買出しで十分な量を買ってくればいい。あとはここで冷蔵するというのが鍋板の新造と一緒にマリアさんに伝えた内容だ。カシナータを呼びつけて仕事をさせたりこの建材土の代金がかかるがそう高額なもんじゃない。俺の勝手な意見を通してるだけってこともあるしな。


「密着させたほうが場所を有効に使えるんじゃないのか?」


 侵入で荒らされた経緯は話してるので地下に箱つきの倉庫を作ると思っているカシナータはそう言ってくる。だがこれは冷蔵庫だ。この実際に作っていないため冷却作用が素材の外側に伝わって結露が生じる可能性があるので風通しを良くしておかねば。


硬化した建材で棒状の板をいくつか並べてから平たくカットされた建材土を使って冷蔵庫、いや、冷蔵室を作っていく。しかしカシナータが持ってきた量では足りず、再度買い足してから漸く完成。


 最初は壁の左右、上下、前後の板をペアとして1日二枚づつ内側へ冷却能力を放出させ、蓄えれた源力がなくなれば別のペアの板から冷却能力を放出。そうすることで冷却能力が途切れずに常に冷えた状態を保てるのではないかと思っていた。

借りにその方法でも冷却能力の源力消費が大きくて1日持たなくても締め切っていればこの素材なら保冷効果も期待できる。それに源力を貯めるなら内部に空間があればより多く溜まることは知ってるのでカシナータに板の内部に空間を作って欲しいと頼んだのだがいくら硬質化しても中に荷物を置くなら強度が心配と却下された。


 そのため厨房に作った鍋板と同じく源力を込めた珠を使うことにして入り口以外の冷蔵室の内部5面から弱い冷却能力を出すことにした。ただ鍋板のように珠を落としこむように作ると紐が切れると取り出せないのと、果たして冷却能力の維持させることにどれくらいの源力が必要かが未知であるので珠は複数装填できるように専用の溝をつけてもらった。


カゴ台車を汗を掻きながら押してきた時はまったく違ってその作業を淡々とこなすカシナータ。これくらい自分の思うように形を変えられるならフィギュアなんて容易く作れそうだ。芸術面の発展が遅いこの都市じゃそんなものは存在していないけれど。


 俺はここで気になっていたことをカシナータに聞いてみる。


「作業しながらでいいから聞いてくれ?」


「なんだ?」


「工術士が異法を付加した器材ってそれに溜まる源力で動くよな?」


「そうだな。」


「で、その器材に源力は宿るが空間があったほうが量が多くなるんだろ?」


「ああ、そういわれてはいるな。だが普通の器材だと特に空間を作ってまで溜まる源力を増やさなくても十分使えるからあまり気にされてないな。」


 そうなのか。オウノじいさんは高位の工術士でもあるからその知識はあるがあまり重要視されていないことなんだな。


「でな? 都市が狩人に貸し出してる指輪リングってあるだろ?中央買取課に繋がる歪門が作れるやつ。」


「あるな。」


「角付きの源力の個人総量が膨大なのは歪門を作るためだろ? じゃなんで器具に溜まった源力で付加された歪門能力を発現するのにあんな小さなもので可能なんだ?」


 手を止めたカシナータはガムも噛むのを止めてこちらを見て応える。


「知らん。 工術士にでも聞けば分かるかもしれんが付加する異法士が都市に囲われている角付きってこともあってあの指輪リングを作るのは都市と契約してるわずかな高位の工術士だけだ。新人狩人に貸し出されないのは指輪リングに異法を付加した空間異法士の源力が使用されるために乱造はできないってことなんだがおかしな話だ。」


「なぜ?」


「確かに現在四六時中繋がってる歪門は「開き続けてる」わけだから異法士の源力を消費するだろうさ。だが外壁を強化した土の異法士や鍋板に異法を付与した火の異法士は別に源力が消費されてないぜ?

体外に放出した異法で土を強化したり、『異法の作用』が鍋板に定着してるわけだからな。 

特に指輪リングなんて狩人が帰るときしか発現されないんだ。おかしいよな?」


「なるほどそうか……」


「だが俺たちにはああいった器具の作成は縁がないさ。理由が別にあるにせよ、それは都市に任せておけばいい。」


 そういって作業を再開。

冷蔵室の表面を綺麗に磨いたあと、さすがにドアのほうがいいだろうと左右にドア二枚が開閉する用に前面につけてもらった。これも保冷を考えて建材土で作ったので蝶番だと重さに耐え切れないため、カシナータが持参した金属を使ってドア板に取り付け、上下にはみ出した棒を本体の上下に固定してドアが開くようにした。


「しかし これが倉庫ねえ? 詳しくは聞かないがお前さんが指定した鍋板の素材と同じもので作ったってことは何かあるんじゃないのか?」


「まあね。」


「これに鍋板みたいに火力の異法をつけて中で憎い奴を片っ端から蒸し焼きで猟奇殺人なんて勘弁してくれよ? 俺までしょっ引かれる。」


「安心しろ。殺したいほど憎いヤツは今のところいない。こいつの用途はそのうちに見せるよ。都市との折衝がうまく行けばな?」


「都市が絡んでるのか。 ま、がんばれや? それで御代はこのくらいで、」


 言い値でチャージしてからすっかり日が暮れた町に出て夕食と銭湯に向かう。

帰ってから更に一仕事。


 すっかり新しい鍋板が並んだ厨房を見物していたアンジェを捕まえて食材がないので鍋板は後回し、先にこいつだと保冷箱や冷蔵室への冷却能力付加に取り掛かった。

しかしアンジェが工術士との連携作業をしたことがないのと冷却能力はどれくらいの強さで器具に作用するのかを検証していたためすっかり作業は深夜を超えて明け方に及んだ。


 おかげでアンジェも俺も目に隈を作って起きてきたがマリアさんから


「昨晩はお盛んだったのねぇ。」


 と分かってるくせにからかわれた。

素直に頑張ったと言って欲しい。

いつもならアンジェは怒って言い返すだろうが今日はそんな元気もないらしい。コーリンからはキツめの視線を浴びることになった。

食材が入ってこないので赤髪亭で朝食はとれない。

北大門 狩人詰所近くにある食堂で朝食を取ってから頭から水を浴びて気持ちを締める。自分の都合でメンバーに迷惑をかけるわけにはいかない。


結局この日は狩りも問題なく、原石をより分けながらメンバー内の念話で昨日のことを話しているとアマザからの一言で重大な事に気付く。


「そういうたらさ、カイルのアレは大丈夫やったん?」




鍋板 火の異法を工術士の力で付加した火力調節ができないコンロ その代わり火力が異なる部分が左右に並べて作られている。



厨房器具作っただけで終わってしまった




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